「亀は意外と速く泳ぐ」(2005年、91分)
監督: 三木聡
上野樹里、蒼井優、岩松了、ふせえり、要潤、伊武雅刀、嶋田久作
こういうタイプのコメディを見るのははじめてである、特に日本映画では。ぜひとも見なさいというほどではないにしても、コメディとして、肩のこらない微笑ましいものだ。
ひまで退屈な若い主婦(上野樹里)があるときスパイ募集の広告を見て応募し採用されるのだが、指示されることはとてもスパイとは言いがたく、目立たないようという指示のものとにわけのわからない小さいエピソードがギャグとともに続いていく。最後はジグゾーパズルがつながるようにああそうかとう具合にはなるのだが、それもたいして劇的ではない。
こういうものに対してよく使われる「ゆるい」という形容詞が、ストーリーにもギャグにも当てはまるだろう。
ギャグの一つ一つはピン芸人の一発というほどその場で決まるわけではない。それでも何かこんなことでもあれば退屈な日常は少し気がまぎれるかと思わせながらの進行。 「裸の銃(ガン)」シリーズ(1989~)でザッカー(監督)がやるちょろちょろした画面内いたずらの雰囲気に多少通じるだろうか。
場所は三浦半島海沿いの町らしいが、面白いのは時代設定で、今の携帯を使っているのに、服装、調度、インテリアなど、1970年ころのそれもその博物館を再現したようなおかしさがある。いかにも紙芝居のセットという感じ、それにスパイもののパロディということから、「007/カジノロワイヤル」(1967)を思い出してしまった。作り手はある程度この作品を意識していたのではないか。
タイトルのパラパラ漫画も面白い。
主人公は、これはもう上野樹里でなくては成り立たなかったのではないかというくらい自然にはまっている。この人、「ジョゼと虎と魚たち」でお高くとまった女子大生を好演した翌年にあの「スウィングガールズ」で女子高生バンドリーダー、その翌年にこの主婦、それであの目立たない風貌、得がたい女優である。
上野の親友を演じる蒼井優、名前は最近頻繁に聞くけれども、作品で見るのは初めて。アイドル路線だけなく今回の方向も大事にするなら楽しみな女優である。
そのほか皆達者な人たちで固めている。特に面白いのは、ふせえり、なんとも無様な役をやった要潤、あと伊武雅刀、嶋田久作が利いている。
この映画の監督、音楽その他、それらに関係する文脈をもっと知っていれば(つまりそういう世代であれば?)さらに面白いのだろうが、それはしょうがない。