マルセル (高樹のぶ子) (2012年3月 毎日新聞社)
1968年、京都国立近代美術館で開催されていた「ロートレック展」で、フランスのアルビ美術館から借りていた「マルセル」が盗まれ、犯人はわからないまま時効成立後に返ってきた。この事件を題材に、その事件を追った新聞記者の遺児でやはり新聞記者の女性が、父の死後、その謎を追いかけるとともに、彼女も独り立ちしていくというストーリーである。
「マルセル」はその後また日本に来たらしいし、写真には見覚えがあって、どこかで見ているはずだが、はっきりしない。
現代になっての展開は作者のイマジネーションによるものだろうが、意外性も十分あって面白いことは面白い。それに、コピーとは、傑作は誰のもの?ということを考えさせるところもある。
ただ主人公の女性の自立への道筋、その中での葛藤などの描き方は、好みはあるにしてもちょっと甘いかなと思う。作者は私と同世代だが、これがもっと若い世代、たとえば角田光代あたりだと、もっといろんな心理の層を見せるかたちになったのではないか。