メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ゴーギャン 「ネヴァーモア」

2018-02-27 20:54:51 | 美術
今日(2月27日)の日本経済新聞朝刊文化欄に音楽評論家林田直樹が連載している「音楽と響き合う美十選」9回目で取り上げられているのは、ゴーギャンの「ネヴァーモア」である。
 
見た記憶のない絵だが、載っている写真を見ると裸の女性が横たわっていて、少しおびえている。その後ろに奇妙な絵柄の鳥がいて、絵の題名からおそらくエドガー・アラン・ポーの「大鴉」と関係があるだろうと想像される。
 
ゴーギャンはこの関係を否定したそうだが、英国出身の作曲家ディーリアスが購入していたといい、それは意識していたらしいという。
 
それはそうだろう。nevermoreと間にブランクなしに使われることは普通なくて、これは「大鴉」なんだろう。ネヴァーモアはこの鳥が発する唯一の人間が理解できる言葉で、そう考えるとこの絵から多少イメージが広がってくるかもしれない。もっとも長編で難解と言われる「大鴉」だから、私としては確かなことは言えない。
 
nevermore、実はこのところちょっと縁があって、同名の映画でも有名な「酒とバラの日々」のジョニー・マーサー作の歌詞に謎のような形で出てくる。時々歌っていたが、昨年はジャズ発表会でピアノを弾いた。
 
大画家ゴーギャンには失礼だが、このジョニー・マーサーの歌詞の方がネヴァーモアのとらえ方としては深いように思うのだが。
 
ネヴァーモアと大鴉については、前にも書いたように吉増剛造の自伝で初めて知ったわけで、こういう風にいくつもつながっていくのは面白いものである。

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ギリシア人の物語 Ⅲ 新しき力(塩野七生)

2018-02-22 10:06:25 | 本と雑誌
ギリシア人の物語 Ⅲ 新しき力 塩野七生 著 2017年12月 新潮社
ギリシア人の物語、1年1巻、Ⅰ民主政のはじまりⅡ民主政の成熟と崩壊に続く本書で全3巻完結である。
 
これは前の二つとはちょっとちがって、ギリシア人の社会の歩みというよりは、ギリシア都市国家群が衰退しはじめたとき(前300年代)、ギリシアの北マケドニアから東方の世界を広げていったアレキサンドロス(アレクサンダー大王)の生涯を描いている。ローマ人の物語でもカエサルについては思い入れが強かったが、アレクサンドロスに対しても同様である。
 
本書の結論からすれば、ギリシア・ローマからはじまるその後の「世界」、西欧から見た世界であるが、それはアレクサンドロスによってエーゲ海からインドまで、カエサルによって西方はイギリスまでの世界が、出来上がったといえるだろう。
カエサルについてはそういう認識は、著者の多くの著述からも植えつけられてきたのだが、その東方となると、本書でようやく納得という感じである。またギリシア語がどうしてその後も公用語のような扱いを長く受けたのかなども当然であった。
 
前2巻の民主政と時に登場しまた結果として有効だった傑出した人物について読んできたものからすると、父フィリッポス王から念入りに教育されたというよりは、多くは生まれながらにして、あるいはその幸運な環境を背景に、32年の生涯で一気に東方世界を作ってしまった英雄には驚かざるを得ない。西洋史などで多少は学んだはずなのだが、こうして通読すると比較にならない。
 
この人の死後の世界、東方は今のエジプト、シリア、イラク、イラン、そしてインド・パキスタンという区分けにおよそなっていて、それは今に通じている。そして、これらと西欧のつながりは、東アジアと西欧の関係とは本質的に違うところがあるのだろう。それはこの時代、この若者の生涯からきているといっても大げさではない。
 
いくつかの重要な合戦の陣形、動きはあいかわらずとても面白い。またアレクサンドロスの少年時代、あのアリストテレスが3年間家庭教師だったというのは、エピソード以上の感じを受ける。
 
さて、著者はこれでこれまでの連作群は最期だそうだ。ギリシア、ローマからルネサンスまで、ほぼ網羅したということだろうか。彼女はこれらを歴史エッセイと読んでいるが、タイトルに歴史という単語は使っていない。どちらかというと人物に焦点をあて、かなり想像力も使って描いたからだろうか。
 
私は「歴史」という言葉が嫌いで、何かこう解釈しろという押しつけがましさを感じている。極端に言えば書かれた本の数だけの「歴史」があるわけで、いろんな議論のベースにするなら「年代記」とか「資料集」という方がいい。
 
ともあれ、あとがきにある彼女の著書の大系を見ると、大半を読んでいるわわけで、その結果、ギリシア、ローマはもちろん、ルネサンスに登場した芸術家、女性たち、法王、悪者(?)たちを知るところとなり、「ヴェネツィア」についてはそういうカテゴリの視点はなかったのだが、いくつかのオペラの背景などに肉付けを得ることもできた。感謝したい。

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国立映画アーカイブ

2018-02-08 10:25:43 | 映画
国立映画アーカイブが開設される。
2018年2月7日(水)の日本経済新聞によれば、独立行政法人国立美術館は、東京国立近代美術館フィルムセンターを同美術館から独立させ、同法人の6番目の国立美術館「国立フィルムアーカイブ」として4月1日に開設すると発表した。
 
1952年に上記美術館内にフィルム・ライブラリーとして発足し、69年にフィルムセンターとなり、86年には相模原市に保存庫を開設するなど、着々と進展きたが、今回ようやく独立した機関として発足した。これは、国内外の認知、活動の徹底化、進展を考えれば、喜ばしい。
 
そして館長には同センター前主幹の岡島尚志氏が就任する。私もフィルムセンターの活動を近くで見ていた時期があり、氏を多少は知るところがあったが、まことに適任と考える。
 
新しい期間の名称に「アーカイブ」が入っているのは、氏が強調していたように収集対象は日本で製作されたもの「すべて」であることから当然のことである。また氏は、対象はあくまでフィルムそのものであり、デジタル技術の適用はアーカイブとその活用を補完するものと言っておられたが、慎重でありながらもデジタル技術のリサーチと実験的な試みには積極的だったと記憶している。
 
アーカイブの発足を喜び、その進展を期待しよう。

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