メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

武井武雄 展

2024-08-01 09:23:51 | 美術
生誕130年 武井武雄 展 ~幻想の世界へようこそ~
          目黒区美術館 7月6日ー8月25日
 
武井武雄(1894‐1983)という画家については、童画で評価が高いということぐらいしか知っていなかった。何かの機会に少し見たことはあったのだが。
 
東京美術学校で錚々たる教師に洋画を習ったが、児童雑誌「赤い鳥」が1918年に創刊されるなどの潮流の中だろうか、その挿画を物語の添え物という位置づけから高いレベルにもっていく創作活動を始めた。「童画」はこの人の造語だそうだ。
 
版画やデザイン画もふくめかなり多くの作品が展示されており、幅広い活動ぶりを見ることが出来た。そのなかで収録されていた雑誌名に「キンダーブック」、「チャイルドブック」が多くあった。これらは私が幼いころ確かに眼にした記憶があるが、こんなに大人びた表現があったという記憶はない。ずいぶん本質をついたというかいじわるなところもあって、これその後の絵本につながるというよりは大人むけのイラスト特に宇野亜細喜良あたりに連なるような気もする。
 
童画といってほのぼのとしたというだけの感想をもつのは単純すぎるということだろうか。多くの人と武井の関連図にせなけいこ(切り絵絵本作家)を見つけなるほどと思った。彼女の鋭いちょっと意地悪なそして本質をついていてしかも絵本らしくうまく結ぶという作風の底に武井がいるのだろう。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三島喜美代 未来への記憶

2024-07-02 17:23:38 | 美術
三島喜美代 未来への記憶
  練馬区立美術館 5月19日(日)~7月7日(日)
 
この展示会の予告まで三島喜美代の名前を知らなかった。扱う対象がチラシだったりゴミだったりでかなり前衛的なのだろうが見に行く気にまでなっていなかったが、日曜美術館アートシーン(NHK)を見て内容そしてご本人のトークなど、これは是非にと最終週になったが見ることにした。
行ってよかったと思う。
 
三島喜美代は1932年生まれだが、最近の映像でみてもトーク、表情は明確で年齢を感じさせない。
初期の絵画を見ると、確かに写実ではないが、抽象も立体的なものがあったり、コラージュもシャープである。
 
新聞や雑誌の中の記載を彼女が作る陶器に移したさまざまな集積、塊が数多く並んで出てくる。その量、エネルギーが、少数の作品を見るよりやはりこうしてこの数量を並べて見ると印象はちがってくる。それにしても予想以上に大きなものがある。
 
缶飲料の飲み終わった容器を集めて何かということを考えた人はいたかもしれないが、この人はそれをすべて陶器で作った(口があいてつぶされた)ということで強い印象が残る。
 
最後の一部屋に様々な新聞記事などが転写されたレンガ(状のもの)を敷き詰めた巨大なインスタレーション(20世紀の記憶)はすべてを詳細に見ることは実際不可能でも、それまでの三島の作品たちとその軌跡を見れば、しっかり受け止められるものであった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

洋風画という風(板橋区立美術館)

2024-06-14 18:13:26 | 美術
洋風画という風 近世絵画に根づいたエキゾチズム
板橋区立美術館 5月3日~6月16日
 
日本絵画において西洋風の陰影法や遠近法といった絵画技法を用いた「洋風画」から成るコレクションがここに寄託されており、今回はこれをまとめて展示したもの。
 
多くは1800年前後で、さまざまな形で入って来た西洋風の描き方、見方がなかなか面白い。いままで見たことがなかったものも多く、私が知っている作者は司馬江漢くらいだが、この人についてもこうしてまとめて見たことはなかったように思う。
 
いわゆる日本画的なものの流れに、明治からそれこそ近代の洋画的なものが入ってきたように思っていたが、こうしてみるとあの高橋由一の「鮭」も突然現れたのではないのだろう。
 
技法以外にも風景や人間特に男女など複数の対象に対する見方、そこにはかんぐり的なものもいろいろあって面白い。
中には後年横山大観や菱田春草を教えた人もいたようだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京国立近代美術館 所蔵作品展

2024-04-26 17:32:09 | 美術
所蔵作品展「MOMATコレクション」
東京国立近代美術館
2024年 4月16日(火)ー8月25日(日)

ここの所蔵作品展が年3回ほどで展示替えという形になって数年になる。以前はどちらかというと常設展という感じで定番、眼玉というものをいつでも見ることが出来ると感じたが、新しい形(シリーズ)ではより新しい収蔵品、中にはかなり前衛的なものなどを見ることができる。
そんな中、しばらく見ていないでやはりまた見たいというものもかなり溜まってきたが、その中には先日のシュルレアリスム展でなつかしかった靉光などがある。
 
その点今回は多少もとにもどってという感はあり、たとえば村山槐多「バラと少女」、関根正二「三星」、梅原龍三郎「黄金の首飾り」、長谷川利行のいくつもの傑作など、なつかしく楽しんだ。
またいつも感じるが、ここは戦争画をい多く所蔵しており、毎回いろいろ見せてくれて、見る方もレベルが上がってくるように思える。
最初にある加山又造「千羽鶴」の細密な美しさとスケール感も見事。
 
ここの所蔵作品展を見ていると20世紀前半あたりのアートたちが私に何をしてきたか、作って来たとはいわないが、確かに私の中にあるという感がすることが何度もあった。

贅沢をいえば、かなり昔(?)のようにいつ行っても大観の「生々流転」を端から端までゆっくり見られることはないのだろうか。

全体の展示期間はかなりあるし、料金の心配もないので何回かにわけて行く、あるいは目をつけたもの中心に再度訪れるということを考えてもいいけれど。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

池上秀畝 展(生誕150年)

2024-04-11 18:13:06 | 美術
池上秀畝 展 高精細画人 生誕150年
 3月16日~4月21日  練馬区立美術館
 
池上秀畝(いけがみ しゅうほ)(1874-1944) は日本画家であるが、これまでその名を全く知らなかった。解説によれば菱田春草と同年、同じ長野県の生まれだが、伝統的な日本画に秀で、官展を中心に評価が高く相応のところに買い上げられたが、いわゆる旧派とされ、春草や横山大観などの日本画新派のように一般の鑑賞者の世界には知られなかったとも言えるらしい。
 
かなりの数の花鳥画を中心とした展示を見ると、高精細ではあるがスタティックというか主張は抑えられているといえる。もっともこの分野ではそうはっきりした主張はこの時代あまりなかったともいえるが、それでもどこか静かすぎないかとも感じた。
 
伝統的な日本画は手本を正確にうつすことからはじまるそうだが、そこにとどまっていられないところから大観、春草などの朦朧体も出てきたかということは想像できた。
 
こういう旧派、なかなか入っていけないが、池上秀畝はひそかに西洋画も多少勉強し、これまでにの日本画とはことなり「写生」を重視したそうである。たしかに「桃に青鸞」、「四季花鳥図」などは写実の粋ともいえる。
ただ同じ鳥の絵でも若冲は「写生」ではないのだろう。おそらく飼っている鶏を毎日注視しているうちに頭の中に完璧な像を作り上げてそれを描いた、描いているうちにそれが出てきたということだろうか。

一方、秀畝は博物館で鳥の剥製を長時間かけ克明に写生したことがあったそうである。
 
大作「神風」(1943)は蒙古襲来を題材にしており靖国神社に奉納されている。この画人、そういう厳しい時代に生きたのだろう。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする