メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

関根正二 展

2020-02-29 09:09:06 | 美術
関根正二 展 生誕120年・没後100年
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館
2020年2月1日(土)― 3月22日(日)
 
久しぶりにまとめて見ることができた。20年前、当時の本館で生誕100年展を見たときの印象は忘れられない。その後、東京国立近代美術館、ブリヂストン美術館(現アーティゾン美術館)などで関根の絵に出会う時は注意して見るようになった。
 
今回は「子供」(アーティゾン美術館)以外、主要なものはすべて展示されているようだが、以前より強く感心したのは「死を思う日」、「風景」、「井上郁像」、「少年」、「姉弟」、「自画像」(特にスケッチ)など。有名な「三星」も、三人の視線、表情など、様々な思いを感じることができた。
 
関根は対象を突き詰め捉えきって、煮詰まったところを、ある「瞬間」として描出しているとでも言えるだろう。それがよくわかるのは「井上郁」像。
 
奇しくも100年前、画家はスペイン風邪にやられ没した。スペイン風邪で、直接間接に夭折した天才はかなりいるようだ。村山槐多、高間筆子など。
 
今後の開催がどうなるか未定の状況で早めに見に行こうと思った次第。




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メアリーの総て

2020-02-25 10:01:15 | 映画
メアリーの総て (Mary Shelley、2017年、アイルランド・ルクセンブルグ、米、121分)
監督:ハイファ・アル=マンスール
エル・ファニング(メアリー・シェリー)、ダグラス・ブース(パーシー・シェリー)、スティーブン・ディレイン(ウィリアム・ゴドウィン)、トム・スターリッジ(バイロン)、ベル・パウリー(クレア)
 
ゴシック小説「フランケンシュタイン」の作者メアリー・シェリー(1797-1851)の物語。作家で書店をやっているゴドウィンの娘として生まれるが、直後に母が死に、本に夢中な娘に成長して継母と合わず、当時売れ始め
た若い詩人シェリーと知り合い駆け落ちする。義妹のクレアもついてくる。しかしシェリーには妻と娘がいた。
 
ここから、詩人バイロンがからみ、メアリーにはつらいことが続くが、致命的な破綻にいたらず、彼ら彼女らはつらいながらなんとか生きてゆき、メアリーはゴシック小説「フランケンシュタイン」を完成、苦難の末出版もでき、父にも認められる。
 
フランケンシュタインを書き始めるのが映画後半、90分を過ぎているのだが、小説の内容にからんだ描き方、時間配分にしてほしかったところはある。
 
スコットランドを中心としたちょっと暗いトーンの風景、暗い室内だが、結局自己肯定的な生き方になっているから、なんとか見ていける。
 
主演のエル・ファニングは、あまり画面に映える感じではなかったが、暗さと強さのバランスがとれた演技、表出といえるだろう。ダコタ・ファニングの妹とか。
 
シェリー役のブースが、人気詩人とはいえ、きれいな優男すぎ、またメアリーが何度も別れようとしながら思い返すのが、納得できないうらみはある。
 
私もフランケンシュタインというと、あの怪物がそうだというイメージがあったのだが、だいぶ前にEテレの「100分で名著」に原作が取り上げられ、墓地から死体を取り出して継ぎ合わせて生き物を作った科学者の名前がフランケンシュタインということがわかった。どうも1931年のヒット映画以来、世間にそういう誤解が広がっていたようだ。その後、ケネス・ブラナー主演の同名映画は原作に忠実に作られたということで、怪物を演じたロバート・デ・ニーロのすさまじい演技とともに印象的だった。
 
ところで思い出すのが、30年近く前、仕事でアメリカ出張中、移動日が土曜だったため、ロスの空港からユニヴァーサルスタジオに行ってみた。ビジネスの延長の服装で見世物の行列に並んでいたところ、いきなり後ろからネクタイをつかまれ首を絞められそうになった。驚いて振り向くと大男で、破壊された顔があのフランケンシュタインの怪物だった(そのころは怪物がフランケンシュタインと思っていた)。どうも、こういう楽しむところでネクタイはないだろうということらしく、さすがアメリカと思った。



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桑原あい (Ai Kuwabara the Project)

2020-02-23 14:45:50 | 音楽一般
Ai Kuwabara the Project
2020年2月22日(土)16時~ めぐろパーシモンホール 小ホール
桑原あい(ピアノ)、鳥越啓介(べース)、千住宗臣(ドラム)
 
桑原あいのライブを聴くのは昨年の3月23日(土)(同じホール)以来、この時はソロだった。
 
下記セットリストの中で初めて聴いたのは、2,6,8あたりだろうか。
その2のマイルスの曲、晩年の曲ではないようだけれど、いわゆるモダンからかなり経って、どんどん変わっていく時期みたいな想像をした。千住のドラムプレイが全体支えるというよりは、南米、アフリカあたりを想像させる激しい、予定調和でないもので、このトリオの、この日の色彩を象徴するものだったかもしれない。弾むよりは叩く感じが多く、太い筆で強いタッチというところだろうか。
 
2018年11月に聴いてからこのトリオ変化してきていて、刺激的で面白い。ベースもウッドに複数のマイクをつけ、アンプでさまざまなコントロールができるようだ。
 
桑原のピアノはさらに自在になってきているという感じで、この日一番気に入ったLoroは2016年の東京オペラシティ以来久しぶりだけれど、かなり長いバージョンになっていて、存分に楽しめた。
 
あと欲を言えば、自作は別として、レパートリーがこのところなじみになってきているので、そろそろ大きな変化がほしいところ。
 
なお、最初の2曲で、ベースとピアノのPAのマッチングがおかしく(事前テストではOKだったらしいが)少しどたばたしたけれど、それで大きな破綻というまでいくことはなく、なんとか続いたのは、これもジャズ(いい意味で)ということだろう。

セットリスト
1.You must believe in spring(ミシェル・ルグラン)
2.So near, so far(マイルス・デイヴィス)
3.March comes like a lion (桑原あい)
4.When you feel sad (寺山修司、桑原あい)
5.Loro(E.ジスモンチ)
6.Orbits(ウェイン・ショーター)
7.MAMA (桑原あい)
8.The day you came home(桑原あい)
9.Money jungle(デューク・エリントン)
アンコール
The Back(桑原あい)
 
ところで、ちょうど新型コロナウィルス対策で、各種イベント開催の是非が議論されている中、収容人員200人とはいうものの、目黒区の施設・運営ということもあるのか、観客に対しては入り口でマスクを配布し、着用が義務付けられた。

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私は、マリア・カラス

2020-02-16 15:30:41 | 映画
私は、マリア・カラス (私は、マリア・カラス、2017仏、113分)
監督:トム・ヴォルフ
 
マリア・カラス(1923-1977)の公演、歌唱、インタビューからなるドキュメンタリー映画である。彼女はほぼ私の親の世代であるから、その全盛期を知っているかというとちょっと微妙なところはある。私は若いころクラシックでは器楽曲、オーケストラ曲、一部のリートなどが主で、オペラに関しては、その評判が耳に入ってくる以上ではなかった。それに今のように映像は出回っていなかったし、オペラの録音全曲盤はやすやすと買い求められるものではなかった。それでもカラスに夢中になっている同世代の人がいなかったわけではないが。
 
オペラをもう少し聴くようになってからだろうか、今も手元にカラスの「ノルマ」、「ルチア」、「トスカ」の全曲LPが残っている。何度かの処分時期にも、ボックスは残したかったのかもしれない。
 
さて、今回の豊富な歌唱シーンで、特にベルカントオペラのレパートリーを聴くと、その見事に磨かれた強さに打たれる。この分野での表現力を彼女が一段と高めたことは確かである。その一方で、演じているときのその役のふくよかな色というか、それが感じられず、長く聴くと少し疲れるという感は持った。それは感じ方の問題といったらそれまでだが。
第一線で活躍したのは案外短く、10年くらいだったらしい。ベルカントはヴェルディやワーグナーなどのドラマティックなものと比べると、比較的長持ちするはずだが、あの強さが寿命を短くしたのかもしれない。私生活上のさまざまな問題とは別に。
 
彼女については、今回まで知らなかったことも多く、生まれはニューヨーク、フランスでの生活もあったからか、フランス語も流暢で、インタビューはほとんど英語、フランス語である。
 
昨今のスキャンダル報道においては、マイクを向けるとノーコメントや不機嫌な対応が多いけれど、カラスの場合それはない。微妙な場面でも適格に応えている。頭のいい、コミュニケーション力があるひとのようだ。
 
この種のもの、フランスで作られるとなかなかいいものができる。ほかに例えばイヴ・サン・ローランに関するものとか。
最後のクレジットが右半分で流れ、左半分はモノクロで彼女が「私のお父さん」を歌う(指揮しているのはジョルジュ・プレートル)、見終わった感じがしっとりするセンスの良さ。

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女王陛下のお気に入り

2020-02-10 18:07:49 | 映画
女王陛下のお気に入り(The Favourite、2018アイルランド/米、120分)
監督:ヨルゴス・ランティモス、脚本:デボラ・デイヴィス
オリヴィア・コールマン(アン女王)、エマ・ストーン(アビゲイル)、レイチェル・ワイズ(サラ)
 
18世紀初頭、イギリスのアン女王の世、侍女で存在感を示すサラのところに、父親の失敗から外に出され男にいたぶられていた従妹のアビゲイルが頼ってくる。
 
アビゲイルはサラの手伝いから入るが、次第に女王に気に入られ、それはサラも警戒し、嫌うところとなって、ついに、三人の関係に大きな変化が起きていく。
 
時間的にそう長い経過は描かれないし、場面もほとんど宮殿の中、三人の女性とそれにかかわる男たちだから、脚本の面からは舞台劇を見ている感じなのだが、映像的に細かいところが効いてきていて、三人に対するカメラワークも相まって、効果を出している。
 
見え方はいくぶん控えめだが、女王とサラは幼馴染で同性愛関係にあり、それを知ったアビゲイルも女王と性的関係を持ち、サラには脅威となってくる。
女王は17人の子供を産んだが、すべて死なせてしまったらしく、それが二人との関係に影を落としていることが想像されるようになる。
 
途中まではなんだか三人ともいやな女のキャラクターだし、進行も男の史劇のように力技が効くところもほとんどないわけだが、これはこの女優たちの演技力なのか、妙に納得して最後まで見た。
 
オリヴィア・コールマンはこれでオスカーを取ったそうだ。確かに理解が難しい女王の役を、理解が難しいのによくというのは変だが、まあいろんな場面を細かく演じ分けているとでもいったらいいか。
エマ・ストーンは新参ものからのし上がっていく女を熱演。
 
しかし見終わってなるほどと感心したのは、結果として損な女の微妙な表情を表出し、演じ分けているレイチェル・ワイズだろうか。実年齢はコールマンより少し上なのだが、きつめの美貌も見栄えがあった。
 
ところでこのアビゲイルという名前、英文学で見た記憶はないので調べてみたら、侍女役で使われることがある名前だそうだ。また思い出したのはヴェルディの「ナブッコ」でナブッコが女奴隷に産ませた娘がこの名前、王室を脅かす強い女になる。


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