メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

英国王 給仕人に乾杯!

2008-12-29 22:25:59 | 映画
「英国王 給仕人に乾杯!」( I served The King of England ) ( 2006年、チェコ/スロヴァキア、120分)
監督・脚本:イジー・メンツェル、原作:ボフミル・フラバル
イヴァン・バルネフ、オルドジフ・カイゼル、ユリア・イェンチ、マルチン・フバ、マリアン・ラブダ
 
第2次世界大戦の前のチェコスロヴァキア、富めるものと貧しいもの両極端があり、富めるものの世界はパリ風を頂点に画面を美しく楽しく見せる。その中で、ホテル、レストランで給仕をしながら百万長者を夢見る主人公。
もちろん、運と不運は隣り合わせでほぼ交互に来る。その中で、しかもヒットラーによる併合の中で、富と女を求め、戦後まで生き抜いたと思ったら、今度はソ連、共産主義により無一文、15年の刑となって出所し田舎の廃屋で自分の周りを鏡で囲みながら、自己を検証していく。
 
といっても、ホテルと戦争で思い出す「ホテル・ニューハンプシャー」のような深刻なエピソード、深刻な描き方はない。
そうそう、と人間の愚かしさ、それゆえの真実を、美しく映し出していく。
男も女も、こんなに裸の場面が多い映画も珍しいが、なぜかあっけらかんという趣を通り越している。
 
これが本当なら、ズデーデンにはドイツ系が多かったからヒットラーの政策も比較的容易であったようだ。ソ連に対する抵抗も他の東欧と比べるとどうっだったか。ここの人たちは戦争をやらないということも、その理由が解き明かされるわけではないにしても、そういうものかもしれないということは伝わってくる。
 
とにかく、なんとか生きていくということの意味は、最後のショットに集約されているだろう。また列車を追いかける場面が二つあって、これは作者あるいは主人公のエクスキューズか。
 
それにしても、映画館に着くのがあと10分遅れたら、座りそこねるところだった。かなり各紙で評判になったせいなのと、単館上映だからということだろう。もっとも配給側からすれば、そんなに当たる映画と思わなかったとしても不思議はない。気持ちよく、にやっと笑える映画ではあるが。

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シェルビー・リン/ダスティ・スプリングフィールド

2008-12-28 18:07:36 | インポート

シェルビー・リン (Shelby Lynne) のアルバム「Just a little Lovin' 」
(レーベルはLOST HIGHWAY)

シェルビー・リンは1968年生まれで、カントリーを歌っていたこともあるらしい。このナッシュビルで録音されたアルバムには「Inspired by Dusty Springfield」とあり、10曲のうち多くはダスティ ・スプリングフィールド(1939-1999)が歌ったものである。

彼女の曲として記憶があるのは、原曲はカンツォーネの「この胸のときめきを」、バート・バカラック作曲の「Anyone who had a heart 」、「The look of love」(恋の面影)あたりであるが、調べたらベイ・シティ・ローラーズ オリジナルと思っていた「I only want to be with you」(二人だけのデート)はダスティのデビュー曲ともいうべきものだったらしい。
 
シェルビーの声は程よくハスキーで、長く聴いていて疲れない。なによりの特徴はそのスローテンポと、バックの音がとても少なくあまり歌にかぶらないことで、ジャズコンボで歌っているような雰囲気、そして彼女がためを作ってゆっくりと言葉を発して、と思うとさらにもう少し後から出てくるという具合、これが慣れてくるとたまらない。
選曲もいい。ダスティの歌は聴けば好きになるのに、まとめて聴くことがなかったのは何故だろう。バカラックとかいくつかのきっかけで着実に耳に入ってきたのは、彼女の力といえばそうなのだが。
 
ドライヴ中に聴くのにはマッチしないが、部屋で一人聴くにはいい。
 
そしてアルバムタイトルだが、、、
25日にキャロル・キングのことを書いて、そういえばあの「君の友だち」や「イッツ・トゥー・レイト」はアン・バートンが歌ったものがあったなと、「ミスティ バートン」という1974年に六本木ミスティでライブ録音さ れたアルバムLPを探し出してプレーヤーにかけたら、なんとその最初の曲が「Just a little Lovin' 」!
 
三大話しみたいな偶然で、やはりこちらの好みがどこかでつながっているのだろうか。

このアルバムを知ったのは、ピーター・バラカン(音楽評論家)がラジオで今年の注目アルバムとして紹介したからで、日本では発売されていなかったが、ネットではスピーディに入手することが出来た。


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キャロル・キング 最後の伝説

2008-12-25 22:35:54 | 音楽一般
「キャロル・キング 最後の伝説」は、2008年11月11日 Bunkamura オーチャード・ホールでのコンサートがWOWOWで録画放送された番組のタイトルである。
 
コンサートがあることを知ったのはもうチケットはないだろうという時期だったが、行きたいなと少し思ったのは確かだ。
 
Carole King (1942- )のアルバムは1971年の「つづれおり」(Tapestry) しか持っていないが、このLPはもう30年以上コンスタントに聴いてきている。
今回のコンサートはおそらく彼女のレパートリー・ベストともいうべきものだ。そしてその多くがこのアルバムからであることにあらためて驚く。もっともここから、イッツ・トゥ・レイト、君の友だち、ナチュラル・ウーマンなど他の多くの歌手たちにもカヴァーされ、ロック、ジャズなどの分野を超えてスタンダード・ナンバーになっているから、当然といえば当然である。
 
1980年以降あまりヒットはないよいうだけれど、今回のパフォーマンスでも過去の名声にしがみつくでもなく、わざとらしく変形させるでもなく、きわめて自然に歌のよさ、彼女の歌唱とピアノのよさを楽しむことが出来る。
 
才能もあり、個性の強い人だから、この間の人生にはいろんなことがあったに違いない。それでも、この歌いぶりから見て取れるのは、彼女ははいつも幸せというものに価値を置き、幸せを感じることに心を砕いてきた人だということだ。このすぐれて甘くはない歌と歌唱からそれを感じることが出来るのは稀なことである。
   
アンコールになって、予想通り「君の友だち」が出てきて、いつ聴いてもいい曲、そして最後はなんと「ロコモーション」(Locomotion) 、これは立ち上がって体を動かしたかったのだろう、確か歌手としてデビューする前に作ってリトル・エヴァに提供、ヒットした。
日本に入ってきて、伊東ゆかりの歌でヒットしたことも記憶にある。訳詩ではたしか「さあ さあ ダンスのニューモード カモンベイビー トゥ・ザ・ロコモーション、、、」だった。
今になって、こんなことを思い出させてくれたことにも感謝。

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晩年(太宰 治)

2008-12-24 18:43:53 | 本と雑誌
「晩年」(太宰 治)(1936年刊行)
この作品集のうちいくつかは読んだことがあるはずである。がしかし、「思い出」をのぞくと内容に記憶はない。 
中学3年か高校1年のなまいきざかりに読んだものだから、そんなものだろう。
 
今回通して読んでみて、太宰の書き方の力量に感心した。それも普通に文章がうまいとかいうことでなくて、書くときにうまく見せようとか、確信していない表現をつかったりとか、そういうところがない。文章で見る限り、斜に構えたとか、その最後を予感させるものはない。
 
この発表の前年に芥川賞がかなわず、その後長くそれにこだわり続けたそうだが、それは賞の側が考える小説の概念が少し違うということであって、小説の書き方の技術が不足していたわけではないだろう。 
 
なかでも「道化の華」は、今もよくある若い人たちのふざけあっているかのように見えるやりとりを描きながら、ひとつの確かなものを読むものに残していく。 
 
その上で、それでも何かあまり気持ちよくないところが、いつもあるのは何故だろうか。
これだけの技術、それも書き出したらそこにいやみはないのに。
考えると、これだけのものがありながら、書く対象、世界が何か小さいのではないだろうか。だからどうだと言うわけにはいかないが、太宰の才能からすると、どちらかというと詩の世界に最初から入っていればと思われた。

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華氏451

2008-12-19 22:42:03 | 映画
「華氏451」(Fahrenheit 451 、1966、英・仏、112分、フランス語)
監督:フランソワ・トリュフォー、脚本:フランソワ・トリュフォー、ジャン=ルイ・リシャール、原作:レイ・ブラッドベリ、音楽:バーナード・ハーマン
オスカー・ウェルナー、ジュリー・クリスティ、シリル・キューザック
 
有名なブラッドベリの原作(読んではいない)の映画化で、存在は知っていたが見るのは初めてで、もっと早く見ればよかった。とはいうものの、アーカイブというものにかかわって後だから、発見もあった、よく理解できたという部分もあるだろう。
 
文字と本が禁止された未来の都市、主人公はそこの消防隊に勤めているが、ここは火を消すというよりは、本を探し出してそれを焼却するのが仕事という皮肉な設定になっている。
しかし、主人公は本に出会いその世界に入っていき、本の世界を守る一派の女性に導かれていく。
華氏451度は紙が燃え出す温度で、消防署の標識も451となっている。
 
話の進展は、軽いサスペンス調で、退屈しない。未来の交通機関、家の中など、当時考えられたものを今から見ると面白いし、女性のファッションは60年代パリがベースだから、話にもマッチしていて今でも見る価値がある。
 
終盤は、文字や本がない中で、どうやって過去を過去として残し、過去の本、作品を伝えていくか、そのちょっと驚く方法と展開が示される。原作との相違があるのかどうかわからないが、これはこの映画を作ったものの願いであり決意でもあるだろう。過去と本、それを残すということの意味がはっきりと伝わってくる。
 
細かいところで面白いのは、消防署で出動時に階上から降りるときにポールを滑ってくるようになっているが、ここではなぜか上にも昇れるようになっている。これを主人公が使うかどうかというところが、その心象を想像させるものになっている。
 
住民に拡声器で注意を呼びかける赤い(オレンジ?)の車が、ロールス・ロイスなのであるが、これは何かの皮肉なのだろうか。
 
見つけ出した本を焼くところで、隊長が一つ一つそれらに対する否定的なコメントをするが、それが面白い。また焼けていく表紙・タイトルを見ると、すべてすごい本ばかりで、これはトリュフォーの趣味を示すものだろうが、次から次へと早いから、こちらの言語能力がもう少しあればもっと面白いのだろう。
 
主人公のオスカー・ウェルナー、どこかで見たと思ったら、「突然炎のごとく」(トリュフォー)の主人公であった。本を残していく側の若い女性と主人公の妻はジュリー・クリスティの一人二役で、前者は彼女らしい風貌だしやりそうな役柄だが、後者はそれとは気がつきにくく、メイクアップでこうも違うのか、それともあえてしたクールな演技のせいなのだろうか。

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