因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

アロンジ公演 『葉子』

2016-03-02 | 舞台

*金塚悦子作 川口啓史演出 劇場の公式サイトはこちら 座・高円寺1 6日で終了
 アロンジは、俳優のさつき里香、演出家の太田衣緒、劇作佳の金塚悦子によって2010年に結成された演劇ユニットだ。「現役主婦、子育て、介護の体験からの視点を武器に新しい生き方を模索する女性像を照射」(公式ブログより)を目指すアロンジが挑むのは、久坂葉子(Wikipedia)。
  華族の美貌の令嬢で、19歳のときに書いた『ドミノのお告げ』で史上最年少の芥川賞候補になるも、21歳でなぞの自死を遂げた。「彗星のように現れ、闇夜を切り裂き、そしてあっという間 に消えていった」(公演チラシ)女性の物語である。演じるのは松本紀保。

 物語は現在の大みそかの東京で、鉄道の人身事故が起こる場面にはじまる。それも東急田園都市線や山手線など数カ所で同時多発的に起こったというのだ。右往左往する駅員たち。60年前の葉子の飛び込み自殺が現在の日本と交錯する構成に、「よし、こう来るのか」と身を乗り出した。そして特別出演する俳優座の岩崎加根子は、「何十年ぶりに電話をかけてきた女学校時代の友だちから頼まれて、久坂葉子の研究をしている大学院生の孫娘を二晩うちに泊めることになった」老女役で登場する。毎年彼女の大みそか恒例だというおせち料理つくりに余念がない。その孫娘の「すみ子ちゃん」を松本紀保が演じる。「すみ子」は久坂葉子の本名が「川崎澄子」であることの投影であろうか。

 師である島尾敏雄へ激しい恋情をぶつけながら、俳優である恋人とも逢瀬を重ねている。父は華族の誇りが強いあまり、現実を見据えられず生活に困窮し、母はあやしげな新興宗教にのめり込む。島尾への愛は受け入れられず、恋人にも捨てられる。小説執筆にも行きづまってゆき・・・と葉子が次第に追いつめられる様相が描かれる。松本紀保は実年齢は40歳を過ぎているはずだが、手足の長いすらりとした肢体や、すっきりした顔立ちに清潔感があり、澄んだ声の台詞も明確で、21歳の葉子を演じて違和感がない。

 いよいよ葉子が死を決意して阪急六甲駅に足を運ぶ。駅前の屋台であろうか、大みそかにあとひと稼ぎしたい人々が、父や島尾、恋人に見えるところや、終幕、老女が実は・・・、そして大学院生のすみ子が実は・・・となる趣向など、60年前の神戸と現在の東京と、葉子を通して時空が交錯するこの劇の構造としてはなかなかおもしろい。しかし劇作家が心に抱いているであろうイメージと、それを立体化する演出家の意図がどこかずれているというのか、客席の心をぐっと掴むところに至らない印象だ。老女とすみ子が向き合う場面で、老女は割烹着を脱ぎ、「あたし、葉子だもーん」(こんな口調でした)と明かす場で、自分は大いに困惑した。何もいかにもな「決め台詞」や、音楽や照明で盛り上げてほしいわけではないが、この台詞と演出ではベテランの岩崎加根子をもってしてもどうにも決まらなかったのが残念であった。

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