歌劇「タウリスのイフィゲニア」(グルック作曲)
指揮:パトリック・サマーズ、演出:スティーヴン・ワズワース
スーザン・グラハム(イフィゲニア)、プラシド・ドミンゴ(オレスト)、ポール・グローヴス(ピラード)
2011年2月26日、メトロポリタン歌劇場(2011年12月 WOWOWで放送されたもの)
グルック(1714-1787)の歌劇は「オルフェウスとエウリディーチェ」の名前を知っているくらいだった。今回聴いてみて、ああこういう音楽があってモーツアルト、ベートーヴェンがあったのだ、ということは少し聴くうちに感じられてきた。本作品には、すぐに覚えてしまうメロディーこそないが、雄弁で堂々としていて、歌手が映える音楽が聴かれる。
話はギリシャ神話から来ていて、トロイア戦争にあたり、神々の怒りを鎮めるため、アガメムノーンは娘のイフィゲニアを生贄にだすが、女神官ディアーヌはイフィゲニアに同情して殺すことせず、自分の手下にし、イフィゲニアは生贄を祀る側になっている。
そこに実は彼女の弟オレストとその親友ピラードが船の遭難とともに捕えられ、どちらかを生贄にしなければならなくなり、親友の二人は自分が死ぬといって争う。イフィゲニアは二人の話をきくうちに、もしや一人は弟かと疑いはじめる。そのあとは過去の背景がわかり始め、三人のすくみのなかで、それぞれ思いを歌い上げ、最後は、、、
イフィゲニアのスーザン・グラハムがこの作品に熱心で各地で評判となり、メトでも今回の上演になったらしい。この人は背も高く、このパワーを要求される役を見事に歌いきっている。何しろ相手の一人はドミンゴだから大変なのだけれど。
二人は風邪をひいているが、それをおして出るというエクスキューズが開演前にあったが、本番中は気にならなかった。
ドラマとしては、最後のデウス・エクス・マキーナは拍子抜けなのであるが、そこは三人の歌唱に集中してくださいということなのだろう。
ところで、話がこういうことだと、イフィゲニアとオレストの間のエレクトラは、あのリヒャルト・シュトラウスのオペラにもなった「エレクトラ」であるわけで、母親クリュタムネストラが夫でこの姉弟たちの父親を殺し、その後オレストが母親を殺す。「エレクトラ」ではむしろこっちの話が主体だったと思う(今度よく見てみよう)。ずいぶん陰惨な話である。
ところでグルックはドイツ生まれでフランスでも活躍したようで、この作品はフランス語である。フランス語でこういう強い調子の歌劇、歌というのは、そう多くないかな、とおもったけれど、「ラ・マルセイエーズ」みたいなものなのだろうか。
幕間のインタビューは先日ルチアをやったナタリー・デセイ、この人もルネ・フレミング同様慣れたものでうまい。メトで生き抜いている人たちは、こういうことも達者にできるようになるのだろうか。