メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

リムスキー・コルサコフ「金鶏」

2022-06-17 14:42:22 | 音楽一般
リムスキー・コルサコフ: 歌劇「金鶏」
原作;アレクサンドル・プーシキン
指揮:ダニエレ・ルスティオーニ、演出:バリー・コスキー
ドミートリ・ウリヤーノフ(ドドン王)、ニナ・ミナシャン(シェマハの女王)、アンドレイ・ポポフ(星占い師)、マリア・ナザロワ(金鶏(歌))
2021年5月18、20日 リヨン国立歌劇場  2022年6月 NHK BSP
 
おそらく民話をもとにしたプーシキンの原作だが、それをどう料理したのか。帝政ロシアがもう末期になり、日露戦争に破れ、当局にかなりいじられ、初演は作曲者(1844-1908)の死後1909年だったようだ。
 
横暴なドドン王が星占い師から得た金鶏の鳴き声に従い、多くは「何もしないで寝れおれ」ということになる。隣国との危機も意見が違う二人の王子にはさまれているうち、二人を処分してしまうと、現れた異国の女王のえんえんときかせる物語のなか、二人は一緒になりそうになるが、現れた星占い師が女王をよこせとなり、最後はどたばたとして終る。
 
近代の緊張したドラマにはならず、要所要所でなにかいい加減I(に見える)進行があるが、そこは音楽が主役のこの作品、はじめて見たが、まずまずの面白さであった。
ウリヤーノフのドドン王、なぜか貧乏くさい下着の上下、舞台は草が伸びた荒れ野で、金鶏も滑稽、女王だけはきれいな衣装。
ロシアオペラの常でドドン王はバス、女王の長い歌唱は聴かせどころが多く、ミナシャンも見事だった。
 
帝政であればこのくらいの話が出てきたからといって、そう取り締まられることもないとは思うが、初演前の版はちがっていたのだろうか。
 
これフランスのリヨン歌劇場で、どうして目をつけたのか、リムスキー・コルサコフはおそらくラヴェルとならんで近代オーケストレーションの大家だから、そのあたりからの興味だろうか。たしかにオーケストラ部分は素晴らしい。
 
先日のラヴェル「子どもと魔法」からすると、もう少し映像、照明に工夫してもよかったのではないか。あとバレエのレベルがいまいち。
 
これ、昨年の上演だけど、今年ロシアがああなってからであれば、どう受け取られたか。
ロシア、ソ連からは、ときどきl表面的にはなにか変なというかとんでもない作品がでてきていたのが、面白い。


 

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21世紀のBUG男 画家 大竹伸朗  

2022-06-13 14:08:48 | テレビ番組
21世紀のBUG男 画家 大竹伸朗
NHK BSP のドキュメンタリー番組(90分) 2022年6月10日
 
よくもこれだけ大竹に密着してあの破天荒な創作を記録してくれたものだ。BUGとは虫だが、~狂という意味もあるらしいし、プログラムの虫にかけてもいるらしい。
  
さて私にとって大竹伸朗(1955-)は2006年末に評判になった回顧展(東京都現代美術館)ではじめて知った。現代アートといっても、見てあるいは頭の中にイメージしてそれを表出するというのではなく、そうかといってアクションペインティングともちがう。何か得体のしれないといっても目についた、面白そうだと思ったモノを並べたり張りつけたり、それにさまざまな塗料、液体をぶつけたり、そしてやりながらそのプロセス、結果(?)を見ていく(?)とでもいうもの。展示会場で本人はちょうどその時ギターを弾いていた。
 
珍しいし、ショックもうけたが、ショップに図録はなく、たしかそれにかわるスクラップを反映したなにかが少しあとに出てくるので予約(?)があったかなかったか、とにかくそのままになってしまった。少し後にこの人のエッセイ集「ネオンと絵具箱」が出て、どんな人か多少わかってきたが。
 
さて、今回はこれまでの経過、関係者によるコメント、評価の中で、今秋の展覧会の中心になる大きな絵(?)の製作過程を当人のつぶやき、解説を交えながら記録していったものである。歳を経たからか、本人の少し親切な説明もあるが、その一挙手一投足はどぎもを抜かれる。それでもこれ使えるかもと置いてみて、張り付けてみて、それを刻んだり、他のものを張り付けたり、いろんな液体や、塗料、接着剤を流し込んだり、、、ただこれが大竹がいうようにさらにやるか、ここで一旦止まってみてしばらくして対象からなにか受け取ってみるか、、、など、だんだんアートの本質はこういうところにあるかもしれない、とおもわれてきた。

これまでになかったような現代のアーティストに密着したドキュメンタリーを企画することについてはいろいろ意見もあろうが、少しは理解が進むと考える。
これまでも草間彌生、横尾忠則などあり、意義があったと思う。


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庄野潤三「プールサイド小景・静物」

2022-06-08 15:17:31 | 本と雑誌
プールサイド小景・静物: 庄野潤三 著 (新潮文庫)
昭和25年(1950)~35年(1960)の間に書かれた代表的な七つの中短編を収めたものである。
特に評価できないものについて書くのは気が進まないのだが、この作者の長編「夕べの雲」(1965~1,965)について書いた流れでこれを読んだので、一応記しておく。
 
勤め人の家庭を中心に描かれていて、特に「蟹」、「静物」では後の「夕べの雲」に通じるエピソードのいくつかが見られる。
読んでいて参ったのはまず「舞踏」、「プールサイド小景」で描かれる家庭、というよりその主人公の行動と内面の貧乏くささとでもいったらいいだろうか。こういうこと書かれても、でどうなの?、妻以外の女性との話もあるのだが、たいしたこととは読み取れない。死を暗示するラストもあるが、描ききっていないことが効果的な場合があるにしても、ここではそうでない。
 
著者はいわゆる「第三の新人」の一人らしいが、たしかに江藤淳などが評価したように戦後派の何人かの有力作家たちの前のめりな作風とは違ったところが幾分ある。私もその前のめり感は嫌いである。
それでも、それならこの貧乏くさくもあれ、穏やかでもあれ、こういう感じで作品として読んで何か残るものがあるかというと、そうはならない。
 
それから、文章の細かいところに違和感があるところが少なからずあった。前後がわかりにくかったところのほか、表記として「居る」、「行く」など生き物の動きでない場合でも漢字を使うのであるが、あの時代そうなのか。
これら、編集・校正のレベルが低い出版社ではないはずだが。
 
「プールサイド小景」は昭和29年(1954)に芥川賞を受賞している。変な言い方だし、ずいぶん前のことでいろいろ経緯はあるだろうが、これでは太宰治が気の毒である。少なくとも太宰の文章は格段に上等であった。




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ラヴェル「子どもと魔法」

2022-06-04 09:50:28 | 音楽一般
ラヴェル:歌劇「子どもと魔法」( L'enfant et les Sortileges)
台本:コレット夫人
指揮:ティトゥス・エンゲル、演出:ジェームズ・ボナス、イラスト・アニメーション:グレゴワール・ポン。美術・衣装:ティボー・ヴァンクリーネンブルク、照明:クリストフ・ショパン
クレマンス・プッサン(子ども)、クレール・ガスコワン(母親、中国茶碗、トンボ)
2019年11月14、15、19日 リヨン国立歌劇場  2022年5月 NHK BSP
 
ラヴェルはオペラとしては「スペインの時」と「子どもと魔法」の二つだけしか書いていない。
「子どもと魔法」はアンセルメ指揮スイス・ロマンドのレコード(1954年録音)を聴いたことがあり、今でも持っている。おぼろげな記憶では音楽は劇的だがしゃれていて、音は美しいが、なにしろ歌詞というか台詞が早くて対訳を追いかけるのも大変だった。
 
今回こうして初めて映像で見ると、これはやはり聴くだけでは理解できないなと思った。
登場人物は子供と母親以外はほとんど動物や家具、食器などで、それらが子供に普段邪険にされていてこらしめようという流れである。
  
本来バレエが組み合わされているらしいが、今回は見せ方としては映像、影絵など、それも音楽とうまくシンクロしていて、飽きずに見ることができた。この映像技術はなかなか大したもので、番組でこの次にあった「ピーターと狼」(プロコフィエフ)もそうだけどフランスのセンスと技術は素晴らしい。
 
おそらくアニメ「王と鳥」(やぶにらみの暴君)あたりから続いているのではないだろうか。ディズニーとはまったくちがうセンスである。
もっとも食器が出てくるとこれは「美女と野獣」を思い出した。

詳細な評価は出来ないが、いずれ再度見てみようと思っている。むしろその時はラヴェルの音楽をもっとよく聴いてみよう。
 
一つ、昔聴いた時から記憶にあるのだが、台詞の中に「ハラキリ、雪洲、早川、、、」(発音はこのまま)とある。台本が書かれたのは1910年代、アメリカ、フランスと活躍していたこの人にエキゾチックな面白さを感じていたのかもしれない。
 

 


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