「転々」(2007年、101分)
監督・脚本:三木聡、原作:藤田宜永
三浦友和、オダギリジョー、小泉今日子、吉高由里子、岩松了、ふせえり、松重豊
金がなくてぐうたらしている学生オダギリジョーの部屋に、突然借金取立て屋の三浦友和が入ってきて80万円返せとせまる。ひとまず帰るがその後意外な提案があり、それはその代金を三浦がやるかわりに霞ヶ関まで何日かかるかわからない散歩に付き合えということである。
なぜそんな話になったかは早くから明かされるのだが、その変なプロットも散歩という形をとることにより、ほんのりした味わいと、ゆったり見ることが出来るペースになる。
もちろん三木作品だから、いたるところに小さなそれも筋とは関係ないギャクが出てくる。それはドラマの要素ではなく、飽きないためというと本末転倒だが、映画としてそれでもいいいかと思ってしまう。
それはこれまでいくつかの映画を見ているということもあるし、とりわけ「時効警察」シリーズを見てきたからだろう。背景にある小道具、掲示板の落書きなど、見落とすまいと見てしまうから不思議である。
岩松、ふせ、松重というおなじみトリオも、ドラマの進行とはほとんど関係ない漫才みたいなものだが、常に頭には「時効警察」を思い浮かべながら見ることになってしまう。
映画館でも、おそらく「時効警察」を見ているであろう人たちのくすくす笑いがたびたび聞こえた。そして見てない人にはあの駐車違反摘発中の婦人警官になぜあのようにカメラが向けられたか、わかるはずはない。
三木聡は今後、より映画らしい映画と、本当に彼独自としかいいようのないものの二つのものを、併行してやりそうな気がする。
この映画の主役は三浦友和で、まあ実にぴたりである。喜劇をやろうという気を微塵も見せないところがいい。オダギリジョーは彼でなくてはという役ではないと思うが、法科の学生で時々法律について何か言ったりすると「時効警察」の気分、それもこの映画では面白い。
三浦友和と擬似家族になる小泉今日子、吉高由里子も外れ方とまとまり方が絶妙。吉高由里子はまだ子供だった時効警察のときとは随分イメージが変った。
散歩のコースは吉祥寺あたりからはじまりどちらかというと城北で、なじみは少ないが、画面として落ち着きがあっていい。味わいを出しているカメラもいい。
そしてラストは、わかっていた結末とはいえその処理の仕方はあっといわせるもので、やられてしまえば見事。三木聡は他の作品でも、ラストで後味がさらっとしたものにするのがうまい。
でも今のところ、一番の三木ワールド全開は「亀は意外に速く泳ぐ」だろう。
一つ私的なことで、散歩に出発するときに三浦友和が履いていた買ったばかりのジョギング・シューズは、私が持っているのとまったく同じニュー・バランス!
かなり古いモデルのはずだが、どこか安売りででも買ってきたのだろうか。わざわざそうしたのであれば、この役のイメージにぴったりで、なかなか芸が細かい。