因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

共同制作『カタブイ、1995』

2024-03-16 | 舞台
*内藤裕子(演劇集団円)作・演出 公式サイトはこちら 下北沢/小劇場B1 18日終了(内藤裕子関連のblog記事→『かっぽれ!』シリーズ4作含むgreen flowers公演の記録、劇団内外作・演出および演出 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13) 
 サブタイトルは「~復帰50年企画・共同制作「カタブイ、1972」につづく第2作目~」である。沖縄の本土復帰をテーマに内藤が三部作を書下ろし、沖縄と東京の俳優陣で上演する企画の第2弾は、米兵3人による少女暴行事件が起こった1995年の沖縄が舞台となる。3月1日~6日まで沖縄のひめゆりピースホールで上演ののち、東京・下北沢でお披露目となった。

 舞台は『カタブイ、1972』と同じ、反戦地主の波平誠治の居間である。あの時とほとんど変わらないように見えるが、正面の仏壇に小さな遺影があり、誠治が亡くなっていることがわかる。23年の年月が過ぎたのだ。
 
 劇中、登場人物が舞台下手に立ち、日本国憲法や日米安全保障条約、そして日米地位協定を淡々と読み上げる場面が幾度となく挿入される。配布された参考資料に目を通しておいたとしても、内容や意味をきちんと理解するのはむずかしい。しかし登場人物の会話が生き生きと面白く、会話に聞き入っているうちに、これらの文言が人々の日々の暮らし、人生にどのような影響を及ぼすのかが炙り出される。

 前作で誠治の娘の和子を演じ、今回そのまた娘の恵を演じる馬渡亜樹は二役ということになり、髪型や服装、口調までも「まさにあの母親にしてこの娘あり」と思わせる。年を重ねた和子を演じる新井純はふんわりと柔らかみがあり、いろいろなことがあって随分丸く穏やかになったが、時おり馬渡が演じた和子のきまじめで生硬な面も垣間見せる。あのときの和子が二十数年を経てここにあることが納得できる造形だ。恵のかつての恋人だった杉浦役の高井康行は、誠実で不器用な人を演じたら天下一品。

 前作で誠治役の田代隆秀がとてもよかったのだが、95歳で亡くなったという設定である。しかし皆の会話から、95歳の誠治おじいのすがたが見え、声が聞こえてくるようであった。

 新たに米軍に使用されている土地の賃貸借契約を結ぶことを勧める那覇防衛施設局員の久保尚子(稀乃)、和子たちの古い友人で既に契約を結んでいる池永茂(花城清長)、恵の娘で琉球舞踊や三線に取り組む智子(宮城はるの)が登場する。亡くなってもなお、その存在が温かく感じられる人と、新しい風を運んでくる人。『カタブイ』の劇世界はいよいよ確かに力強くなった。

 少女暴行事件が大きなモチーフになると覚悟し、「どう出てくるのか」と身構えて観劇に臨んだのだが、賃貸借契約についてのやりとりが序盤から繰り返し続く。「いつ出てくるのか」と不安も感じ始めた後半になって暴行事件が起こる。ここからこの大問題をどうするのか。しかし智子の体験に防衛施設局員の久保を絡ませ、一気に物語を展開させるあたりは、さすがの作劇だ。

 最終作は2025年11月~12月7日、新宿の紀伊國屋ホールでの公演が決定している。タイトルは『カタブイ、2025』。現実の時間と舞台の時間が同じになるわけだ。第2作から30年後の未来の物語である。誠治の家はどうなっているのか、第2作までの誰が生きているのか、馬渡亜樹は第1作で和子、次に恵だったから、最後は智子で母、娘、孫の三代を演じ継ぐかもしれない等々、早くも妄想がわく。また政治家への道を断たれた杉浦がこのあとどう生きていくのか、防衛施設局を辞めた久保もまた然りである。

 物語が過去から次第に現在に進むにつれ、創作はいよいよ難しくなると想像するが、第1作と第2作の手応えがさらに確かで豊かな劇世界へと広がっていくと信じている。あと1年と9か月を心して待ちたい。
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 文学座3月アトリエの会『ア... | トップ | 劇団パラドックス定数 第49項... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事