メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

絵本読み聞かせ(2024年6月)

2024-06-27 17:10:19 | 本と雑誌
絵本読み聞かせ(2024年6月)
 
年少
なーらんだ(三浦太郎)
どんどこももんちゃん(とよたかずひこ)
くだもの(平山和子)
年中
どんどこももんちゃん
パパ、お月さまとって!(エリック=カール、もり ひさし訳)
くだもの
年長
きんぎょがにげた(五味太郎)
パパ、お月さまとって!
くだもの
 
ほぼ例年の同月と同じプログラム
「どんどこももんちゃん」、年少組にぴたりなのか、反応がよく各ページでそれが長く続く。
エリック=カールの絵は驚きが例年より大きかったが、これ月をあまり見ていないのか関心がなかったのか、そうでなければいいのだけれど。
 
「きんぎょがにげた」は不思議な絵本で、年長にはやさしすぎるかと思ってもなぜかおもしろいらしく、このあたり五味太郎の「絵のあそびのちから」なんだろうか、大人にはわからない面がある。
「くだもの」はやはり初夏と秋冬あたり、見てさわいでもらうのがいい。

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恩田 陸「spring」

2024-06-24 15:12:01 | 本と雑誌
spring スプリング
恩田 陸 著 筑摩書房
 
帯に長編バレエ小説とあるようにバレエの世界を詳細に描いたかなり珍しい作品である。
 
子供の時からその才能が目立ったジュンその叔父稔、ジュンと幼馴染でライバルであり友である春(HAL)、やはり同世代の姉妹の一人七瀬、この4人がそれぞれぞれ彼ら特にジュンと春について、バレエの世界について語っていく。稔はバレエをしないで彼らが本やレコードの世界に入っていくことをサポート、ジュンと春は早くから振付けの才能を発揮し、ダンサーとしての成功ばかりでなくバレエそのものの頂点(神?)を追い求めるといっていい。七瀬は途中から作曲になるが、バレエについて深く理解し春のために作曲、編曲してかかわる。彼らの舞台は今の状況を反映してか初めから世界である。
 
バレエについてはまるでなじみがなかったが、吉田都が英国ロイヤルバレエのプリンシパルになってからNHKでさまざまな番組があり、その後平野亮一、高田茜がプリンシパルになるなど続いてみてきた。。
それで本作を読んで、ダンサー、振付、演出、クラシック、コンテンポラリー、新作などについて様々な詳細が興味深く、よくこれだけ調べ集めてと思う。この世界についての理解は進んだと思う。
 
しかしながら読み終わってみると「それだけ」なのである。題名のスプリング、これはストラヴィンスキー「春の祭典」であり、この振付と舞踏で春はバレエそのものになる(なったと彼は納得する)のだが、それはこのこの世界で彼の歩みとして納得できるとはいえ、なにかバレエだけといえばそう。
 
これはこの小説が上記四人の立場からある意味平等に四部で書かれていて、しかもそれぞれ一人称、ということはそれぞれ主人公に作者が入り込んで語っているという、小説としてはあまりない形になっているからと考える。こういうことはあまりない。
 
人称と著述というのは作者にとっても様々な問題があり、一方で工夫のしどころなのだが、これだけほぼ均等に四つにされると、がっかりであった。過去の様々な小説のなかでも例えば「フランケンシュタイン」(メアリー・シェリー)のように、語り、手紙などいくつも均等ではなく変化をつけてと様々な手段はある。
 
上記のことと関係しているかもしれないがこの作者、文章はうまくない。今の人気作家はこんなものなのだろうか。それからもっといい校正者をつけたほうがいいと思ったところがいくつかあった。筑摩書房でこのレベルとは思いたくないが。
 
恩田陸でいえば数年前に評判になった「蜜蜂と遠雷」、これは映画だけ見て原作は読んでいない。映画はそこそこ面白かった、まず映画でよかったかもしれない。


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洋風画という風(板橋区立美術館)

2024-06-14 18:13:26 | 美術
洋風画という風 近世絵画に根づいたエキゾチズム
板橋区立美術館 5月3日~6月16日
 
日本絵画において西洋風の陰影法や遠近法といった絵画技法を用いた「洋風画」から成るコレクションがここに寄託されており、今回はこれをまとめて展示したもの。
 
多くは1800年前後で、さまざまな形で入って来た西洋風の描き方、見方がなかなか面白い。いままで見たことがなかったものも多く、私が知っている作者は司馬江漢くらいだが、この人についてもこうしてまとめて見たことはなかったように思う。
 
いわゆる日本画的なものの流れに、明治からそれこそ近代の洋画的なものが入ってきたように思っていたが、こうしてみるとあの高橋由一の「鮭」も突然現れたのではないのだろう。
 
技法以外にも風景や人間特に男女など複数の対象に対する見方、そこにはかんぐり的なものもいろいろあって面白い。
中には後年横山大観や菱田春草を教えた人もいたようだ。

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バルトーク「青ひげ公の城」

2024-06-06 16:44:02 | 音楽一般
バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」
指揮:ワレリー・ゲルギエフ、演出:マリウシュ・トレリンスキ
ミハイル・ペトレンコ(青ひげ公)、ナディア・ミカエレ(ユディット)
2015年3月28日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場
2024年6月 WOWOW

音楽としてはブーレーズが指揮したものを聴いたと思うが、映像を見た記憶はない。メトのオーケストラが来日、そのプログラムの中に「青ひげ公の城」の演奏会式上演が入っていることから過去の上演映像がWOWOWで放送された。
 
バルトークだし何か暗く悲劇的な先入観があり事実その通りなのだが、この話しのルーツはペローの童話集で、力と財を持っているがひげが青くもてない男がいて、財をねらった姉妹が男に近づき、部屋の鍵を預けられるが開けることは禁じられ、それでも男が不在の時に開けてしまい、という話し。しかしオペラでは悲劇になるが、童話では間一髪青ひげをやっつけ、めでたしめでたし姉妹は幸せになる。教訓を含めよくあるパターンである。
これから派生したメーテルリンク版をバラージュが脚本化、バルトークがオペラにした。1時間ほどの短いもの。
 
あまり感情移入していけないが、先入観としてはこわい青ひげが支配者で、特にこの演出では青ひげのところに来るユディットが青い衣装、こわがってはいないだろうと想像される。
進行とともにユディットと身も心も一緒になるには男はすべてを投げ出し空にならないといけないという恐怖感があるのではと思えてくる。実際女と男ではそうなので、そう思えてくるとこの劇の進行は不思議でない。
 
音楽はかなり凝った進行らしいが、そのあたり歌唱としてはあまり乗っていけず受け取るのはなかなか難しい。
 
演じるのは二人だけ、ここはユディット役ミカエレの表現が強い印象をのこす。
ところで指揮はゲルギエフ、プーチンとの仲から問題ないのかと思ったが、この上演は2015年、まだ今のような状況ではなかった。



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スタインベック「ハツカネズミと人間」

2024-06-02 16:05:20 | 本と雑誌
ハツカネズミと人間 ( OF MICE AND MEN )
  ジョン・スタインベック 作 大浦暁生 訳 新潮文庫
 
タイトルは知っていたが読んでみようと思わなかったのは描かれている世界が貧しい人たちでそのかわいそうな運命という単純なイメージがあったからだと思う。
 
カリフォルニア州サリーナスあたりに仕事を探している二人の男ジョージとレニーが現れる。ジョージは小柄で機転が利き、レニーは大柄だが知恵遅れで、ジョージはその世話を頼まれておりそれをいやとは思わない。レニーは自分が足手まといだろうとわかっているのだがジョージはかまわない。
 
週の後半に仕事を求めてある農場に現れ、そこで何人かのちがった背景、くせのある人たちと出会いやり取りがある。この会話が無駄なく深く優れた描写になっていて秀逸。
ジョージはハツカネズミやうさぎが好きなレニーに、二人で働いて少しずつ金をため、小さい土地を買って草を育てうさぎなどを飼おうという。レニーはそれを頭にいれ、何かがあるとおれたちはそうすると何度も口にする。普通ならこれをうるさい、くどいと思うはずだが、そうでないジョージ、この進行がとにかくうまい。こういう文章がなぜ書けるのか。
 
ジョージが心配していたことをレニーがやってしまい悲劇的な結末になる。この10ページほどのしんみりした、ほのぼのとしたともいえる文章、こたえるが再度読んでしまった。

スタインベックには「怒りの葡萄」、「エデンの東」というサリーナスを舞台にした貧困に苦しむ民衆を描いた叙事的物語の作家というイメージがあった。ノーベル文学賞を受賞していて、おそらくその対象となる業績は「怒りの葡萄」あたりだろう。しかし明らかに注目すべきはこの160頁あまりの中編であり、これだけ優れた文学作品はヨーロッパにもちょっとない。
 
ジョージとレニーの最後の場面は映画にできないだろう。演劇化はされているようで、舞台ではかなり工夫のしようがあるかもしれない。

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