因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

燐光群『戦争と市民』

2008-11-23 | 舞台
*坂手洋二作・演出 公式サイトはこちら 下北沢ザ・スズナリ 12月7日まで その後全国ツアーあり
 ベテランから中堅、若手まで幅広く重厚かつ新鮮な客演陣を迎えて、坂手洋二が「戦争」「市民」の概念を洗い直そうとする新作である。今年スズナリに行くのはおそらくこれが最後になるだろう。気合いはあるのだが、連日の睡眠不足とうっかりの直前昼食食べ過ぎで体調は万全とは言えない。しかも本作は2時間35分ノンストップだという。耐えられるだろうか。

☆始まったばかりの舞台です。このあたりからご注意を☆



 
 昔から捕鯨で栄えてきた「鯨丸」という町が舞台として設定されている。町で鯨料理店を営むヒサコ(渡辺美佐子)は、崩壊していたと思われていた防空壕が形を留めていたことを知る。甦る戦争中の記憶。折しも町では捕鯨を巡ってさまざまな政治的思惑が激しく交錯する。

 まず今回の舞台装置がおもしろい。床は舞台前に向かって傾斜しており、壁も床も朽ち果てそうに古びた板が打ち付けられている。冒頭、ヒサコが妹(田岡美也子)や捕鯨船の船長(児玉泰次…幼なじみの鴨川てんしだったかもしれない。すでに記憶が…)と防空壕に忍び込んでくる場面から始まり、場面が変わるとそこはヒサコの店にもなり、捕鯨船の甲板や海を見はらす高台にもなる。
 戦争を体験したヒサコが、その事実を風化させないために防空壕を保存したいという思いを縦軸に、捕鯨を巡って土地者ではない市長(大西孝洋)や次期市長を狙う議員(吉村直)、捕鯨業に携わる人々の思惑のぶつかり合いを横軸に、謎めいた旅行者(いずかゆうすけ)やジャーナリスト(佐古真弓)、市長とヒサコの亡くなった息子の妻(河野しずか)の密やかな愛が絡む。

 一杯道具の舞台装置のなかで時間や空間を行き来する作りは珍しくないと思っていたのだが、今回改めて、この手法を自在に使いこなすには、作劇において相当な筆力と舞台装置の工夫、俳優の力量がないと難しいことを実感した。手法に溺れず酔わず負けない力、手法に必然性を示せる力が必要なのだ。とにかく舞台から得体の知れない、ものすごいエネルギーが発せられていて、眠いとか疲れたなど半端な気持ちはぶっ飛ばされてしまう。爆睡の予感は杞憂に終わった。2時間35分ノンストップ、大丈夫です。

 ヒサコが次期市長選に出馬するという流れにもう少し説得力が欲しいし、大丈夫ではあるがスズナリの客席で2時間35分の上演時間はやはり長い。言いにくいのだが『戦争と市民』というタイトルもいささか凡庸に思える。本作はスズナリでの上演ののち、国内5カ所のツアーが控えている。短い期間に場所をかえて上演を重ねるごとに、舞台が変化していくことだろう。関西在住の友人に、この舞台のことを是非伝えたい。
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