メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

コジ・ファン・トゥッテ

2008-08-31 10:56:02 | 音楽一般
モーツアルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」
マーガレット・マーシャル(フィオルディリージ)、アン・マレー(ドラベルラ)、ジェームス・モリス(グリエルモ)、フランシスコ・アライザ(フェランド)、セスト・ブルスカンティーニ(ドン・アルフォンゾ)、キャスリーン・バトル(デスピーナ)
指揮:リッカルド・ムーティ、ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
演出:ミヒャエル・ハンペ
1983年ザルツブルク歌劇場ライブの録画
 
見るのは久しぶり。
二人の男が自分たちの恋人姉妹(婚約者に近い)の貞節についてドン・アルフォンゾと議論し、賭けをする。士官として出征することにして変装して現れ、相手を変えた形で落としにかかる。オペラとしては、いかようにもできる素材である。
 
これまでは、このどたばたがわずらわしくて、長く感じられ、終盤の「女はみんなこうしたもの」、だからこうして人間の真実を知り大人になって幸福をつかもうというテーマからにどう結びつくか、と半分いらいらしながら見ていた、聴いていたようだ。
 
がしかし、今回聴いてみると、当時オペラとして成立させ、上演するにはこうでもして結末がつけられなければしょうがないわけで、ダ・ポンテの台本に文句はつけられない。
 
魔笛やフィガロなどのいろいろな解釈を味わってみたあとであるからか、今回は一つ一つの場面を集中して楽しんでいた。これは男女の危険な遊びでもあり、またその中で交わされる言葉、モーツアルトの音楽は、まさに真実なのである。
そう、だから一つ一つの場面は、意味深である。
 
それだからこそ、あの映画「クローサー」(監督:マイク・ニコルズ、ジュリア・ロバーツ、ナタリー・ポートマン、ジュード・ロウ、クライヴ・オーウェン)で、これも4人の男女の話という共通点はあるにしても、バックで効果的に使われ、しかもかなり官能的な効果を出していたわけだ。
 
むしろ、この物語の結論は「浮気といわれても、恋が出来るような女を受け入れよう」ということだ、というと乱暴だろうか。
 
演奏は全体に文句ない。あえて言うとブルスカンティーニが、この役の性格を改めて認識させる素晴らしいもの。デスピーナのバトルはちょっと大物過ぎて目立ちすぎだろうか。姉妹は二人とも歌はいいけれど、やはり姿がもう少しという注文は舞台だから出てきてしまう。
モーツアルトの有名なオペラのなかでは、覚えやすいアリアがほとんどないが、こうしてみてみると案外一番面白いかもしれない。

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魔笛(映画)

2008-08-10 22:17:35 | 映画
「魔笛」(The Magic Flute 、2006年、英、139分)
監督:ケネス・ブラナー、脚本:ケネス・ブラナー、スティーヴン・フライ、音楽:モーツアルト
音楽監督・指揮:ジェームズ・コンロン、ヨーロッパ室内管弦楽団
ジョゼフ・カイザー(タミーノ)、エイミー・カーソン(パミーナ)、ルネ・パーペ、リューボフ・ペトロヴァ(夜の女王)、ベンジャミン・ジェイ・デヴィス(パパゲーノ)、シルヴィア・モイ(パパゲーナ)、ベン・アトレイ(弁者)、トム・ランドル(モノスタトス)
 
ケネス・ブラナー、今回はシェイクスピアでなくモーツアルト。
オペラの映像化では、舞台の記録でないもの、つまりより映像として自由なものを組み合わせたものはこれまでなくはない。例えば、ジャン・ピエール・ポネルのいくつか(カラヤンとやった「マダム・バタフライ」とか)。
 
それでもこれは、もっと自由な映像で、舞台は第1次世界大戦の多分西部戦線の塹壕地帯。タミーノは兵隊の一人である。
魔笛の争いを超えて平和を、というテーマと合致はするのだが、細部のつじつまを合わせようとはしていない。音楽の進行としては、ほぼオペラのオリジナル通り進め、その場面場面で、あまり前後にこだわらず、監督がこれに付加したい映像を付けていく、という風に見える。だから、途中からは割り切ってみることができて、手法としては、まずまず、成功しているといえるだろう。
こうして、映画手法で、自由に映像を編集し、アップも多いと、モーツアルトの音楽は飽きることなく、続けて聴いていくことが出来る。
これは発見だった。
 
言語は英語、しかしこの形態だと違和感はまったくない。
 
とはいえ、配役のバランスはいまひとつで疑問もある。
タミーノの風貌はいいが、パパゲーノはタミーノとあまり違わない。そしてザラストロと弁者も風貌が似ていて、特にザラストロは若すぎないか。
パミーナはもうちょっと若くて初々しくあって欲しかった。
 
こうしてみると、この話、後半、タミーノとパミーナの試練というのはあんまり大した試練にならない。これは皮肉である。
それに比べると、パパゲーノの試練の方が、近代人の困惑みたいで、そこから抜け出ることへの共感は強いかもしれない。
 
ところで、最初に夜の女王の娘パミーナが誘拐されてザラストロのところに幽閉され、それをタミーノが頼まれて助けにいくが、実はザラストロこそ有徳の主で、夜の女王こそが悪者、というのではあまりにも簡単すぎる、ということは、これまでもよく指摘されている。
 
そして、実は、ザラストロと夜の女王は結婚していたことがあり、ということはパミーナはザラストロの娘である、という解釈がこれまであって、この映画でもそれを示唆する場面がいくつかある。しかしブラナーはそれに結論は出していない。
他に性的な象徴はあまりなくて、3人の侍女がやたら好色なことくらいか。
 
映画としては、そこまでやると何がなんだかわからなくなって、娯楽映画のカテゴリからはみ出てしまうからだろうか。

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スカイ・クロラ The Sky Crawlers

2008-08-07 22:04:22 | 映画
「スカイ・クロラ The Sky Crawlers 」(2008年、121分)
監督:押井守、原作:森博嗣、脚本:伊藤ちひろ、音楽:川井憲次、主題歌:絢香、音響監督:若林和弘、作画監督:西尾鉄也
声:菊地凛子、加瀬亮、谷原章介、栗山千明
 
絢香の「今夜も星に抱かれて・・・」(Sing to the Sky 所収) とともにクレジットが流れるなか、誰も立ち上がるどころか身じろぎもしない。少し鳥肌が立ってくるのを感じてしまったが、見ることがあまりないアニメでこんなことになるとは、思ってもみなかった。
 
平和が続き、ショーとして存在する戦争、空中戦、そのパイロットたちは大企業の遺伝子ビジネスで生まれた老いることのない少年少女、殺されるか自殺するか、死はそれしかない。
少し生き延びて司令官になっている女性スイトと新任のパイロットのユウイチの間を中心に、さて人はどう生きていき、死んでいくのか。
終盤まで観ると、主人公はスイトである。
 
脚本、絵の構成、動き、音響、音楽、全ての品質がきわめて高く、そしてストーリー進行が急ぎすぎず、緩まず、すべてが素晴らしい。
 
そして一瞬に決めてしまう結論も見事。生きることについての押井のメッセージは、ためらいがなく、気持ちいい。
 
暗い絵と、空の野原の明るい風景、静止画と動画の微妙なかかわりから生まれる見るものを引き込む集中感、多くを見てないけれども、これだけのアニメはおそらくなかっただろう。
 
月曜日にNHKで特集番組があり、その中で押井が語っていたように、また昨年あるパネルディスカッションで語っていたように、彼は動画の中の静止画をきわめて効果的に使う。その微妙なバランスが見るものに動画のみでは生じない注意、観る力を喚起する、と確信しているのだ。
だからセル画とCGの組み合わせもまったく違和感がない。
 
そしてアニメではゼロベースで作らなければならない音は、ルーカスフィルムのSKYWALKER SOUND が担当している。一つ一つは監督の指示によるものであるがこれも見事。例えばNHKの番組でも触れられていた、スイトがワイングラスを置くときの音。ワインが残っているときと、飲み干したときであきらかに音がちがうし、クライマックスにつながる場面ではまたもう一つ効果が加わっている。
 
ところで、時期を考えれば独立だろうが、押井守はカズオ・イシグロ「わたしを離さないで」を読んでいただろうか。

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百万円と苦虫女

2008-08-05 21:41:48 | 映画
「百万円と苦虫女」(2008年、121分)
監督・脚本:タナダユキ
蒼井優、森山未来、ピエール瀧、齋藤隆成、笹野高史、佐々木すみ江
 
わけありということもあり、百万円が貯まると次の土地に移って人間関係をゼロベースにすることを続けている主人公鈴子(蒼井優)の話である。
  
監督・脚本のタナダユキからすると、この話の流れの中で、一つ一つの場面でいかに蒼井優が演じるか、それは楽しみでありスリルがあったであろう。がしかし、それが落とし穴になることもあって、特に前半はそれだけではゆるく退屈してしまう。
   
一つの作品の中で、スタイルというか文法というか、これが見えてきてほしい。暗い場面、雨の場面で照明を使わないというのも、何か意味があるのだろうか、人間の眼はもう少しよく見える。それから昔の日本映画巨匠監督のような蒼井優ショットを時々入れる。これスチール写真にしたら買ってもいいが、映画の中であまり意味はない。
 
蒼井優という女優は、もっと脚本が翻弄しないと、こういう小さいところでは、うまさを発揮するものの使いきれないままに終わってしまいがちである。
そういう意味では、蜷川演出「オセロー」のデズデモーナは見たかった。NHK-BSででもやらないかな。映画監督ではやはり岩井俊二はそこのところがよくわかっていた。
 
後半の展開で、相手役の森山未来はうまくいくかと思ったが、その後のヒモみたいに見えてしまう脚本・演出は、最後につながったかどうか、疑問。
 
とはいえ、見なければよかったとは思わせないのは蒼井優の不思議な力だ。昨年の「クワイエットルームにようこそ」ではたしか最初の台詞がこのタイトルのフレーズで、そのインパクトはしばらく続くのだが、今回は最後の台詞、一瞬、振り返った表情とその一言で決めてしまう。おそらく彼女以外でこうはいかないだろう。

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ツール・ド・フランス2008

2008-08-04 10:44:20 | スポーツ
昨日、運よくNHK BS1で「ツール・ド・フランス2008」のダイジェストを見つけ、録画して見ることが出来た。
1986年グレッグ・レモン(米)初優勝から2005年ランス・アームストロング6連覇まで、NHK BS、フジTVと少なくともダイジェストだけは見逃していないが、2006、2007のどちらか、多分2007は見ていないと思う。
 
2006年以降、ドーピング違反はこれまでにもまして摘発されるようになり、それも日々のレース優勝者、さらには総合優勝者にもそれが出るようになり、誰が強かったのか、印象が薄くなってしまった。
 
今回は最後に来てカルロス・サストレが勝ち、3年連続スペイン勢となった。そういえば、フランス人の総合優勝は、TVで見出した前年のベルナール・イノー以降、ないのである。
次の年はイノーが同チームのグレッグ・レモンにチャンピオンを受け渡すように見せて、自分も色気を出し、結果としてレモンをたくましくした?という実に面白い展開だった。
 
このところ、有力チームのエースが誰で、赤玉ジャージ(山岳王)、緑ジャージ(スプリント王)の争いは?という展開にならないので、裏の駆け引き、これが面白いのだが、それがほんとに裏のままで何も見えてこないから、あまり面白くない。
 
エースが何人かいて、それをチームがどうサポートし、総合優勝できない選手がそれ以外のタイトルをどうねらうか、という面白さは、こういう混戦ではのぞめないのだろう。
混戦だったからか、最後にサストレが抜け出したのは、粒ぞろいをそろえたCSCというチームの力だろうか。
 
こうしてみると、これまで見てきた中で、最強は1991年~1995年5連覇したミゲル・インドゥライン(スペイン)。タイム・トライアル、長い登り、そしてチャンピオンになる前のデルガド(スペイン)への献身的なサポート、どれをとっても飛びぬけていて、しかもランス・アームストロングのように毎年このレースだけに絞ってというのではなかった。

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