メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

絵本読み聞かせ(2023年2月)

2023-02-24 16:30:31 | 本と雑誌
先月からここへのアップを始めた絵本読み聞かせ、2月24日(金)は,

年少組
おおきなかぶ(ロシアの昔話 A.トルストイ再話 内田莉莎子訳 佐藤忠良画)
いらっしゃい(せな けいこ)
ぴょーん(まつおか たつひで)

年中組
ぴょーん
おおきなかぶ
てぶくろ(ウクライナ民話 内田莉莎子訳 エウゲニー・M・ラチョフ画 )

年長組
ぴょーん
くまのビーディーくん(ドン・フリーマン 松岡享子訳)
ゆきむすめ(ロシアの昔話 内田莉莎子再話 佐藤忠良画)
 
年度末になるとこのクラスも最後は大人が見ても内容的にすこし高いものを入れたい、と思う反面、飽きないようにヴァラエティを持たせなくてはと考える。

年少の「いらっしゃい」、せなこどもたち敏感に反応するし、知ってることを口に出そうとしてくれるのがいい。
 
「ぴよーん」は年長組にはどうということないかもしれないが、ウォーミングアップというところ、絵本としてのアイデアはいい。
 
「おおきなかぶ」は世界でもっともすぐれた絵本の一つ」という評価があるとどこかで聞いたけれど、そうはそうだろう。このシンプルな流れに、佐藤忠良さん以外のだれがこんなとんでもなく優れた絵を配せるだろうか。おじいさんがかぶをうえ、とってもおおきくなってしまい、ぬけなくて、順におばあさん、孫、いぬ、ねこ、ねずみをが呼ばれ、何回もこころみてやっと抜けるという、ある種よくあるパターンだが、それぞれ助けが加わってかぶをひっぱるとき、かぶがズームされたり角度がかわったりして、ページをくるごとに実にダイナミックな変化がある。

年少組でもやったのは、あるとき保育士さんからこの絵本もありですよ、でも注意力がある最初にやったほうがいわれ、このようにした。今回、まずまずだったか?
 
「てぶくろ」は今ウクライナ問題とともに紹介されることもあるが、小さいてぶくろにつぎからつぎへと次第に大きな動物が入ってきて、さて最後7番目はくま、そんなに大きなものが入るのかという心配は話としても途中から忘れられるわけで、そこがいいところ、みんななかよくというのは後からだろう。おじいさんがおとしたてぶくろ、最後はおじいさんの犬がみつけて吠えたてると、動物たちはくものこを散らすように逃げていった。てぶくろが満杯になるまで小さいてぶくろの話ということをわすれ、このフィナーレで気がつくといえばそうだが、どうでもよくなる。これがいいところ。ラチョフの絵は細部まですばらしい。
 
そして「ゆきむすめ」は子供のない老夫婦が雪で人形をつくるとそれがむすめに成長するが、なぜかまわりとなじめず、最後はたきびを飛んで湯気となって消えたか、それとも天にかえったか。各地にある話に通じると思うのだが、年長組に「悲しみの美しさ」を知ってもらおうなどと考えたらやりすぎか。

これも佐藤忠良さんの絵とすぐにわかるすぐれたもの。そして日本語は内田莉莎子さん、旧ソ連圏の民話をはかにもたくさん残してくれた。
 
さてこの二つを見ても佐藤忠良さん(1912-2011)描く少女は特徴があって、スタイルがよく、特に脚が細く長い。宮城県美術館に佐藤忠良記念館があり、なんどが見たことがあるけれど、そこでもスリムな少女がいくつか印象的だった。ここは絵本のサイトではないから書いてもいいとおもうけれど、佐藤さんちょっとロリコンのところがある。それはかまわなくて、アーティストのキャラクターの範囲だろう。かねてからそう思っていたが、今回またこの二冊使ってみると、少女のスタイルはこういう方が絵全体の中でいいバランスになるかな、と感じた。
 
佐藤忠良さんは同じ歳の彫刻家で私が好きな船越保武さんと芸大で一緒、仲が良く、偉くなってからも芸大で学生と楽しくすごしていたらしい。と、同世代で芸大建築学科出身の清家清さんからきいたことがある。





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佐伯祐三 展 自画像としての風景

2023-02-18 09:51:17 | 美術
佐伯祐三 自画像としての風景
東京ステーションギャラリー 1月21日(土)ー 4月2日(日)
 
佐伯祐三の絵はもちろんいくつも見ているけれど、こうしてまとめて見るのははじめてかもしれない。東京では18年ぶりとなる回顧展だそうだ。
佐伯祐三(1898-2028)の絵を見た若い時、これがフランス風の洋画というものかと色がよくうまいなと思った反面、自分の年齢のせいかもっとどろどろした強いものを求める気持ちもあり、その後はちがった方向、画家に向かっていったように思う。
 
今回こうして全体をながめてみると、美術学校を卒業して在パリの期間を中心にわずか5年でこれだけの作品、変化をものにしたということである。その一方で生き急いだという感が絵にないのはいい。自画像も多く出ているが、構えすぎたものではない。
 
パリに行って、ヴラマンクに「このアカデミック!」といわれショックをうけて奮闘したということだが、パリなどの多くの様々な建物、風景はうまく切り取られ表現されている。ちょっと器用でうますぎるところが(まだ若いのに)アカデミックと言われてしまった所以なのか。
そうやって下落合風景、電線その他の線に焦点があてられたものなどがあったが、最後は有名なパリの壁、ポスターなど平面に集中したもの。これは決意のあとの集中なのだろうか。そう考えるこれまでとは別の感慨がある。
 
ところで、「立てる自画像」(1924)という顔の部分が上塗りで消されたようになっているものがある。見ていて思い出したのは松本竣介の「立てる像」で、松本は佐伯の絵を知っていたと想像する。この絵は松本を評価する人からもいろいろ言われるところがあって私もあまり好きではない。ちょっとぶってるというか立派すぎるというか。佐伯が自ら顔に手を加えたのは何を思ったのだろうか。



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バート・バカラック 補足

2023-02-14 17:01:40 | 音楽一般
二つ前のアップでバート・バカラックを追悼した。
 
その後思い出したのはNHK Eテレの番組「ららら クラシック」で、2021年3月5日に特集を組んでいてバカラックの音楽がいかにクラシックのいろんな要素を使って工夫に工夫を重ねて作られているか説明されている、とても説得性があっていい。
 
そして、バカラック自身のリモートインタヴユーがあり、この時期コロナで大変だが作曲は続ける、コロナが明けたら日本のみなさんにも届けたいというようなことを言っていた。このとき92歳、さすがに歳とった感じはあったが2年後こうなるとは。
この番組、再放送するといい。
  
あらためてこの長い生涯、「バート・バカラック自伝」で書かれた豊富なエピソードを少しずつ思いだしている。

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梯 久美子「この父ありて 娘たちの歳月」

2023-02-12 14:57:20 | 本と雑誌
この父ありて 娘たちの歳月
梯 久美子 著  文藝春秋
 
これは日本経済新聞土曜朝刊の読書欄に連載された時から読み応えを感じていて、いずれ本になったらまたじっくり読もうと思っていた。
描かれた九人の女性は短歌、詩、小説、ノンフィクションなどなんらかの形で文をものしており、私も何人かの文に接したことがある。
 
この連載が成功した、というか私がすっと入っていったのはまず最初の二人の登場が衝撃的なことだったからかもしれない。
 
渡辺和子(1927-2016)は軍の教育総監渡辺錠太郎の娘、歳をとってからの子だったのでかわいがられたようだが、1936年2月26日早朝、父と同じ部屋で寝ていたところを青年将校たちに襲われ、様子を察した父にいわれて家具の陰にかくれたが、ほぼ目の前で父は銃殺されてしまう。その後しばらくしてクリスチャンになり修道院に入る。日本人としてはじめてノートルダム清心女子大学の学長になった。晩年に書いた「置かれ場所で咲きなさい」はベストセラーになり、多くの人にその名を知られるようになった。
 
このレベルでは以前から知っているのだが、こういう衝撃的な体験、その後どう考えて生き、いくつかの節目をすごしてきたか、という詳細は今回はじめて知った。見聞きしたことにすぐに反応、結論を出すのではなく、長い時間をかけて自分のものにしてきたということだろうか。
 
この人、大学は聖心女子大学で戦後四年制第一回の卒業生である。この卒業式がすごい。来賓に吉田茂(首相)、田中耕太郎(最高裁長官)、それに対する謝辞は英語が緒方貞子、日本語が渡辺和子であったという。また同期には須賀敦子がいて、これを見ると戦後日本のスタートラインには優れた女性たちが立っていたということだ。
 
次に書かれた齋藤史(1909-2002)の父瀏は参謀長として北海道で渡辺錠太郎と一緒だったことがあり、若山牧水に師事する歌人でもあったが、2.26事件の青年将校に以前相談をうけたことなどあり、事件の後処分をうけた。将校には史と面識もあった人もいて、彼女はこの事件に関しては複雑な経験が後まで尾を引く。それが彼女の歌とともに書かれ、この事件とその後の経緯になんとも言えない感慨を持つ。叙述としては本書の白眉かもしれない。
 
その他、詩人の石垣りん、茨木のり子が戦後現代詩の側面を語るものになっていて説得性があるし、ある程度知っていた島尾ミホ、萩原葉子のどろどろした男女関係が、父親との関係から見るとどうなのか、今回初めて知った。

そして印象的だったのは角川源義の長女辺見じゅんで、名前は知っていたが戦艦大和の生存者と遺族への徹底した取材による「男たちの大和」、シベリア抑留者の「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」など、このたいへんな労作をものしたのはこの父ありてで、こういう生き方と追求があったといえるだろう。そしてこの父だから彼女の弟も型破りだったのかもしれない。
 
多くの人たちは私の母と世代が重なっていて、そういうところから本書が感慨深い、という面もあるだろう。

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バート・バカラック 死去

2023-02-11 14:56:43 | 音楽
バート・バカラックが亡くなった。2月8日、94歳
いろんな形で聴かせて、楽しませてもらった。
 
聴くだけでなく、いくつもの映画を味わいの深いものにし、また映画がこの人へのオマージュになっているのではないかというものもあった(カジノ・ロワイヤル(1967)、ベスト・フレンズ・ウェディングなど)。
 
いろんな人が歌っていて、バート・バカラック ソングブックというアルバムがいくつも出ている。こういう楽しみがこんなにある人は珍しい。
 
おおげさな話でなく、クラシックからジャズ、ポップス、ロックその他あらゆる分野をまとめてながめ、20世紀の音楽家10人を選んだらこの人は必ず入るだろう。
 
私も10数年前からヴォーカルを始めたが、バカラックの曲をおそらく20くらい人前で歌っている。ほぼ完成するといい気持ちなのだが、セッションなどでいきなり合わせると、バックの人たちは途中で拍子が変わったり、大変なこともあるようだった。
 
これから折にふれ時間をかけて回顧することになるだろうか。
元気をもらった曲もいくつかあるが、とにかくまずは「アルフィー」でも歌おうか。

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