メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

キャロル・キング「つづれおり」へのトリビュート

2010-04-29 11:44:00 | 音楽
TAPESTRY REVISITED  A TRIBUTE TO CAROLE KING 
1995, Atlantic Recording
キャロル・キングへのトリビュート・アルバムで、それも彼女のアルバム「TAPESTRY(つづれおり)」(1971)と曲、曲順がまったく同じという珍しい作り方である。
こうして作られてみると自然に思えてしまうほど TAPESTRY は20世紀の大傑作アルバム。収録されている曲に一つとして曲の質とポピュラリティー双方の点で駄作がない。これほどのものはおそらくサイモンとガーファンクル「明日に架ける橋」くらいだろう。
 
このトリビュート、私の知っている歌い手のものだけあげても、ロッド・スチュワート「So Far Away」、アレサ・フランクリン「君の友だち」、ビー・ジーズ「Will You Love Me Tomorrow?」、マンハッタン・トランスファー「スマックウォーター・ジャック」、セリーヌ・ディオン「ナチュラル・ウーマン」、その他知らない人のものも切れのいいアレンジとパワーで圧倒される。
 
この12曲、すべてキャロル・キングの作曲で、彼女自身が歌った「TAPESTRY」がもう少しゆっくり控えめなのは、作曲者だからよくわかっていて安心しておそめのテンポ(こういうケースはよくある)をとっているのだろうし、他の人が歌うとこれだけ多彩になるというのは作られた曲のポテンシャルが高い証拠だろう。
 
やはりキャロルはまず作曲家、最初から他の人に提供し歌ってもらっているものも多い。
アルバム最後、いろいろな謝辞のなかに、
A very special thanks to Carole King for writing such timeless songs.
とある。同感。
 
このアルバムが10年以上前に出ているのは知らなかった。
1年ほど前からいわゆる「大人の音楽教室」でヴォーカルを習いだしていて、テキストから「Will You Love Me Tomorrow?」を選んで歌ったこともあったが(ここでのビー・ジーズ、素晴らしい)、「So Far Away」を指定で歌うことになり、ロッド・スチュワートもカヴァーしているから参考に聴いてみてはといわれ、捜したら出てきたのがこのアルバム。他の曲でもロッドがカヴァーしているときにはYouTubeで見つけ参考にはしていた。
 
手に入れたのは輸入版だが、2010年3月にワーナーミュージック・ジャパンから発売(おそらく再発売)されている。こういうのは大きなCDショップでキャロル・キング、ロッド・スチュワートの場所にはない。オムニバスのところにあったのかも知れないがいつも見ないからなかなか気がつかない。
オリジナルの「TAPESTRY」は1971年にLPレコードを買い、CDは最近輸入版(1000円)を買った。

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ザ・ベストテン 山口百恵

2010-04-26 23:47:01 | テレビ番組
「ザ・ベストテン 山口百恵 完全保存版」
2009年12月、TBS  DVD5枚組
 
1978年1月19日から毎週木曜午後9時TBSで久米宏・黒柳徹子の司会により生放送された歌番組「ザ・ベストテン」、「山口百恵」、この二つのキーワードからなる全ての場面のアーカイブである。今後収まるところを考えればデジタルアーカイブということにもなるだろう。
  
実は第一回に山口百恵がランクインすることを予想していたらしいのだが、皮肉にもそうはならず彼女の登場は第2回からで、最後の登場は1980年9月25日、ランクインの最後は11月20日である。引退、結婚式などでこの間のスタジオ出演はかなわなかった。
 
こういう記録だから、当然同じ曲が別の週の出演でまた歌われる。曲によっては10回以上ランクインがある。こうして見ると意外に、映画撮影、体調不良などで、スタジオにいないときも多い。映画撮影などでは、アナウンサーのおっかけマン松宮一彦(故人)やおっかけウーマン吉川美代子がその場に入り込んでインタビューしたり、そこで歌ってもらったりということもある。毎週連続して出ていることは案外少ないが、超アイドルがここまでサービスすることはもうなくなった。
 
一曲一演奏のアンソロジーでなく、こうしてアーカイブ的に続けて見聞きすると、やはり少しずつ変わっていったこと、同じ曲でも途中から何かうまくなったなと思われるところが面白い。
 
「プレイバック Part2」の途中で、おそらく私生活にも何かあったはずなのだが、明らかに一段レベルが上がっている。
そしてこうしてまとめて聴くと、「プレイバック Part2」と「愛の嵐」が出色である。そう思っていたら、最後のクレジットで見ると、この2曲がランクインした期間は他よりだいぶ長い。ランク付けはいろいろな売り上げ、リクエストなどによるのだろうが、案外的確だったかもしれない。
 
この番組がカバーしているのは、山口百恵の歌手人生のほぼ後半であって、最初が「赤い絆」になるから、前半の名曲では「横須賀ストーリー」、「イミテーション・ゴールド」などいくつかが特典映像で入っているだけである。
 
最後の「さよならの向こう側」は、多忙のためかスタジオのテイクは一つのみ。それでも残ったのはよかった。が、最初の方の「、、、無限の命、、、」の無限のところが心なしか聞き取りにくい。ひょっとして一瞬、頭の中から飛んだか? それでもいいけれど。
 
ところでこのDVDをプレーヤーに入れると、いきなり出てくる場面はなんと、現在の吉川美代子が国立国会図書館に入っていくところで、ここで彼女が検索、閲覧するのは、恒例になっていた番組最後の出演者一同記念写真を集めたアルバム。これはこの番組が終了したとき編集され、肖像権許諾がめんどうくさかったのだろうが出版はされず、国立国会図書館と各都道府県立図書館に寄贈されたそうで、閲覧希望は多いらしい。
資料の預け方としてこういう方法もあるということか。 
 
アーカイブとそのコンテクストとなる資料の組み合わせ、ミュージアム・ライブラリー連携、いわゆるML連携といえなくもない。そして、こういうコンテンツにこういう場面が出てくるのは、アーカイブ的なものがポピュラーになってきた証しといえなくもなく、うれしいことである。
 
それはともかく、いろんな意味で山口百恵の以前と以後、という感が強い。
そしてちょうど彼女が引退した1980年の翌年からは、これはNHKだが、ほぼ全ての番組が記録保存されている。

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スペイン人のサッカー

2010-04-24 17:34:03 | 本と雑誌
「スペイン人はなぜ小さいのにサッカーが強いのか 日本がワールドカップで勝つためのヒント」(村松尚登 ソフトバンク新書 2010年)
最近評判の本である。
 
2008年のユーロ2008(欧州選手権)でスペイン代表が優勝、そしてそれと前後してのFCバルセロナのヨーロッパチャンピオンズリーグなどでの圧倒的な活躍、これらを見ると、いよいよ無冠のスペインが今度のワールドカップ(2010、南アフリカ)を勝ち取るかも知れない、と私も思っている。一回くらい勝たせてやりたい、と日本人であっても思ってしまう。
 
どうしてこのところこんなに強くなったのか、そして体格的にも日本人よりむしろ小さいスペインチームからのヒントが日本を強くしていくのでは、というところが、この本のポイントである。
 
まず、サッカーはサッカーを常時することによってうまくなる。ランニング、シュート、ドリブル、それらをいくら個別にやっても、一見すごいアスリートに見えるかもしれないが、サッカーをやらせると大したことない。
スペインではトップチームからそのクラブ組織、地域を10歳以下まで細かくレベル分けされたリーグがあり、また例えば何十人も選手がいればそれをA、Bという風にわけて、1チームは20人程度、シーズンは毎週一回は試合があるから、ケガとか途中交代などで、ベンチを暖めるだけなどという選手はいない。トーナメントではないから、負けたら終わりではなく、すぐ次の試合に切りかえる。
 
サッカーはカオスであり、攻撃がすぐ守備にかわり、その逆もある。野球のように攻撃と守備が決まっており、ポジションもあまり細分化されてはいない。
 
サッカーの技術、トレーニングを考える上で大事なのは、その習得すべき技術、スタイルというものは(なんと)フラクタルであるということ。すなわち自己相似形、というか、つまり1対1とか2、数人対数人、そしてチーム全体と、大きくなっても同じパターンでプレーできる、ということが重視される。意識にまで刷り込まれていて、そうあるべきとされた原則で無意識に体が動く、瞬時の判断がなされる、ということだろうか。
それはそのチームのクラブ組織では、子供が小さいグラウンド、少人数でおこなうときも徹底される。
 
こういうのが、サッカー文化とでもいうんでしょうね。
子供でも、サッカーを見る目はあって、今はやはりフォーバックが徹底されており、子供のときからコーチは、日本みたいに皆いいMFとうスタイルで育てるのでなく、例えば非常に高い身体能力とテクニックを持つ子を、左右の効き足他からサイドバックが最適とし、本人も納得してくるという。
 
日本でも、グラウンドを多く、チームを細分化し、地域でリーグを多く作る、みんな毎週試合ができる、となれば、、トップレベルばかりでなく、草サッカーというかそういうところも含め、もちろんファンの目も肥えてくる、という効果が出てくるかもしれない。
 
そうなれば著者がいう、名プレーヤーは育てるものではなく見つけるものだ、育てたコーチより見つけた人が評価される、というスペインのような形も現実的なものとなる。

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朝鮮戦争(ハルバースタム)

2010-04-09 11:38:40 | 本と雑誌
「ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 (America and the Korean War)」(デヴィッド・ハルバースタム) (山田耕介・山田侑平 訳 文藝春秋)
 
David Halberstam(1934-2007)の遺作である。最後の校正を入れた直後に自動車事故で死亡した。
ハルバースタムの著作でなければ、朝鮮戦争の、それもこの上下1000ページにもおよぶ本を読む気にはならなかっただろう。
なにしろ戦場で多くの細かい戦闘を読むのはかなり骨が折れる。気分的にというより、状景、特に地勢、位置関係をイメージするのが、これだけ詳細に描かれていても難物だからである。
それでも、これが現場に関わった多くの人たちに、膨大な時間をかけてインタビューを行い、それに基づいて書いていく、という著者のスタイルだから、それには多くの細かいところは読むそばから忘れていくことになっても付き合うしかない。
 
それにしても、この世界大戦とベトナム戦争の間におこなわれた戦争については、あまりイメージしてこなかった。映画も多くはない。MASHなんかも戦争が直接描かれているわけではないし、あれは実は、ベトナム戦争を描いているそうで、多くの国民子弟が送られている戦争をいくらなんでも直接ああいう風には扱えなかったらしい。
 
そして、指導者レベルで主要登場人物は、トルーマン、マッカーサー、毛沢東、彭徳懐(軍人)、スターリン、そしてとりわけ皆マッカーサーにてこずった。金日成、李承晩はここでは脇役であり、善悪とは別に、あまり大した人物として扱われていない。
 
何十億という人民をいくらでも使えるという毛沢東の戦略は、おそらく最初は予想できなかったもので、これが都市型でない農村型、そして核兵器で攻撃されても降伏しないというこのスタイルは、現場では怖ろしいものだろう。
 
トルーマンという人は、私のイメージでもルーズベルトとアイゼンハワー、ケネディにはさまれた、特徴のない、無能の大統領であったが、ハルバースタムが書いているように、最後にマッカーサーを解任、リッジウェイにまかせた、という大統領としてやるべき勇気ある決断をした、ということが理解できた。時はマッカーシズム、赤狩りがあった米国である。
 
そして、こわいのは戦場で自分に気に入らない情報を握りつぶし都合のよいものを捏造するマッカーサーのような司令官とそのとりまきである。そして彼らはきわめて政治的にふるまい、結果として政治に口を出すことになる。
 
解説にもあるとおりハルバースタムは完全な反戦ではない。ただ、戦争が始まってしまったときに、優れた軍人とそうでないものとでは、どれだけ違うか、ということには、明解である。リッジウェイの描き方にもそれは表れている。
そういえば、名前の知られている軍人が必ずしも空母・艦船の名前、基地の名前に残っていない、残っているのはやはり優れた軍人として評価されている人、のようである。
 
ハルバースタムは「ベスト&ブライテスト」でケネディ、ベトナム戦争を書いたが、朝鮮戦争との間、つまりアイゼンハワー時代については、まとまった著作はないのではないか。この本で、朝鮮戦争の終結とともに登場するアイゼンハワーはバランスがとれた優れた軍人であったようで、共和党?という感じだったらしいが、民主党の長い時代に国民があきたこともあり、大統領になって、国民にも愛された。アメリカにとっては戦後のもっとも良い時代だったかもしれない。
 
ハルバースタムで読んだのは、「ベスト&ブライテスト」(1972)、「男たちの大リーグ(Summer of '49)」(1989)(ヤンキースとレッドソックス 因縁の死闘)。「覇者の驕り」(1986)(日米自動車戦争)はこれをもとにしたNHKの番組は見たが読んでいない。

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マイレージ、マイライフ

2010-04-03 13:17:47 | 映画

「マイレージ、マイライフ」 (Up in the Air、2009米、109分)
監督:ジェイソン・ライトマン、原作:ウォルター・カーン、脚本:ジェイソン・ライトマン、シェルドン・ターナー
ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック
 
本当にこういう職業があるのかと思うけれど、企業に頼まれて解雇を言い渡すという、てこずるしやりたくない仕事をする会社とそのプロ達がいる。その達人ライアン(ジョージ・クルーニー)が主人公で、そこに大学を出てPCとネットでTV会話によりその仕事をしようと提案してきた新人女性ナタリーが現れる。ライアンとしては、生身の人間を相手にするのにそれではと、争いになり、やってみてどっちがいいか、、、という話が展開していく。 
 
人をくびにする職業と、それを出かけていかないでやるついう形、の対立となると、ドライに仕事をやってきたライアンが生身の人間とのつきあいに目覚めて、という結末かな、と見えてくるのだが、半分そうなり、半分はそうでもない。
 
そこがうまくいけばいいのだが、中途半端になってしまったところがこの映画の失敗だろう。
妹の結婚相手に対する説得など、もっとてこずって長い時間をかけるかと予想するが簡単に終わるし、ナタリー(アナ・ケンドリック)とのやり取りも山場にかける。
 
そしてこの映画のもうひとつの軸はライアンの出張達人ぶりであって、空港、機内、クレジットカード、マイレージの使い方など、きわめて快調なテンポと画面のカットで、それは退屈しない。(だからこの邦題は久しぶりの傑作、原題よりいい。)
そして、同じように飛び回っている女性アレックス(ヴェラ・ミファーガ)とのアヴァンチュールの描き方もしゃれている。しかし彼女との結末は物足りない。
 
冒頭、あれっとおどろく編曲のThis Land is my Land にあわせて続く空中から見たアメリカの見事な景色、同じような形は何遍もでてきて、目と耳を楽しませる。
 
暇つぶしに見るのなrらまあまあ、といったところ。
 
アメリカン航空、ヒルトン・ホテル、Hertzレンタカーとのタイアップが目につく。ライアンは今までに数人しかいなかったという1000万マイルを達成して祝福されるが、これは実際どうなんだろう。
 
クルーニー ってあまり見ない名前と思っていたが、叔母はなんとローズマリー・クルーニー(子供のころから「カモナ・マイハウス」、「マンボ・イタリアーノ」などで知っている歌手)だそうだ。


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