「生誕100年記念グラフィックデザイナー野口久光の世界 香りたつフランス映画ポスター」(ニューオータニ美術館、2009年11月28日~12月27日)
野口久光(1909-1994)は、先ずはジャズ評論家であり、しかも映画にも詳しい、と若い頃から思っていたのだが、実は東京美術学校工芸部図案化卒のグラフィックデザイナーであり、東和で、戦後しばらくまで主としてフランス映画のポスターを描いていた、とは知らなかった。
日本公開が1934年のものから1960年公開の「大人は判ってくれない」(フランソワ・トリュフォー)まで、本国のポスター原画をもとに日本向けに描いたものであるにしても、俳優たちは、そして映画は、オリジナルの画像よりチャーミングなのではないだろうか。
とても忙しい仕事だったようだけれど、こういう環境でこういう仕事が出来た野口は幸せだったのではないか。
映画は、どちらかというと、リアルタイムで新しいものを見るものだ、と思ってはいるけれど、こうしてみると懐かしいものである。
ジェラール・フィリップ、フランソワーズ・アルヌールなど、そして「旅情」。
実際にポスターとして記憶あるのは、「可愛い悪魔」(ブリジット・バルドオ)、「お嬢さんお手やわらかに」(アラン・ドロン、ミレーヌ・ドモンジョ、ジャクリーヌ・ササール、パスカル・プティ)あたり。特に後者では、女優はみななんとも可愛く、コケティッシュ。
フランソワ・トリュフォーが気に入って、自分の部屋に飾り、著書の表紙にもなっている「大人は判ってくれない」は、残念ながら記憶にない。ロード・ショーの時は見てなくて、後年フィルム・センターで上映された時に始めた見たけれども、ポスターの記憶はない。
「セバスチャン・サルガド アフリカ ~生きとし生けるものの未来へ~ 」
東京都写真美術館 10月24日-12月13日
セバスチャン・サルガド(1944- )はブラジル生まれパリ在住、もともとはカメラマンではなかったそうだ。
今回の多くはアフリカの、それも民族対立などの戦乱で厳しい生活を強いられた人々、動植物、自然環境などの姿を、ここしかないと選び取ったタイミングと構図で、美しい作品として提示している。
アフリカの悲惨を直接的に訴える写真は多く、その存在意義はある。ただ、多くの写真を、継続して見る事が、外の世界の人たちにとってあまり容易でないことも確かである。そのことを責めることはできるが、それで何かが動くかどうか。そういうことも考えなくていいことではない。
この一瞬を待っていたその時間の大きさ、そしてその間における美的とはいえない光景の数々、そういうものの存在を感じさせるものであることは確かだ。
そして、このような環境でも生きている人たち、その微笑み、生きる喜び、それらの存在は、こういう環境だからこそ貴重である。
美しいがゆえに、アフリカというところのそして人間の力強さ、尊厳を感じさせる写真である。
題材のなかでは、ルワンダの動乱が多い。これは映画「ホテル・ルワンダ(2004) 」を思いこさせる。