メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ボロディン「イーゴリ公」(ボリショイ劇場)

2014-03-25 09:43:00 | 音楽一般

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」

指揮:ワシーリ・シナイスキー、演出:ユーリ・リビューモフ、振付:カシヤン・ゴレイゾフスキー

エリツィン・アジゾフ(イーゴリ公)、エレナ・ポポフスカヤ(イーゴリ公の妻ヤラロスラーヴナ)、ロマン・シュラコフ(イーゴリ公の息子ウラディーミル)、ウラディーミル・マトーリン(ヤロスラーヴナの弟ガリツキー公)、ワレリー・ギリマノフ(コンチャク汗)、スヴェトラーナ・シロヴァ(コンチャク汗の娘)

2013年6月16日 モスクワ・ボリショイ劇場 2014年3月NHK BS

 

全曲を聴くのも見るのも初めてである。舞踏の場面の音楽だけは有名だから知っているが。

 

ロシアと東の騎馬民族ポロヴェツ(以前は韃靼と言っていたものか?)との戦いの叙事詩が題材で、人間同士の葛藤はどちらかというとあまり掘り下げた形にはなってない。それからボロディンは完成前に死んでしまったらしく、その後リムスキー・コルサコフとグラズノフの手によって完成されたらしい。

 

イーゴリ公と息子は汗にとらえられ、妻はそれを嘆き帰還を願う。息子は汗の娘といい仲になり、公は脱出し、汗はまたロシアに攻撃をしかける一方で彼を婿養子扱いにする。公と妻が再会したところで終幕となるのはドラマとしては物足りない。おそらくボロディンはそのあとも考えていたのではないだろうか。

 

とはいえ、音楽に手抜きはなく、細部まで充実している。特に妻のいくつかのアリアはポポフスカヤの歌唱とともに深い印象が残った。この人は純度の高い声でありながら強い表現もうまいし、姿も素敵で、この公演の華といえる。

 

他の人たちは現在のロシア系オペラ歌手の充実ぶりを反映したもの。

 

前半のポロヴェツ人たちの宴で演じられる「ポロヴェツの娘たちの踊り」(以前「韃靼人たちの踊り」といわれていたもの)はかなり長い大規模なもので、このオペラの見ものの一つになっている。

 

ところでこの音楽は若いころからよくきいていて、今でもプロムナード・コンサートなどでよくやられるし、先のソチ冬季オリンピックでも耳にした。

1960年代、ラジオではオーケストラによるムード音楽が人気になっていて、この曲は「ストレンジャー・イン・パラダイス」という名前だった。ミュージカル「キスメット」の中で使われたためらしい。特にマントヴァーニ楽団によるものが有名。マントヴァーニのが発明した(?)カスケード・サウンド(滝の流れ落ちるような)とよばれるストリングスは一世を風靡した。


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マリーゴールド・ホテルで会いましょう

2014-03-18 22:14:38 | 映画

マリーゴールド・ホテルで会いましょう (The Best Exotic Marigold Hotel、2011英・米・UAE、124分)

 

監督:ジョン・マッデン、脚本:オル・パーカー

ジュディ・デンチ、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、マギー・スミス、デーヴ・パテール、テナ・デサエ

 

老後を過ごすのに最適のリゾートとの宣伝を見て、イギリスの男女7人がインドのマリーゴールド・ホテルにやってくる。ところがきいていたのとは様子が違い、つぶれそうなホテルを若い息子が口八丁でそういうイメージを作り上げ、一旗あげようというものであることがわかる。

 

落胆する彼ら、しかし時が経つにつれ、このインドの風土が彼らを少しずつ馴らしていき、彼らも仕事を探したり、昔ここであった縁を訪ねたりと、どたばたしながら過ごし始め、その一方でホテル側の青年も、恋人との仲で苦労しながら、いいかげんさをイギリス人や観客に見せながら、やっていくのだが。

 

ついにホテルはつぶれ、閉鎖?というところで、さて、、

 

老人たちはここで何かを見つけていく。劇的ではないにしても、そのひとつひとつのエピソードは観るものの胸に自然に入ってくる。

 

「何事も最後は大団円」という決まり文句が何度かでてくるように、ドラマの作りとしては、何人かの話をかわるがわる織り交ぜながらゆっくりと大団円を予感させながら進んでいく。途中でさてこれはどこかで見た気分、と思ったら、そうあの壮大な大団円映画「ラブ・アクチュアリー」(2003) である。製作陣はちがうのだが。

 

7人のイギリス人はみな達者な人たち。その中で今回は、子供のころにここで育ち、苦い記憶を持っているゲイを演じるトム・ウィルキンソンがなかなかいい。「理想の女(ひと)」(2003)を思い出した。

そしてビル・ナイはまさに前記「ラブ・アクチュアリー」での怪演ほどではないけれど、何かこういうイギリス人いるんだろうなと思わせる。あともうけ役はマギー・スミスだろうか。

 

青年役のデーヴ・パテールは「スラムドッグ$ミリオネア」(2008)で主役だったようだ(これは見ていない)。

 

インドの情景、多くの人々はなかなか面白い。インドを見る眼は考えようによっては問題あるが、こういうことのバランス感覚はイギリス人の身についているのだろう。

 

 


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ナタリー・シュトゥッツマンの指揮

2014-03-17 09:35:08 | 音楽一般

昨晩、NHK Eテレのクラシック音楽館は水戸室内管弦楽団第89回定期演奏会(2014年1月17日)で、前半はナタリー・シュトゥッツマンの指揮だった(後半は小澤征爾)。

最近は女性指揮者もかなり出てきたけれど、このひとが振るようになっていたのは知らなかった。歌手としてはシューマンの録音など聴いたことがあるし、相当の名声と地位を持っているひとである。

 

結果は大当たりで、メンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」、交響曲第4番「イタリア」の2曲とも、その湧き上がるような感じが素晴らしかった。

 

映像を見ていても、その長身の体の動きからして、音楽をゆったりと発信している一方で楽員たちの音が気持ちよく吸収されている、そのような指揮である。こういうことは天性みたいなところもあって、たとえばカルロス・クライバー、というとこの段階で持ち上げすぎかもしれないが。

 

選曲もよかったと思う。こういう小規模なオーケストラで彼女のような指揮でやると弾みと表情がよく出てくる。

 

ところで番組の談話では、「フィンガルの洞窟」は少し前に運転中のラジオで初めて聴いて好きになり、それが東日本大震災の少しあとだったこともあり、今回選んだという。1965年生まれの彼女が最近初めて聴いたというのは意外で面白い。

 

一流の歌手で指揮というと、かのフィッシャー・ディスカウが晩年によくやっていたことを思い出す。そしてドミンゴはキャリアとしてはもう少し早くから始めたと思う。シュトゥッツマンは40歳過ぎから始めたようだ。声楽は器楽にくらべ年齢的に厳しいところがあるが、指導者としてばかりでなく音楽的な活動を続けていきたいという人がもっといても不思議はない。

 

 


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プリンセス・カイウラニ

2014-03-11 21:57:13 | 映画

プリンセス・カイウラニ ( Princess Kaiulani、2010米、98分)

監督:マーク・フォービー

クオリアンカ・キルヒャー、ジミー・ユール、ショーン・エヴァンス

 

ハワイ王朝最後の王女カイウラニの名前は時々きいていたが、どういう物語があったのか、初めて詳しく知ることができた。ハワイが好きな私としてはやはり見ておこうと、映画としてそんなに期待していたわけではなかったのだが、上質な小品。 

 

19世紀末、カラカウア王の妹とスコットランド人との間に生まれたカイウラニ、母の死後に米国の事業家をバックにした一派の反乱もあって、父とイギリスに脱出して寄宿学校に入る。このあたり、ハワイにおける米と英の対比もわかる。

 

国王が崩御し、王の姉も幽閉され、米国に併合されようとするときにカイウラニは決心し、大統領クリーヴランドに会い先住民を無視した併合をしないよう訴え、理解されるが、直後に大統領はマッキンリーとなり、植民地主義的な共和派の思惑通り併合されてしまう。そのけじめの催しでカイウラニは90%をしめる先住民の投票権がないことを不当として訴え、結局それはききいれられる。この場面はなかなか見せる。

しかし心労からか翌年23歳で病死してしまう(この時期の王族は早死にが多かったという)。

 

全体にあまり激しい場面を続けないようにしながら、的確に描かれている。主人公は名前からすると、ハワイ(またはポリネシア)系とドイツ人の混血らしいが、気品があって好ましい。

 

幼時のハワイ、そしてイギリスで、淡い恋があり、このあたりは事実かどうかはわからないが、それはいいだろう。

 

クレジットによれば、1993年にクリントン大統領はハワイ併合時の暴挙を議会承認のもとに謝罪したそうだ。

これは人権に対する米国政府の原則に照らしてのことだろうが、それに加えこの百年間、ハワイの人たちが悲しい過去を背負いつつも、観光で行ってもすぐわかるように、気持ちのよいホスピタリティがあふれる地域を持続、発展させてきたことに対する感謝、と理解したい。


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世界にひとつのプレイブック

2014-03-04 22:02:47 | 映画

世界にひとつのプレイブック(Silver Linings Playbook、2012年米、122分)

監督:デヴィッド・O・ラッセル

ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ

 

終盤になるまで、今のアメリカには多分こういうひとたちがかなりいて、躁鬱なのかどうか、ストレスが多いのか、精神的にいらいらし、病院に入ったり、薬を服用したり、かって夫婦だったりした間柄でいわゆる接近禁止令が出ていて厳しく適用されたり、という人たちのやり取りが続く。

こんなにかたくなにならなくてもとはおもうのだが。

 

妻の浮気でおかしくなって入った病院から出てきてまだ妻をあきらめきれないパット(ブラッドリー・クーパー)は友人の妻の妹ティファニー(ジェニファー・ローレンス)と知り合いになる。ティファニーは実はパットの妻を知っているのだが、夫を事故でなくし、やはり不安定な状態にある。この二人、つきあおうとしてもうまくいかない繰り返し、その中でティファニーは始めたダンスの競技会に出てきっかけをつかもうと、ダンスができないパットを引っ張り込む。

 

ダンス競技会になってからは、スピード感のあるカメラワークとともに映画に入っていける。このあとどうなるか、不安定な感はあり、カタルシスというほどではない。

 

この映画を見ようと思ったのは、これでジェニファー・ローレンスが弱冠22歳で昨年オスカーをとったこともある。脚本に対する疑問はあっても彼女の演技はどんどんひきこまれてしまう。それだけの存在感、資質を感じる。眼と頬から口のあたりの表情、、、

 

ロバート・デ・ニーロがパットの父親で、フットボールのフィラデルフィア・イーグルスのサポーター。なにごとにつけイーグルスがベースになるという、時々プレミア(英サッカー)、ボストン・レッドソックスなどを背景としたそういう気分の映画はこれまでにもあった。デ・ニーロだからそのうち何か出してくるのではという感じもあるのだが、最後までそのままで、見事。女性の方の父親役だが「ミート・ザ・ペアレンツ2」(2004)を思い出した。

 

音楽はなかなか的確で、特に最後のダンスで流れる「マリア」(ウエスト・サイド・ストーリー)はいいアレンジと思ってクレジットを見たらデイブ・ブルーベック! そのあとラストの「ミスティ」、ナット・キング・コール調だが声は違うと思ったらジョニー・マティスだった(久しぶり)。

 

ところでこのタイトル、見慣れない英語に、ほぼそのままの邦題はなんとも。調べてみたら、playbook にはアメリカン・フットボールで各チームのフォーメーションを図解したノートという意味があるそうで、また every cloud has silver linings つまりどんな雲にも銀の裏地があるということわざも背景にあるらしい。Silver linings はミルトンの作品中にあるそうだ。


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