「シフラ in Tokyo 1964」
ジョルジュ・シフラ(Georges Cziffra)(1921-1994)が、確か最初に来日した1964年4月23日東京のリサイタル録音。BBCから発売されたCDだが、BBCLEGENDSシリーズではなく、mediciMASTERSというシリーズになっている。
前半がショパンを幻想曲、ワルツ、即興曲、バラード、ポロネーズなど7曲、後半が彼の売り物であるリストの技巧的な4曲、という構成になっている。
リストは好き嫌いはともかく、この圧倒的な演奏はカタルシスをもたらすことうけあいで、文字通り手に汗握るものだ。
そして意外なのはショパンのしっとりしていてなかなか聴き応えがあることだろうか。シフラは来日の数年前、母国ハンガリーでの迫害から西に逃れてデビュー、評判になり、このときはそれを証明するものであったのだが、その後、特に日本ではこういう技巧派、そしてジプシー的とされる演奏は、ドイツのクラシックにもつらなるリストの正しい解釈とはちがうという論調が主流となり、際物あつかいに近いものとなっていた。
ただ、シフラが国籍を得たフランスなど、そうでもなく受け入れられたところもあり、日本でもプロの演奏家には彼が好きな人もいたようである。
フランスでもSenlis(サンリ?)というところに居ついて、古いチャペルを修復、そこで晩年に録音した「Les Rendez-vous de Senlis」という4枚組みのCD(EMI)でも、クープランやラモーを多く弾いておやと思わせ、ショパンはとってもいいアンソロジーになっている。
リストも、おそらくこの流儀につらなる先人の演奏もあっただろうし、楽譜を見て実際に弾けばこういう勢い、流れも出てくるだろう。そうではなくて、リストも古典派をベースにしたロマン派のクラシックという人たちのよって立つところは何なのか。それがコンセルヴァトワールというものかもしれない。もっとも、シフラのやり方だって音楽的な本能でもあるけれど、誰かがこうしたらと言って、それが継承されてきたところもあるだろう。
リストはどうしたかったか。
演奏会の会場はどこだったのか。東京文化会館?
ネット上でいろいろ検索してみたが、どうもみつからない。一般に古いコンサート情報は、意外に少ない。音楽事務所の記録のアーカイブなど、出来ないだろうか。
録音はあまりよいとはいえないが、おそらく客席でのものではない。NHKの「20世紀の名演奏」にここにも入っているリスト「半音階的大ギャロップ」があったっから、NHKではないかとも思われるのだが、何か契約上の問題があるのだろうか。
実はこの少しあと、5月9日(土)日比谷公会堂で、シフラは協奏曲を弾いている。岩城宏之指揮のNHK交響楽団。
リサイタルは聴いていないが、これは聴くことが出来た。というより、まだピアノを聴きはじめたころだったから、一つだけ行くとすれば協奏曲のほうが飛びつきやすかったのだろう。
このときのチケットはスクラップ・ブックに貼られて残っているのだが、プログラムもメモもないから、何が演奏されたか、判然とはしない。リストのピアノ協奏曲第1番は確かであるが、もう一つは何だったか。かなりの確率でチャイコフスキーだったとは思うのだけれど、これも検索してみたが、確かな情報はない。
この2日前の5月7日(木)には、アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団の「ラヴェルの夕べ」というオール・ラヴェル・プログラムを東京文化会館で聴いている。クリュイタンスの来日はこれ一度でしばらくして亡くなってしまったし、このオーケストラもなくなってしまったから、この機会は貴重であったし、この週は特別に贅沢なものであったわけである。NHKの録音がCDになっている。