ドニゼッティ: 歌劇「ドン・パスクワーレ」
指揮:ジェームズ・レヴァイン、演出:オットー・シェンク
ジョン・デル・カルロ(ドン・パスクワーレ)、アンナ・ネトレプコ(未亡人ノリーナ)、マシュー・ポレンザーニ(パスクワーレの甥エルネスト)、マリウシュ・クヴィエチェン(医者)
2010年11月13日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2012年1月WOWOWで放送されたもの
この作品、ムーティ指揮のLPレコードを持ってはいるのだが、聴いた記憶がない。多分一度だけとにかく聴いてあとは放っておいたのだろう。
ただ、今回のように映像で楽しむのと違って、特にコメディはその良さは録音だけではわからなかったかもしれない。上記のような達者な4人を存分に活躍させれば、ばかばかしい筋でこれだけで長い音楽に出来るものでなくても、歌手も観客も歌と演技をとにかく楽しめる。
年寄のやもめで金持ち、強欲、好色なパスクワーレ、その甥エルネストは未亡人ノリーナと結婚したいのだが、パスクワーレはそうしたら遺産はやらないと許さない。一方パスクワーレはかかりつけの医者に、嫁探しを頼み、甥と仲いい医者は一計を案じ、未亡人の素性を偽り、パスクワーレの結婚相手にしたてる。
そのあとのどたばた、最後にパスクワーレが懲らしめられて、めでたしめでたしとなるのはおきまりといえばおきまりである。
歌手の4人はみな達者で、パスクワーレのカルロは体躯も大きく、わがままだが能天気で憎めない明るいキャラクターがぴったり、医者も甥も声がよく、たっぷり聴かせる。
しかし、なんといっても満場の歓心をさらってしまうのはアンナ・ネトレプコのノリーナで、天然の色気がすばらしく、舞台狭しと飛び回り、先のジュリエット役と対照的である。どうもこっちが普段の本人のようだ。
そんなにしても驚異的なスタミナで歌唱が乱れないのはジュリエットの時と同様である。
ラブシーンで二人が見つめあいながら、口を近づけて、大きな声ですばらしいハーモニーになるのは、これぞメトのそしてビデオの愉悦だろうか。
それにしても、ジェームズ・レヴァインという人は、オペラならなんでも、ワルキューレからパスクワーレまで、聴くものに幸福を与えてくれるすごい人である。
いい意味で、こういうお金をかけて世界中の多くの人たちを楽しませようというメトロポリタンにぴったりな、不世出の指揮者ではないだろうか。
あと、こういう強欲、好色な初老のやもめ、このあともファルスタッフ(シェイクスピア/ヴェルディ)、オックス(ホフマンスタール/リヒャルト・シュトラウス)とあるわけだが、見る限りみな立派な体躯の人が演じるようだ。いじめる相手は大きい方がいいということか。
あとひとつ、最後から一つ前の場が終わるところで、パスクワーレと医者の見事なかけあいがあり、拍手がわくと、またオーケストラが始まりその部分のアンコールとなった。こういうことはあって不思議はないけれど、実際に見たのは初めてである。
このようにメトロポリタンの一番良い面が出た演目であった。