「八日目の蝉」(角田光代、2007年、中央公論新社)
角田光代の小説を読んだのは「対岸の彼女」以来である。
二世代にわたる女性主人公が、他人と外界をどうやってつかみ、自分の目で足で生きていくか、それを今回は少しサスペンスタッチで描いている。
誘拐、カルト集団まがい、こういったものを扱いながら、そんなにおどろおどろしくならず、読み進められるのは、しっかりした細部描写と、そろそろというところでなされる巧みな場面転換だ。
巷間で言われるほど、読んでいって最後で一気に打たれるというほどではないけれども、後味はいい。少し前にもしやと想像する、安っぽい展開からは逃れている。
これまでがどうあれ、人は生きていく、生きていけるという結末にどうやってたどり着くか。その過程で、自分の生まれ、境遇、家族をどう受け入れるか。
考えてみれば、近代の小説でも大きなテーマであったはず。
気になるのは、男はどこにというこ。二人の主人公の相手の男性は、後の世代の相手との会話が少しあるだけで、その人を描いているというほどではない。
そういう疑問をもし作者にぶつけると、男にしゃべらせてもたいしたことは出てこない、と言われそうだ。それはそうかもしれない。
こっちが男であるという意識を忘れて、読めばそれでもいいのだろう。
(蝉(せみ)の字は、つくりの上部が口ふたつ)
「ナイトミュージアム」(Nisht At The Museum、2006、米、108分)
監督:ショーン・レヴィ、脚本:ロバート・ベン・ガラント、トーマス・アレン
ベン・スティラー、ディック・ヴァン・ダイク、ミッキー・ルーニー、ビル・コックブス、カーラ・グギーノ、ジェイク・チェリー、ロビン・ウイリアムズ、オーウェン・ウイルソン(クレジットなし)
離婚してたまに息子に会える男(ベン・スティラー)が苦し紛れの就職先として選んだのがニューヨークの国立自然史博物館(だそうだ)の夜間警備員、やってみると展示物が夜にだけ生命をえて勝手に動き出す。
息子にそれを見せてやりたく、夜になるのだが、その背景にはちょっとした悪だくみがあって、それと闘いながら、最後はこれらの要素を全部駆使したスペクタクルが待っているという話である。
話は常套的だが、それでも展示が動き出すとそれなりに楽しい世界が現出する。このままシュールな味わいをもう少し続けてほしいというところで、話はミステリーの解決に向かってしまい、ちょっと残念。
ベン・スティラーにしては、そんなにどじでもなく、しょぼくれてもいないが、それはご愛嬌である。
話はたわいなくても、それなりに不思議と最後まで見せる娯楽映画であった。
ベン・スティラーと大の仲良しのオーウェン・ウイルソンが、ああやっぱり出てきたといった感じで登場し、少しはキーとなる役割を演じている。それでもクレジットなしというのは、出演料が只ということなのだろうか。