メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

西川美和「永い言い訳」

2015-05-31 16:44:38 | 本と雑誌
「永い言い訳」西川美和著 2015年2月 文藝春秋刊
 
映画の脚本・監督でこれまで「ゆれる」(2006)「ディア・ドクター」(2009)を見てファンになった西川美和。これは小説で、映画化はわからない。
 
作家の主人公の妻とその友人がスキー旅行にいき、バスの事故で二人とも死んでしまう。作家には子供がいないが、妻の友人夫婦には男の子と女の子がいた。その父親は仕事の都合で小さい子供の面倒を普段見ることができないということから、作家はその家庭で家事、送り迎えなどサポートをしていく。
 
そのプロセスと互いの細かいやり取りが、読む者にとって自然でもあるが、納得がいく小さい発見(なるほど、そういうこともあるだろうな)をおりまぜ、会話を中心に描き出だされていく。それはこれまでのこの人の脚本と同様だけれども、今回は映画でなく、テキストを最初に読むわけで、西川さんに自信と覚悟があるのだろう。
 
「ゆれる」とくらべると、大きなプロットがあるわけではないが、それでも最後まで読ませてしまうのはこの人の力量。
人間関係で日々のちいさなことを怠っているとどうなるのか、日々とにかく生きているということを舐めてはいけない、作者はそういうことをちょっと気の利いた短編でなく、ずしりとくる長編で書いた。

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レオニード・コーガン「アンコール集」

2015-05-20 21:14:10 | 音楽一般
レオニード・コーガン「アンコール集」
ヴァイオリン:レオニード・コーガン、ピアノ:アンドレイ・ムイトニク
録音:1958年 ニューヨーク
 
名盤コレクション1000というシリーズで2015年4月にリリースされ、世界初のCD化とのこと。確かにコーガンという人はアンコールによく使われる小曲をひくイメージはあまりわかないし、そういうアルバムもあったかどうか。それで、聴いてみてもいいだろうと思った。結果は当たり。
 
ナルディーニ、ショスタコーヴィチ、メンデルスゾーン、クライスラー、ヴュータン、ドビュッシー、プロコフィエフ、ブロッホ、ブラームス、グラズノフ、サラサーテとヴァラエティも十分。そして半分想像した通りなのだが、こういう曲でも厳しく正確さを追求したヴァイオリンは変わらない。でも、そうやって弾き進めていくと、そこにはそういう演奏だから出てくるこういう曲の華ともいうべきものが見事に出てくる。そしてこういう演奏であれば、何回も繰り返し聴いてもすぐ飽きるということはない。
 
サラサーテのバスク奇想曲は初めて聴くが、この個性的なテーマとそれをもとにした推進力ある進行、アルバムの最後を飾るにふさわしい。そしてコーガンなら当然だろうがフィナーレの「ブラブーラ」はない。繰り返し聴くアルバムであればないほうがいいが、そうでなくてもコーガンなら、、、
 
さてレオニード・コーガン(1924-1982)はウクライナ生まれ、1950年代には来日したこともあり、私も知ってはいた。60年代後半だろうか、レコード屋で安売りの輸入盤を見ていたら、コーガンのパガニーニの協奏曲があり、この曲の録音があまりなかったこともあって、買って聴いてみたら、テクニック、深く追求していく表現、ともに素晴らしかった。ただあれはソ連のMKというレーベルだったか、盤質がよくなかったのか、その後どうも処分したらしい。この人は同じヴァイオリンのオイストラフやピアノのギレリスと比べ、西側のレコード契約にあまり恵まれなかったように思う。ギレリスだってそんなに恵まれていたわけではないが、コーガンのように早死に(列車で移動中の心臓発作)でなかったから、晩年ドイツ・グラモフォンでベートーヴェン、グリーグなど、いいものを残すことができた。
コーガンの録音、これからまだ出てきてリマスタリングによってはいいものがあるかもしれない。捜してみようと思っている。
 
ところで、コーガンとギレリスはソ連の対外文化政策なんだろうが、親日的なイメージが我が国でもあった。あの佐藤陽子をモスクワに誘って教え、デビューさせたのもコーガン。夫人はやはヴァイオリニストでギレリスの妹。確か彼らは一緒に日本に来て、コーガンだったかギレリスだったか、娘の練習用にとヤマハのアップライトを買って帰ったということが知られ、半世紀以上前の日本としてはうれしい評価だったはず。
 
また今回驚いたのは、このアルバムのレーベルはRCAだが、もうVICTORはなく、リリースはソニーだったこと。もう大手はユニバーサル、ワーナー、ソニーに再編されてしまったようだ。

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ショスタコーヴィチ「鼻」

2015-05-19 11:17:33 | 音楽一般
ショスタコーヴィチ:歌劇「鼻」 原作:ゴーゴリ
指揮:パヴェル・スメルコフ、演出:ウイリアム・ケントリッジ
パウロ・ジョット(コワリョフ)
2013年10月26日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2015年4月 WOWOW
 
題名だけはきいていたが、見るのも聴くのも初めてである。1930年の初演(作曲家24歳の年)で、このころジャズの要素が入った曲をずいぶん書いているけれど、これはそれに加えて、20世紀音楽のエクセントリックな面、諧謔、洗練、、、と、あらゆる要素が才気煥発に飛び交う。
 
ある役人が床屋で顔剃りの際に鼻をとられてしまい、鼻は自分でいろんなところに出没、それを探し、追いかけ、騒ぎは広がる。さてこの「鼻」とは何ぞやと観客としては考えてしまうが、部分的に思い当たっても、次には別の展開となる。辻褄があってなくても、そこは上記の音楽の展開で先へ先へと進んでしまう。
 
結局全体として何をいいたいの、というのは多分野暮で、全体としてはなんだかよくわからないようにしてそろそろうるさくなってきた体制側の批判をかわし、見る人の方で自由に選択組み合わせするようにと、結果的になっているのかもしれない。とはいえ、その後この作品はあまり日の目をみなくなり、「雪解け」後にまた再評価され、今ではロシアで人気演目となっているらしい。
 
さて、優れた作品だとは思うけれど、音楽に身を浸して楽しむというわけにはいかないから、ここでの見ものは才人ケントリッジによる舞台、特に映像で、一部では映像が主役ではないかと思えてしまう。それも、ドンキホーテ風の影絵や、作曲家の肖像、批評的で象徴的な画像、またロシア語上演でもメトの観衆にうまく衝撃を与えるためか通常の字幕ではなく前記の映像の中にうまく英語メッセージを込める。スカラ座の「魔笛」でもこの人の映像を多用した演出を記憶しているけれど、あれより数段いい。
鼻は影絵でもまた舞台上にも出てくるが、ずいぶん大きくて動きもいい。ふなっしーを思い出してしまった。
 
役人コワリョフ役のジョットはブラジル出身のバリトンだが、見栄え、勢い、いじめられキャラ、、、なかなかいい。
 
そしてなんといっても印象深いのは、ショスタコーヴィチという人、なんという才能とそれをためらいなく発揮していく強さと勇気をもった人か、ということである。20世紀の作曲家としてなかなか好きな作品というと難しいところはあるのだが、評価としては今までよりだいぶ上げないといけない。

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アナと雪の女王

2015-05-08 21:41:26 | 映画
アナと雪の女王 ( Frozen、2013米、102分)
監督クリス・バック、ジェニファー・リー 原案:アンデルセン「雪の女王」
脚本:ジェニファー・リー 音楽:クリストフ・ベック、ロバート・ロペス 主題歌:イディナ・メンゼル
 
ようやくWOWOWの放送録画で見た。ディズニーは苦手で、大人になってからほとんど見ていないのではないかと思う。
したがって、いつごろからはわからないが、この映画も絵が立体的で、動きも人間が入っているようで、つまりモーション・キャプチャリングをベースにCGで作ったような感じである。もっとフラットな方がいいのかどうか、わからない。それは続けて見ている人たちへのアプローチのトレンドだろうから、何がよくて何が悪いと一概には言えないだろう。
 
多くコメントされているように、中心に女性二人というのは確かに珍しいだろうが、こまかいところでこんなにコントというかギャグというか、そういうものがあるのが普通なのだろうか。
 
原案となったアンデルセンの作品は知らないが、かなりちがうらしい。そして、こういう物語は昔からいろんなところに入っている小さな話の組み合わせになっていて、それはここでも気がつく。
 
姉のエルザが何でも氷にしてしまう能力を意識しそれを隠さず見せるように決意する場面、これはあのポルトガル昔話「王子さまの耳はロバの耳」を思い起こさせる。もっとも王子の方でここは結末であり「勇気」、こっちは起承転結でいえば承、「こまったなあ」なのだが、それは絵と音楽で存分に見せてしまう(悪口ではない)。ここの音楽が「Let it go」(いわゆるレリゴー)、話はまだまだこれからのところの歌だとは知らなかった。
 
そして最後、「愛とキス」これはプッチーニのオペラ「トゥーランドット」だろう。雪の女王たる姉のエルザと妹のアナ、そして山男クリストフの三人は氷の女王たるトゥーランドット、求婚者カラフ、カラフを慕う女奴隷リューの三人に、場面によって対応がかわるけれども、なぜかアナロジーとして強く感じられた。
 
英語がネイティヴ並でなければ、これは吹き替えがおすすめである。これだけ動きと場面転換がはやいと字幕は見ない方がいい。それにあの「レリゴー」、これは松たか子がイディナ・メンゼルを圧倒的に上回っている。


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ベスト・オブ・ザ・ベスト(ブリヂストン美術館)

2015-05-06 09:48:08 | 美術
ベスト・オブ・ザ・ベスト ブリヂストン美術館
2015年1月31日(土)- 5月17日(日)
 
1952年に創設されたブリヂストン美術館が、改装のため5月18日からしばらく閉館となる。それにあわせて、コレクションから選抜したものを展示している。ここは企画展もいいものをやるけれども、その際でもコレクションの一部を見てから帰る、コレクションだけの常設展もときどき見に行きたくなる、というところで、何度いったかわからない。
 
今回またざっと見て回っても、ほぼ全部に見た記憶がある。見てないのはごく最近購入したものくらいだっただった。
西洋絵画としては、印象派を中心にこの150年をここだけで概観できるだろう。日本人による洋画はこれに東京国立近代美術館の常設展を加えれば、同じことがいえる。
 
20世紀のいかにも「現代絵画」というジャンルでも、ジャクソン・ポロック、ジャン・フォートリエ、ザオ・ウーキーなどを何度も見ることができ、このジャンルにも好みがでてきた。これらは今回も展示されている。
 
さて館のコレクション展で、入るのに30分も並ぶというのはめずらしい。本当は2月か3月に行けばよかったのだが、ついうっかりしていた。
 
なお、館の方におききしたところ、再開は未定だが、ビル自体の建て替えのため5年後くらいになるだろうとのことであった。


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