メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ドガ展

2010-11-26 22:27:45 | 美術

ドガ展」(横浜美術館、2010年9月18日~12月31日)
 
オルセー美術館改装のため、なかなか出せない名画「エトワール」を中心とした展示が出来たのだろう。
エドガー・ドガ(1834-1917)のここにある120点ちかくを見ると、この人にはあまり完成までもっていかなかった作品が多いようだ。
その中では、やはり「エトワール」そして案外彫刻の完成度が高いと感じられた。

 
「エトワール」、この意外に小さい絵は、ドガがバレエの世界を描いたもののなかでも別格である。もちろん、ちょうど着地した瞬間をとらえた着想とその表現、有名な背後に半身をのぞかせているパトロンらしき影、そういうものも見事だけれど、あっと感じたのはこの舞台のそして絵そのものの「光」である。近づいていったとき、これは絵でなくてバックライトのある液晶画面かと思ったくらいだ。
 
これに類した体験は速水御舟の「炎舞」くらいだろうか。
 
彫刻で生前発表された唯一のものといわれる「14歳の小さな踊り子」は50センチくいらいのものだが、いまにも動き出しそうだ。
そしいくつもの小さいバレエのポーズは、確かブリヂストンにも何かあったと思うけれども、さすがバレエを長く観察していただけあって、例えば二体展示されていたアラベスクなど、身体のバランス感が見事である。


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エレーヌ・グリモーのモーツアルト・リスト

2010-11-21 21:50:13 | 音楽

モーツアルト:ピアノソナタ 第8番イ短調 K.310
ベルク:ピアノソナタ op.1
リスト:ピアノソナタ ロ短調 S 178
バルトーク:ルーマニア・フォーク・ダンス BB 68
エレーヌ・グリモー (ピアノ)
2010年録音 DG

今度の録音は? K.310?! 期待したけれど心配でもあった。モーツアルトでこれを弾いてしまって変に出てしまうと、少なくとも私にとっては彼女のレパートリーとして台無しになってしまうのだけれど。この有名な傑作、大ピアニストもあんまり録音していない。
 
さて音が出てくると、最初のフレーズ、こんなに表情つけたっけ、でも進んでいくうちにピアニストの、変な言い方だが、内的なインテンポ、つまり聴いてるこっちに一度入ってきてから納得できるテンポ、それが続いていって、つかんで離さないという見事な進行、1楽章が繰り返しに入ってくると、、、そう1楽章で泣けてくるというのはめったにない。
こうなれば、もう作曲者が見事につなげた2楽章、3楽章が悪いはずはない。
 
この曲、もう40年近く前からしばらく、あの晩年のリパッティのモノラルが一番のお気に入りだった。さてとレコード棚を探して取り出し、かけてみると、まずかなり早いテンポ、そして繰り返しが省略されているのか、あっという間にフィナーレになってしまう。昔は録音媒体の時間を考えて録音ではこうしたんだろうか。それでも緊密にまとまった感じはあるけれど。 
 
最近に発見されて発売されたグルダもいいけれど、全体の中でK.310だけテープの状態が悪いようで、グルダ本人もこれでいいと思ったのだろうかは疑問あるところ。
 
次のベルク、これをここに置いたのはセンスがいい。何か曲想も連続性を感じるし、こうしてみるとK.310は新しい。
 
そしてリスト、グリモーならこの曲を楽に弾くテクニックはあるだろう。この曲の技巧を全面に出すよりはむしろリリックな面をじっくり聴くことができる。それでいてことさら無理にロマンティックというのでもなく、30分近くある単一楽章のソナタを初めてといっていいくらい楽しんで聴いた。
 
この曲をベルクとバルトークで挟むというのも、地域性もさることながら、面白い。
 
年末までこのアルバムを何度も聴くだろう。贔屓ということもあるけれど、今回はそれだからいち早く楽しめたという恩恵。
 
ところでアルバムには「レゾナンス」というタイトルがついている。なるほど。
前に「リフレクション」とうのがあり、シューマン夫妻、ブラームスの曲からなっていて、こっちはちょっと意味深。


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デジタル時代の著作権 (野口祐子)

2010-11-09 21:21:13 | 本と雑誌

「デジタル時代の著作権」 野口祐子著 ちくま新書 (2010年)
 
このデジタルとインターネットの時代における著作権および著作権法について、その全貌とそういう時代であるがゆえに生じてきた問題、その解決への試みと難題、望ましいありかた・提言について、過不足なく、しかも一般の人にわかる形で書かれた、優れた本である。これだけのものはこれまでなかった。
 
著作権とは何か、現代における問題についての前半は、入門書としてじっくり書かれている。そして後半は、問題に対して、いくつかの方向性と取組みの事例について、また著者がこうあるべきと考える形について、充実した著述となっている。
 
特に後半は、これだけ法律家が情熱をもって信じるところを書いたものはこれまでなかったものだろう。しかも著者の師であるローレンス・レッシグ最近の著書「REMIX」が短い口述のようなものの集合で過激なのに比べて、丁寧に諄々と説くトーンになっているのは賢明である。
 
著者が我が国にクリエイティブ・コモンズ推進の中心にいることを知っていなければ、途中までは中立的な記述に見えるであろうが、そのあとは、著作権とは本来何であり、どうあるべきか、それが本来目的の一つとしている創作のインセンティブとの関係でこのままでいいのか、そういう問いに関して、特に終章はうたれるものがある。
 
その上で、あえて注文をつければ、著作権問題の入門書として初めて読む本としては、絵もほとんどなく、通俗的な分野の事例をもとにしたわかりやすい説明が少ない。もし勉強したいけれど何を読んだらときかれたら、まずは先に紹介した、著者とほぼ同じ立場に立つ福井健策氏の「著作権の世紀 - 変わる「情報の独占制度」」を読んで、その後に本書を読むことをすすめたい。専門家でなければ、まずはそれで充分であろう。
 
もう一つ欲ばりをいえば、本当はこの本、2年くらい前に出してほしかった。日本社会におけるクリエイティブ・コモンズの認知、そしてその伸長という見地からは。


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