メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

情婦

2020-06-30 09:10:13 | 映画
情婦 (Witness For The Prosecuter、1957米、116分)
監督:ビリー・ワイルダー、脚本:ビリー・ワイルダー/ハリー・カーニッツ、原作:アガサ・クリスティー
タイロン・パワー(ヴォール)、マレーネ・ディートリッヒ(クリスティーネ)、チャールズ・ロートン(ウィルフレッド卿)、エルザ・ランチェスター(プリムソル)
 
公開当時どんな考えでかわからないがなんともずれてる邦題、今ならアガサ・クリスティー原作の;短編小説・戯曲の「検索側の証人」そのままでまったく問題ないだろうに。
 
これは舞台でも映える法廷ものをもとにした傑作、名作である。
戦後、ドイツからイギリスに帰ってきた元兵士のヴォールは、偶然金持ちで一人暮らしの初老夫人と知り合いになるが、彼女が殺害され、殺人の嫌疑がかかって、;ロンドン法曹界の重鎮ウィルフレッド卿に頼み込む。ウィルフレッドは心臓病治療から退院したばかりで、出廷は禁じられているが、直観でヴォールは無罪と感じ、引き受ける。
 
ヴォールの妻クリスティーネは彼がドイツにいた時に助けた元女優だが、なぜか謎の夫に不利な証言をする。ここからのウィルフレッドの法廷弁論、裁きが、鋭さ、ユーモアたっぷりで、最後まで飽きない。
ウィルフレッドについている専任看護婦のプリムソルとのやりとりがまた面白い。
 
三人の主に法廷での演技、タイロン・パワーもマレーネ・ディートリッヒも特にこの役だからと作っているところはなく、二人ならこんな感じだろうというそのままなのだが、それで違和感はなく、このあたりがワイルダーのうまいところなのだろう。
 
なんといってもチャールズ・ロートンのウィルフレッドは一世一代の名演である。すべての台詞を聞き逃さないよう、すべての動作を見逃さないようにさせるだけのものがある。そして最後の結末は二転三転、これで決着と思ったら、またまた、、、
 
たいへんなしかけだが、これは最後の最後に作者から明かされるもので、明かされてから話を振り返って、そういえばあそこはと気がつくところはほぼない。これはクリスティー原作の多くと同様である。
 
看護婦プリムソルのエルザ・ランチェスターがまたうまくて、最後の最後にまた効いてくる一言を発する。この人チャールズ・ロートン夫人だそうである。
 
ところでウィルフレッドは右目に単眼鏡をはめていて、面談でもそれで光を反射させ、相手を窺うのだが、法廷で最後の最後の場面、これを手でもてあそんでいるとその光があるものを照らし、それが、、、というカメラワークの仕掛けがある。ワイルダー、すばらしい!
 
これまで見たワイルダーのいくつかの作品、最後に正義感、心意気が報われるといったものが多かったが、本作はもうすこしひねったものになっている。

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引き裂かれたカーテン

2020-06-29 09:26:38 | 映画
引き裂かれたカーテン (Torn Curtain、1966米、128分)
監督:アルフレッド・ヒッチコック、脚本:ブライアン・ムーア、音楽:ジョン・アディソン
ポール・ニューマン(マイケル・アームストロング)、ジュリー・アンドリュース(サラ・シャーマン)
 
初めて見るが、映画の題名はよく知っていた。ヒッチコックとしては意外にもスパイもの、東ドイツ潜入というものだし、あの「サウンド・オブ・ミュージック」のジュリー・アンドリュースがまったくちがう面を見せてるらしいということもあったと思う。
 
アメリカの最新兵器開発をやっているマイケルが婚約者(サラ)とともにノルウェーで開催された学会に参加途中、自分が進めている研究開発を止められたという理由で、東ドイツに行き、そこで開発に従事することにする。亡命なのかどうなのか明確ではないのだが、実は敵の最新技術を盗み出すための指令を受けていた。
 
ところがこれが間際一部が漏れて、サラも東ドイツに来てしまう。マイケルは当局との立ち回りや、その中で東ドイツの権威から情報を盗むのに苦労した末、現地の見方・反政府メンバーに助けられ脱出行が始まる。
 
当時のスパイ小説、関連映画を知っているものとっては、これはちょっとねという場面が多い。東ドイツはこんなに甘くないだろうし、ドジは踏まないだろと思ってしまう。製作、脚本の意図はどうなんだったか、ヒッチコックはどうのように承知したのか、謎の多い映画である。
終盤出てくるポーランド系のおばさんなどきわめて達者なのだが、それも含め、これはスパイ映画のパロディかと思ってしまった。
 
ポール・ニューマンは終始すっきりしたスーツ姿で、あまり強い男というイメージではないが、それなりにフィットしていた。
ジュリー・アンドリュースは冒頭の婚約者とのラブシーンからもっと大胆な役割を想像したが、そういう脚本ではなかった。それでもチャーミングだしバランスがいい演技だったとは思う。やはり頭のいい人なんだろう。
 
音楽はこれまでのバーナード・ハーマンではない。そう違和感はないけれど。
 
なおこの面白いタイトル、何かラブシーンの最中のことかと推測したが、そんなシーンはなかった。「鉄のカーテン」に潜入したということなのだろう。
 
ついでに、どこかのエスカレーターの下で後ろ向きに座っている老人、頭の恰好からしてヒッチコック本人だと思う。こういうことよくする人だから。
 
このところ続けてちょっと苦手なヒッチコックが続いた。20世紀中ごろのアメリカ映画では、同様に西部劇を続けて見ているが、どうもこっちの方が上だなと思い始めている。

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めまい

2020-06-26 09:59:26 | 映画
めまい (Vertigo、1958米、128分)
監督:;アルフレッド・ヒッチコック、音楽:バーナード・ハーマン
ジェームズ・スチュワート(ジョン)、キム・ノヴァク(マデリン/ジュディ)、バーバラ・ベル・ゲデス(ミッジ)、トム・ヘルモア(エルスター)
 
サンフランシスコで、高所恐怖症から警察を退職したジョンのもとに、旧友のエルスターが訪ねてきて不審な行動をする妻マデリンの尾行を依頼する。
どうもいわくつきの先祖、それにかかわる絵を美術館に見に行ったりといううちに、彼女は金門橋のもとで身投げをしてしまい、ジョンに助けられる。そこで二人は知り合いしだいに愛し合うようになるが、そのあと古い教会の鐘楼塔に行ったとき、身投げをしてしまう。ジョンは高所恐怖症から何もできなかった。
ところがその後、マデリンそっくりのジュディが現れ、謎に包まれる中、ジョンは次第に真相に近づいていく。
 
ヒッチコック作品のなかでも傑作という評価があるけれど、どうもヒッチコックは苦手というか、そうかなという感じである。ミステリではあるが、あまりサスペンスはない。
 
それでも車を運転しながらの移動シーンは多くて、サンフランシスコだからということもあるが、カメラワーク、カラーは素晴らしく楽しめる。
 
鐘楼のシーンで、これはかなり前に見たことがあるということに気がついた。それはともかく、今回見る気になったのはキム・ノヴァクである。年齢設定は26で、実際の彼女もそのくらいなのだが、ジェームズ・スチュアートの相手としてもまあなんとか、というくらい大人びていて、また表情が豊かでないというか崩しすぎなところが、映画の中ではいい。可憐ではなく悪女でもない、取り澄ました上流階級でもない、不思議な人で、私は好きである。
 
以前見た「夜の豹」(1957)で、フランク・シナトラとリタ・ヘイワースが開こうとするクラブのオーディションにくるあか抜けない娘を演じていて、これも役柄とちょっとずれたところがなかなかよかった。
 
ジョンが時々立ち寄るアート系事務所をやっているミッジという学友とのシーン、これもデジャヴュの感があった。ゲデスの演技もなかなか素敵で和んだが、終盤出てこなくなってしまったのは残念。唯一人間味のあるやりとりだったのだが、人間味にほとんど関心ないところが、この監督と相性が悪い理由かもしれない。


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知りすぎていた男

2020-06-17 16:06:02 | 映画
知りすぎていた男(The Man Who Knew Too Much、1956米、120分)
監督:アルフレッド・ヒッチコック、音楽:バーナード・ハーマン
ジェームズ・スチュアート(ベン)、ドリス・デイ(ジョー)
 
久しぶりのヒッチコックである。この人とはあまり相性がよくないが、それなりに有名な映画であり、一度は見ておこうと思った。
 
軍医を退役し米国インディアナポリスで開業しているベンは、パリの学会の後ロンドンでミュージカル女優だった妻のジョーと息子を連れモロッコの観光に出かけ、マラケシュに到着する。その際にあるフランス人と知り合うが、彼はそのあと市場でベンが見ている前で刺される。最後にロンドンである国の要人が暗殺される、これを伝えてくれと言って息絶える。
 
ベンは警察の聴取でこの伝言内容は明かさなかったが、途中知り合った夫婦に息子が誘拐されロンドンに連れていかれたことを知り、急いでロンドンに行くが、警察当局とすれ違ったり、ジョーの昔の知り合いたちに惑わされ、真相を隠しながら、陰謀の究明と息子の取り戻しに奔走する。
 
スリル、サスペンスの話なのだが、ヒッチコックは細かいところでいろいろ楽しんでいる風があり、それが見え透いてうるさいところと、ああそう考えているのかと見ているこっちがにやりとする楽しみの両方があった。
 
フランス人やイギリス人を相手にすると、ベンは典型的なアメリカ人、自信とお人よしから、相手との会話でつい正直に本当のことを言ってしまう。そこへいくとジョーはもう少し相手を読むというところがある。
このあたり、ヒッチコックもまさに「パリのアメリカ人」を皮肉っているのかもしれない。
 
サスペンスとしては、相手の悪者たちの存在感、策略に今一つのところがあるが、それを救う仕掛けに最後の「ケ・セラ・セラ」がある。要人のパーティに入り込んだジョーがピアノを弾きながら歌うのだが、ドリス・デイだからこれは映える。ただ何度も繰り返され長々と続くのである。この長々とというところにはもちろん意味があって、それは見てのお楽しみというところ。
 
ジェームス・スチュアートは上記のちょっとおめでたくて体も動きもヒーローとは言えないような演技であるが、それはこの役であればなるほどだろう。
ドリス・デイは私が持っていたイメージよりここでは若い。このあとの映画で大人びていったのだろう。
 
クライマックスのコンサートではロイヤル・アルバート・ホールの中がよくわかり、行ったことないものとしては興味深かった。指揮者役はこの映画の音楽担当バーナード・ハーマンその人である。



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昼下りの決斗

2020-06-16 09:01:00 | 映画
昼下りの決斗(Ride the High Country、1962米、94分)
監督:サム・ペキンパー、音楽:ジョージ・バスマン
ランドルフ・スコット(ギル)、ジョエル・マクリー(スティーヴ)、マリエット・ハートレイ(エルザ)、ロン・スター(ヘック)
 
見てみようと思ったのは主役の一人がランドルフ・スコット(1898-1987)だったからである。この人の名前は物心ついたころから知っていたのだが、私が見た西部劇ヒット作には登場しなかったか、地味な脇役だったか、イメージがつかめないままだった。
本作、監督がサム・ペキンパーだからどういう取り合わせになるのか、想像つかなかった。
 
話はちょっとかわっていて、まじめで優秀な保安官だったスティーヴが、ある街で射的屋をやっている昔馴染みのギルに出会う。スティーヴはある山の金塊堀り会社からそれを守って届ける仕事を請け負っていて、相棒を探しており、ギルともう一人若者ヘックを雇うことになる。ところがギルは途中で金塊を盗むつもりだった。
 
途中、泊めてもらった農家に娘(エルザ)がいて、原理主義的な厳しい父親に嫌気がさし、金鉱につれていってもらってそこの男と結婚したいといい、父に内緒で無理に同行する。
 
しかし金鉱の街はとんでもないところで、結婚式は一応あげたものの、いやになって娘は金塊を持った三人と一緒に逃げ出す。
 
そのあとは、結婚相手の兄弟のならず者、といってもチンピラみたいな連中だが、彼らが追いかけてきて、そのあとは西部劇としての展開、アクションのみせどころなのだが、ギルの裏切りに気づいたスティーヴのやりくりの苦労というか、それがこの二人のドラマとなり、ガンプレイの結末とともに、見せるというか納得させるものになっている。
 
最後まで見ると、これはランドルフ・スコットでなければとペキンパーが見込んだのではないかと思うし、名演である。スコットはこのあと長生きしたが、本作が最後となったようだ。

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