メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

恩田 陸「spring」

2024-06-24 15:12:01 | 本と雑誌
spring スプリング
恩田 陸 著 筑摩書房
 
帯に長編バレエ小説とあるようにバレエの世界を詳細に描いたかなり珍しい作品である。
 
子供の時からその才能が目立ったジュンその叔父稔、ジュンと幼馴染でライバルであり友である春(HAL)、やはり同世代の姉妹の一人七瀬、この4人がそれぞれぞれ彼ら特にジュンと春について、バレエの世界について語っていく。稔はバレエをしないで彼らが本やレコードの世界に入っていくことをサポート、ジュンと春は早くから振付けの才能を発揮し、ダンサーとしての成功ばかりでなくバレエそのものの頂点(神?)を追い求めるといっていい。七瀬は途中から作曲になるが、バレエについて深く理解し春のために作曲、編曲してかかわる。彼らの舞台は今の状況を反映してか初めから世界である。
 
バレエについてはまるでなじみがなかったが、吉田都が英国ロイヤルバレエのプリンシパルになってからNHKでさまざまな番組があり、その後平野亮一、高田茜がプリンシパルになるなど続いてみてきた。。
それで本作を読んで、ダンサー、振付、演出、クラシック、コンテンポラリー、新作などについて様々な詳細が興味深く、よくこれだけ調べ集めてと思う。この世界についての理解は進んだと思う。
 
しかしながら読み終わってみると「それだけ」なのである。題名のスプリング、これはストラヴィンスキー「春の祭典」であり、この振付と舞踏で春はバレエそのものになる(なったと彼は納得する)のだが、それはこのこの世界で彼の歩みとして納得できるとはいえ、なにかバレエだけといえばそう。
 
これはこの小説が上記四人の立場からある意味平等に四部で書かれていて、しかもそれぞれ一人称、ということはそれぞれ主人公に作者が入り込んで語っているという、小説としてはあまりない形になっているからと考える。こういうことはあまりない。
 
人称と著述というのは作者にとっても様々な問題があり、一方で工夫のしどころなのだが、これだけほぼ均等に四つにされると、がっかりであった。過去の様々な小説のなかでも例えば「フランケンシュタイン」(メアリー・シェリー)のように、語り、手紙などいくつも均等ではなく変化をつけてと様々な手段はある。
 
上記のことと関係しているかもしれないがこの作者、文章はうまくない。今の人気作家はこんなものなのだろうか。それからもっといい校正者をつけたほうがいいと思ったところがいくつかあった。筑摩書房でこのレベルとは思いたくないが。
 
恩田陸でいえば数年前に評判になった「蜜蜂と遠雷」、これは映画だけ見て原作は読んでいない。映画はそこそこ面白かった、まず映画でよかったかもしれない。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 洋風画という風(板橋区立美... | トップ | 絵本読み聞かせ(2024年6月) »

本と雑誌」カテゴリの最新記事