「ローマ世界の終焉(ローマ人の物語ⅩⅤ)」(塩野七生)
6世紀中、ついにローマも終焉をむかえた。
著者が1年1巻書き続けた「ローマ人の物語」もこの15巻で終わりである。
ほぼ刊行にあわせて読み終えてどうかということを、簡単に記すわけにもいかないし、本当はもう一回通して読まないと豊富な内容を受け止めることは出来ないのだろう。
ここは、全体から受けた要点、そのキーワードを以下3つあげておこう。
1.寛容
2.一神教
3.物語(歴史ではなく)
ローマがかくも巨大な地域を長く支配でき、繁栄したのは、制覇した地域に対し、抵抗しなければ寛容を持って臨み、他民族もローマ人に組み入れることによって、そのモティベーションの維持と様々なローマ方式の浸透に成功したのだ。
この連作であらためて想うのは一神教というものの特異性とその恐ろしさである。考えてみれば、世界の中でここに扱われているユダヤ教、キリスト教、そしてローマ終焉と機を一にして立ち上がるイスラム教、これらの他に一神教は何があるか。しかもこの3つにとって旧約聖書は共通の聖典である。
もう一つの一神教が共産主義ということも可能だが、これもユダヤ教、キリスト教なしには無かっただろう。
そして、著者は「歴史」という言葉をあまり使わない。それはヴェネティアの興亡を書いた「海の都の物語」にも共通している。考えてみれば歴史というモノがあるわけではないし、歴史というものは本のタイトル、国が主導する教科の題名、という以外に何かあるのか。その呪縛から離れることを考えると、見える世界は違ってくるはずだ。
塩野七生がこのローマの推移を書くのに15巻もかかったということは、実在する年代記などの記録、法典、遺跡、彫像、コインなど、できるだけ、観念的でないものを材料にして、観念的にならない記述を心がけたからだろう。それがこんなに長いものを読ませた所以でもある。