因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

動物自殺倶楽部第一回公演 『恋愛論』

2022-01-13 | 舞台
*高木登(鵺的/動物自殺倶楽部)作 小崎愛美理(フロアトポロジー)演出 イズモギャラリー 16日まで
 このいささか物騒な名のユニットは、牡丹茶房の赤猫座ちこと鵺的の高木登によって結成された。その経緯などについては高木登のnoteに詳しい。これまでの高木作品観劇記事はこちら→(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21α
 
  地下鉄早稲田駅から夜道を徒歩10分弱。ビルの地下にある「イズモギャラリー」のスペースの半分が演技エリアで、客席は椅子を2列並べたきりのシンプルな舞台である。ワンルームマンションの一室らしい。ソファにテーブル、大きな冷蔵庫、小さなキッチンが付いている。下手のトイレは、開演までは観客が、芝居が始まると、登場人物がトイレとして使う。テーブルには空き缶や空き瓶が散乱し、カーペットにはつまみ菓子のようなものがこぼれており、酒宴のあとらしい気だるい空気が漂う。
 ここはいわゆる「小劇場」業界で活動する俳優の赤井阿智子(赤猫座ちこ)が住む部屋だ。そこへ劇団「シャム猫の夢」主宰の小谷健一(小西耕一/Straw&Berry)がやってくる。と、ソファに寝ているのは劇団「トンプソンズ」主宰の金田浩幸(金子鈴幸/コンプソンズ)、阿智子が寝ていると思いきや、毛布の下から出てきたのはやはり劇団「シメジノヤマ」主宰の野山シメジ(野花紅葉/モミジノハナ)。小谷は「阿智子は自分の彼女。その部屋になぜ君たちが居る?」と問いかけるが、金田も野山も「阿智子は自分の恋人だ」と主張する。が、当の阿智子は「一般人男性と結婚して、役者は辞める」と宣言する。

 上演中ゆえ、書けるのはここあたりまでだろう。三角関係ではなく四角関係、二股どころか四股交際の痴情のもつれを縦軸に、小劇場業界の虚実を織り交ぜながら、登場人物4名の名前は「中の人」芸名のあからさまで半端な捩り、彼らの会話に出てくる業界の劇作家や俳優諸氏は実名が飛び交う。登場こそしないが(出てくるかと思ったくらいだ)高木登は、陰の主役、黒幕のごとく4名を支配し、翻弄する。

 「ルッキズム」についての舞台であると告知されていた通り、愛くるしい阿智子、妖艶な野山は、いろいろな舞台への出演が叶っているのは、この容姿ゆえかと悩んでいる。男性の小谷と金田は、「自分はルックスではなく、俳優として見ている」と主張するが、議論は平行線である。そしてこのあたりで終盤と思いきや、まったく想定外、奇想天外な展開を見せ、オカルトやホラーを超えたブラックコメディの様相を呈してゆく。

  書けるのはここまでと言いながら、結構書いてしまったようだ。激烈な鵺的の舞台に比べると、自虐的な箇所多々あり、どこまで事実かはさておき、暴露的な内容も盛り込めるだけ盛り込まれている。劇作家としての自分を俎上に載せながら、コロナ禍の演劇界を冷徹に俯瞰しつつ、同じ業界の人々と共鳴や協調というより、シニカルな視点で距離を置く。伸び伸びと楽しみながら筆を進めてはいるが、いささか暴走気味でもあり(その匙加減もおそらく計算しての上と思うが)、後半の奇想天外な展開はやや冗長で、好みや評価は分かれるところだろう。
 
 鵺的の『悪魔を汚せ』(初演再演)と『夜会行』は傑作であると思う。しかし毎回血に呪われた一族の抗争劇ではこちらの身がもたず、かといって『夜会行』に落ち着いてしまうと、それはそれで物足りない。観客は身勝手で欲張りなのである。新しいユニット「動物自殺倶楽部」が作り手にとってビタミン剤にも劇薬にもなり、より刺激的で、いろいろな意味で愉快な舞台を創造する場になってほしいと願っている。

 ルッキズムについて書けるほどの見識はないのだが、ふたつのテレビドラマを思い出した。野島伸司の『この世の果て』(1994年フジテレビ)で、元ピアニストの士郎(三上博史)とホステスのマリア(鈴木保奈美)に嫉妬するルミ(横山めぐみ)が「マリアさんのどこが好きなんですか?」と尋ねると、彼は「顔かな」とつぶやく。もうひとつは『花子とアン』(2014年NHK朝ドラ)で、金のために九州の石炭王(吉田鋼太郎)に嫁がされた蓮子(仲間由紀恵)が、「なぜわたくしと結婚したのか」という問いに、石炭王は「顔と家柄だ」と言い放つ。どちらも相手の容貌だけに囚われているのか?違うと思う。「顔が好き」というのは「美しいから好き」なのではなく、もっと相手の深部、魂に触れた実感があるのではないか。相手を可愛い、美しいと思うのと、「顔が好き」ということは、似ているようで違うのである。  
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 国立劇場開場55周年記念 通... | トップ | 壽 初春大歌舞伎 第一部 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事