goo blog サービス終了のお知らせ 

メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

洲之内徹ベスト・エッセイ1,2

2025-06-01 18:23:12 | 本と雑誌
洲之内徹ベストエッセイ 1,2
    椹木野衣 編  ちくま文庫

こういうアンソロジーが出ているとは知らなかった。洲之内徹が書いたものは「気まぐれ美術館」、「絵の中の散歩」、「帰りたい風景」の気まぐれ美術館(新潮文庫)シリーズで読んでいた。これらは現在絶版である。

このベストエッセイも多くは上記3冊所収であるが、戦前戦後の少数が含まれていて、美術商、美術評論家(彼は自認していないが)として以外の面を知ることが出来る。
上記3冊はおそらく2回は読んでいて(一部はもっと)、近代日本の主に洋画について見方が出来てきたように思う。そういう意味では恩人である。
展覧会情報でここにあげられたものを見つけて随分、時には遠くまで首都圏以外でも盛岡、仙台、長岡に行ったりした。
ちょうど読み始めたころ、デジタルアーカイブ振興の仕事をしていたから、挙げられている作品をさがしてみたりもした。

じつは今回が最後ではないにしても、ここらでこのブログをおわりにしようと思っている。今秋gooブログがサービス終了となるようで、それもちょうどいいタイミングと判断した。
2006年にはじめて1000回、10年と考えていたが、20年弱、1300位、これほど続くとは思わなかった。

これ実は美術について長いこと興味が続いたことでそうなった面もある、ということでは洲之内徹に感謝である。洲之内徹を知ったのは白洲正子の「遊鬼 わが師わが友」(新潮文庫)であり白洲の本をいくつか読んでいたおかげである。

見たり、聴いたり、読んだりしものについて私なりにまとめ文章で表現してきた、よかったとは思う。しかし最近何か読んだり、音楽でも長いものを聴いたりしていると、その途中でこのブログにどう書こうかと考えたりしていることに気づく。それはなしに歳とともにもうすこし楽しみたいと思うようになってきた。

ここらで一区切り、しばらくしてなにか別のことを考えるかもしれないが。



梯 久美子「やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく」

2025-04-14 13:47:29 | 本と雑誌
やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく
  梯 久美子 著    文春文庫
 
やなせたかし(1919-2013)についてはいろんなメディアで名前をきく人というイメージはあったが、一番のヒット作であるアンパンマンについてはもちろん評判になっていることは知っていたが、テレビアニメが始まった1988年は仕事その他でそれどころでなくこれまできた。
 
この書下ろしの評伝は多分出版社の意図でNHK朝ドラにぶつけたのかもしれないが、そういうこととは別に、あの世代の生涯として読みごたえがある。
 
高知に生まれ、絵に才能はあったが、芸大はかなわず、どちらかというと図案系コースに行き、就職、召集となり、中国に行くが幸い激しい実戦にあうことなく帰国、高知新聞社に就職、やがて月刊誌に携わる、このあたりからデザイン、作詞、ミュージカルと、いろんな人との縁で、活躍の場が広がっていく。この昭和30年代~40年代はああこの人もこの人もと、私が知っている人たちと様々な縁があり、そうだったのかとなつかしくもある。
 
中でもまだ作家として名を成していないやなせの作品を世にだすために、なれない出版を始めてしまった辻進太郎という人はユニークだ。知らなかったが、後にハローキティのサンリオを創業する。その他盛りだくさんで、昭和史としても読みがいがある。
 
今回、読んでみようと思ったのは、なにより書いたのが「この父ありて」の梯 久美子だったからで、その時も感心したのだが対象への寄り添い方、文章の明快なこと、読んでいて気持ちがよかった。

湊 かなえ「C 線上のアリア」

2025-04-03 16:35:51 | 本と雑誌
C 線上のアリア
 湊 かなえ 著  朝日新聞出版
この著者の作品を読むのは最初に評判になった「告白」以来、読んだあとに嫌な気分になる通称「イヤミス」の書き手と言われているそうである。「告白」はそうだったかな、でもなぜかある爽快感があった。

主人公は両親を亡くし、高校時代叔母に育てられた中年女性、叔母が介護が必要になったという連絡をうけて赴くとそこはかなりのごみ屋敷、当人はかなりこだわりがあるらしい。介護施設に入居させる手続きをしている途中、もう一人の介護が必要になった女性と知り合いになるが、その背景は、、、なにか深いつながりがあるようで。

育ての親、姑の介護の様々な形態、対象となる人たちの好み、こだわり、いろいろ入り組んで、著者一流のちょっと怖い予感、どう始末をつけるのか、多少予測はできてしまったが。
介護、特に姑の、というテーマで執拗だが冷静に叙述されているのはミステリーのよさだろう。

これ朝日新聞に連載されたものの書籍化で、著者は少し手をいれたらしいが、何箇所かつっかえるというか、どっちの意味か、分かるまでに手間がかかるところがある。どういう編集者がついたのか、普通なら校正でなんとかなったはず、活字のならびもおかしいところがあった。

エド・イン・ブラック 黒からみる江戸絵画

2025-03-29 09:43:48 | 美術
エド・イン・ブラック 黒からみる江戸絵画
 3/8(土)ー4/13(日) 板橋区立美術館
エド・イン・ブラックとはなんともしゃれたテーマである。
 
江戸時代特に後半、それまでの黒、墨の世界におそらく西洋の影響もあるのか、より光との対照が意識されてきてなかなか多彩な展示になっている。
 
黒とはなにもないという意味、本当はない輪郭線、そういえばそうと気づくが、墨の技術、浮世絵で色をどう意識したのか、歌麿もあるからよく見るといろいろわかるのだろうが、それを見極めるのはなかなか難しい。
 
展示の最後の方に谷崎「陰翳礼賛」の一節があり、なるほど。
横山大観の朦朧体、藤田嗣治の輪郭線にもつながっているのだろうか。
絵としては、朝と夕を画いた鈴木其一の二点が気に入った。

スタインベック「赤い小馬/銀の翼で」

2025-03-26 16:44:26 | 本と雑誌
スタインベック「赤い小馬/銀の翼で」スタインベック傑作選
  芹澤恵 訳  光文社古典新訳文庫
先に同作家ジョン・スタインベックの「ハツカネズミと人間」でも書いたように、読んだことない「怒りの葡萄」や「エデンの東」の映画に関する漠然としたイメージをいい意味で裏切る作品である。
 
「赤い小馬」は200頁ほどで4つの部分からなる中編、そのほか7つの短編がおさめられている。
「赤い小馬」は作家の出身地西部のサリーナスの農場が舞台、夫婦とまだ幼い少年、物知りでしっかりした牧童、この4人からなる物語、プレゼントされたポニー慣れていったが間違いから死んでしまう、その過程で牧童の確かな知識と腕が示されるのだが。その後雌馬が出産しそうになるが難産、その時牧童は母馬をあきらめ子馬を助けだす。このあたり少年に自然の、大人の摂理を行動で示し、見事である。
 
その他、農場に紛れ込んできた疲れた労働者、この時代の最後を生きた祖父の登場。この時代、この舞台、まとまりとしてうまく構成されている。
 
その他の短編、いずれも最近読んだ他の著者の短編集と比べてもなにか深いところに読者を引き込むものがある。特に女性の描き方がなかなか多様で、ちょっと怖いところがあり、この作者への先入見をいい意味で裏切るものがある。
 
作者はヘミングウェイより1世代後だが、短編に関してはよりしかけが凝っていて、表現はこちらの方がハードボイルドである。
もっと多くの短編があるようで、よくわからないが、このアンソロジーはうまくできていると思う。
翻訳は最近読んだいくつかの新訳文庫のなかでも極めて上質である。