金沢21世紀美術館 2008年11月22日~2009年3月22日
杉本博司(1948- ) という名前も知らなかった写真家(そう単純にはいえないのだろうが)の、多面的な活動を、「歴史の歴史」、つまりおそらく、自然が人類がこの作家が記録してきたものの積み重ね、それに対する杉本個人の一つの解釈、といった形で展示している。
自分の活動を解説したかなり長いビデオ・コンテンツも傍らで上映されているし、カテゴリごとに作家自ら解説をしているから、なんとなくはわかるのだが、一つ一つのアプローチはそんなに押し付けがましくないこともあり、全体を見ての印象がなかなか焦点を結ばないのだ。
それでも、水平線を同じ位置に8x10のモノクロ写真で精密に取り続けた海を見ていると、同じ(ような)ものを長い時間見つめることから何か出てくるようには感じる。国旗などありふれたものをただ丁寧に描いた画家と似ている。
ビデオで自身が説明しているピントの「無限」のさらに先へレンズを動かすとどう写るか、という試みは面白い。ちょっとない発想で、建物を撮ると強さのあるものは残るという。今回は展示されていないようだが。
静電気による作家の自己放電という現象をビジュアルに記録した一連の新作「放電場」は、物理学的には知られていることだろうが羊歯の葉の成長形態のような形も面白い。
一方、杉本が収集した天平期建立当麻寺東塔の古材と杉本の写真で構成されたインスタレーション「反重力構想」は、思いついたセンスのよさにとどまっている。ただこれを簡単に展示できる天井の高さは、この館の優位点だ。
こういうものは、普段からいろいろ見ておいたほうがいい、ということはこのごろ感じていて、それが金沢に行く機会があれば必ずここを訪れるという習慣になっている。
館のコレクション展は、1年前とはかなり変化していた。北川宏人の「ニュータイプ2005」シリーズはテラコッタにアクリル彩色された、若い男女の像というか大きな人形で、身長は幾分小柄な程度だが極端にスマートな体つきが何か異様なものを感じさせる。そしてヤン・ファーブルの玉虫を集めて作ったドレス「昇りゆく天使たちの壁」。
他に、大きなアクリル・カンヴァスのいくつかの絵は、このように充分大きな部屋でゆったりと眺めると、なかなかいいものである。
これまで気がつかなったのが、無料スペースの一番裏、一般の展覧会に貸し出す地階に降りるためのバリアフリー対策用エレベーターである。それも道理で、地下に止まっているときは、その存在がわからないのも無理がない方式なのだ。
人が乗る箱はガラス張り、その下に円柱がついており、その伸び縮みで昇降する。通常のエレベーターは箱を上からワイヤーで吊っているが、ここでは箱の上にも横にも何もなく、階段ホールの吹き抜けの中を、つまり壁がない空間を動くだけである。乗ったとき自動放送ではテレスコピック・エレベーターと言っていた。