メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

くるみ割り人形と秘密の王国

2019-10-30 09:17:48 | 映画
くるみ割り人形と秘密の王国 (The Nutcracker And The Four Realms、2018米、100分)
監督:ラッセル・ハルストレム、ジョー・ジョンストン、音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード、指揮:グスターヴォ・ドゥダメル
マッケンジー・フォイ、キーラ・ナイトレイ、ヘレン・ミレン、モーガン・フリーマン、マシュー・マクファディン
 
「くるみ割り人形」といえばチャイコフスキーのバレエがまず思い浮かぶが、映像でも見た記憶があるのは一部の有名な踊りくらいで、原作が何なのかも知らない。
そうはいっても、この実写映画で音楽を楽しめればいい、と考えて見たのだが、どうも空振りだったようだ。
 
母を失ったクララは、家族とクリスマス・パーティーに出かけるが、母からの遺品をプレゼントとして父から渡されても、そのきれいな卵みたいなものになじまず、不思議な能力を持った伯父に相談し、それを空けるには鍵が必要なことを知る。それを求めているうちに、秘密の世界に入り込んでしまい、動物、ブリキの兵隊、女王たちの王国(これがrealms)をめぐる勢力争いにまきこまれる。そして次第に真実が、母親の愛が理解されてきたところで、現実の世界にもどってくる。

このクリスマス・パーティ、秘密の王国の不思議な生き物たちのところで、音楽とダンスを堪能できると期待したのだが、、、
チャイコフスキーの音楽は生のかたちではあまり出てこなくて、それを素材として使ったと思われる部分が多い。これでドゥダメルという大物に指揮をさせるのはもったいない。同じディズニーでもずいぶん前の「ファンタジア」(1940)の一部で「くるみ割り人形」が印象的に出てきたのを思うと、チャイコフスキーに失礼と考えるのは私の年齢のせいだろうか。あれはストコフスキーの指揮だった。
 
クララを演じるマッケンジー・フォイは最初ちょっと精気がない乙女という感じだったが、冒険の度に少しずつ変わってきて、現実の戻ってきたときには、この大人への通過儀礼を経た強さと輝きを見せていた。まだ十代だから、あの実写版「シンデレラ」のリリー・ジェームズのように成長することを期待したい。
 
悪女シュガー・プラムはなんとキーラ・ナイトレイ、対抗する相手マザー・ジンジャーのヘレン・ミレンの娘くらいの歳のはずだが、なかなかうまく演じていた。彼女は実年齢より上に見える役がこれまでも多かったように思える。
伯父はモーガン・フリーマン、ヘレン・ミレンともども、ずいぶん力を入れたプロデュースだったのだろう。


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メシアン 「トゥランガリラ交響曲」

2019-10-23 09:47:43 | 音楽
トゥランガリラ交響曲(1949)作曲:オリヴィエ・メシアン(1908-1992)
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ、ピアノ:ロジェ・ムラロ、オンド・マルトノ:シンシア・ミラー
NHK交響楽団、2019年6月19日 サントリー・ホール  2019年9月 NHK Eテレ
 
この80分近くかかる大曲を通して聴いたのは初めてだと思う。20世紀音楽におけるメシアンの位置付けは一応知っているし、キリスト教、鳥の声などの世界も、コンサートや録音でピアノや室内楽でかなり親しいものになっている。それまでのクラシック音楽の系譜、またその流れからきた多くの現代音楽とも違うのだが、特に若いころからメシアンを弾いていたミシェル・ベロフのピアノは、生で聴いたこともあった。
 
ただこの交響曲は録音であってもそう簡単に聴くというわけにはいかなかった。このところ20世紀音楽をうまくプログラムに取り入れることが多くなったN響のおかげである。それにやはり映像があるのは理解を助ける。

さて、これは比較的短いフレーズの繰り返し、楽器、音色の変化などはあるものの、一見単調な感じで飽きるかと思うとそうでもなく、この「場」で何かを感じ続けるといったもの、と思った。なんとか聴き続けたあとで、具体的な理解、評価はまだできない。
 
ただこれは解説されたとおり、ピアノが協奏曲風でなく、オーケストの主要楽器として活躍し、またオンド・マルトノという1928年にできた世界初の電子楽器ともいわれる鍵盤楽器を少しはみ出たものの効果が特色である。
 
特に後者は鍵盤以外にリボンというものがあり、詳しくはわからないが、グリッサンド的な音が多く、離散的な進行ではない。そして音色はこの曲の宗教的恍惚、法悦とでもいった響きをよくサポートしていた。
 
オンド・マルトノのような、音高が刻まれていないものに興味があるのは、最近ジャズ・ヴォーカルを聴いたり、歌ったりしていて、トロンボーンの影響に思い当たったからである。トミー・ドーシーというトロンボーン奏者が率いていた楽団があって、専属の作曲家/歌手であったマット・デニスがいくつもの名曲を書いたのだが、それらの中にはトロンボーンの連続的音高変化にあったようなものがいくつもある。またそのころ楽団付きであったフランク・シナトラが歌うマット・デニスの歌は、それにあった唱法を工夫していて、それは後の、デニス以外の曲でも感じられる。
 
なお知らなかったが、トゥランガリラ交響曲はボストン交響楽団の音楽監督であったセルゲイ・クーセヴィツキーの委嘱で創られ、初演の指揮はレナード・バーンスタインだったそうだ。

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ロッシーニ 「セミラーミデ」

2019-10-03 16:41:26 | 音楽一般
ロッシーニ:歌劇「セミラーミデ」
指揮:マウリツィオ・ベニーニ、演出:ジョン・コプリー
アンジェラ・ミード(セミラーミデ)、エリザベス・ドゥショング(アルサーチェ)、イルダール・アブドラザコフ(アッスール)、ハヴィエル・カマレナ(イドレーノ)、ライアン・スピード・グリーン(高僧オローエ)、サラ・シェーファー(アゼーマ)
2018年3月10日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場、 2019年9月WOWOW

ロッシーニ(1792-1868)は多作家で喜劇が多いが、これはオペラ・セリアの大作、比較的後期のもの(1823)である。没後150年を記念してメトで上演されたようだ。
 
物語は古代バビロニア、皇后セミラーミデは夫であるニーノ王を王族の一人アッスールと結託して毒殺してしまう。15年経って、彼女は夫を選び新しい王とすることになるのだが、それを狙っていたアッスールには内緒で、アルサーチェと一緒になりたいと思っている。ところがアルサーチェは王女の一人アゼーマに恋している。一方アゼーマはイドレーノにもねらわれている。
 
そして先王の亡霊の宣託によれば、実はアルサーチェは先王とセミラーミデの息子、彼は危うく生き延びていた。
こうなると先のラモー「イポリットとアリシー」と何か似ている。こういう構図はよくあるのだろうか。もっとも今作では、ラモーのように神々の世界はなく、亡霊が登場するだけで、この構図の中でどろどろの愛憎劇を、輝かしく長く続くアリアや二重唱で、劇場一杯に楽しませるというわけである。
 
そうなるとそれだけの歌手をそろえるのは大変で、これはメトで、没後150年で、ということになるのかもしれない。私が最近よく観るのはアブドラザコフくらいで、主役のアンジェラ・ミードは一昔前のきわめて恰幅のよいソプラノ、メトのオーディションで見いだされたようだが、どうもその時のドキュメンタリーは見た記憶がある。ドゥショングは女性による男役つまりズボン役だが、この設定はストーリーにはあっているかもしれない。
 
カマレナの高音も聴かせるし、長身のグリーンは若いがパワーに威厳が加わっていてなかなかいい。
指揮、演出は破綻なく納得がいくものだった。
 
この作品、第一幕で全体の構図がよく見え、そのあとは声の競演を楽しめばいい。どろどろの話しではあるけれど、展開はそれほどドラマチックというほどではなく、ほぼ予想がつく。
全曲を聴いたのは初めてだったが、序曲はよく演奏されるもので、耳につくメロディー。



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