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Milton, Paradise Lost (4: 289-340)

ジョン・ミルトン
『楽園は失われた』 (4:289-340)

より高貴で背の高いふたりがまっすぐ、
神のような姿で立っていた。生来の輝きにつつまれ、
裸でありつつ威厳あるそのさまは、まさに万物の支配者のよう、
すぐれた者のようであった。その神々しく輝く顔からは、
ふたりをつくった神の姿がうかがわれた。
そこには、誠実さと知恵、一点のしみもない清らかさ、神の子にふさわしい
真の自由のなかにある厳しさがあった。
人間の権威の源とは、まさにこのようなものなのである。ふたりは
等しくはなかった。明らかに性も異っていた。
彼、アダムは深く考え、勇敢に戦うべくつくられていた。
やさしさと心を惹く美しさが、イヴには与えられていた。
彼は神のみに従い、彼女はアダムのうちの神に従わねばならなかった。
彼のきれいな額と誇り高き目は
絶対的な支配者であることをあらわしていた。ヒアシンスのような巻き髪が、
顔の前でわけられていて、そこからぶどうの房のように、いい感じで
流れていた。その長さは、彼の広い肩の少し上くらいまでであった。
イヴの髪は金色で、その細い腰のところまで、まるで飾り気のない
ヴェールのように彼女をつつんでいた。
しばられたりせずに、髪は好き好きに小さな輪をつくりつつ波うっていた。
まるで、ぶどうのつたの丸まった先のような、そんなようすである。これが
示すのは従属、やさしく支配して、ということであった。
彼女はみずからをさし出し、それを受けいれる彼はうれしくてたまらない。
はにかみがちに、控えめながらも自己を主張し、
かわいらしく嫌がって、好きといいながらじらす、
そんなイヴのようすがたまらないのである。
あの不思議なからだの部分も、この頃はまだ隠されてはいなかった。
まだ罪の意識とか、恥とか、醜いとか、みだらとか、
自然がつくり与えたものについて、そんな考えかたはなかった。むしろ、
それは罪から生まれた美しくない偽の道徳にすぎない。そんなものがどれだけ
人々を苦しめてきたことか、ただの見せかけ、汚れのないふりを強いることによって!
いかに人々のくらしからいちばんの幸せ、
偽りのない、一点のしみもない、そんな無垢なよろこびを奪ってきたことか!
こうして、ふたりは裸で歩いていった。神や天使たちに見られても
特に気にすることなく。ふたりにやましいことなど、何もなかった。
こうして、ふたりは手をとりあって歩いていった。これまで
愛しあい、抱きしめあってきたカップルのなかでも、もっとも美しいふたりであった。
アダムは、彼の子孫の男たちのなかでいちばん美しかったし、
イヴも、彼女の娘たちのなかでいちばんきれいだった。
重なりあって陰をつくる木の葉たちが、緑の野原の上、
ささやきあっているところ、澄んだ泉のそばに
ふたりはすわった。楽しい庭の仕事を
少し、その後の涼しい西風が気持ちよく
感じられるくらい、安らぎがより安らかに
感じられるくらい、心地よい飢えと渇きを
感じるくらいの仕事をした後だったので、ふたりは夕食の果実を食べた。
桃の木は、みずから枝をさし出して、よろこんでその実を
彼らに与えた。羽毛のようにやわらかい草の生えた水際、
色とりどりの花々のあいだにすわるふたりに。
おいしい実にかぶりつき、またのどが渇けば
その皮を器にしてあふれる泉の水を飲んだ。
もちろん、楽しく会話しながら、愛おしげにほほえみあい
ながらである。若い恋人たちだから、当然いちゃついたり
もした。結婚のきずなで結ばれていたのだし、
またそばに誰もいなかったのだから。

* * *
John Milton
Paradise Lost, 4: 289-340

Two of far nobler shape erect and tall,
Godlike erect, with native Honour clad
In naked Majestie seemd Lords of all, [290]
And worthie seemd, for in thir looks Divine
The image of thir glorious Maker shon,
Truth, wisdome, Sanctitude severe and pure,
Severe but in true filial freedom plac't;
Whence true autority in men; though both [295]
Not equal, as thir sex not equal seemd;
For contemplation hee and valour formd,
For softness shee and sweet attractive Grace,
Hee for God only, shee for God in him:
His fair large Front and Eye sublime declar'd [300]
Absolute rule; and Hyacinthin Locks
Round from his parted forelock manly hung
Clustring, but not beneath his shoulders broad:
Shee as a vail down to the slender waste
Her unadorned golden tresses wore [ 305 ]
Disheveld, but in wanton ringlets wav'd
As the Vine curles her tendrils, which impli'd
Subjection, but requir'd with gentle sway,
And by her yielded, by him best receivd,
Yielded with coy submission, modest pride, [ 310 ]
And sweet reluctant amorous delay.
Nor those mysterious parts were then conceald,
Then was not guiltie shame, dishonest shame
Of natures works, honor dishonorable,
Sin-bred, how have ye troubl'd all mankind [ 315 ]
With shews instead, meer shews of seeming pure,
And banisht from mans life his happiest life,
Simplicitie and spotless innocence.
So passd they naked on, nor shund the sight
Of God or Angel, for they thought no ill: [ 320 ]
So hand in hand they passd, the lovliest pair
That ever since in loves imbraces met,
Adam the goodliest man of men since borne
His Sons, the fairest of her Daughters Eve.
Under a tuft of shade that on a green [ 325 ]
Stood whispering soft, by a fresh Fountain side
They sat them down, and after no more toil
Of thir sweet Gardning labour then suffic'd
To recommend coole Zephyr, and made ease
More easie, wholsom thirst and appetite [ 330 ]
More grateful, to thir Supper Fruits they fell,
Nectarine Fruits which the compliant boughes
Yielded them, side-long as they sat recline
On the soft downie Bank damaskt with flours:
The savourie pulp they chew, and in the rinde [ 335 ]
Still as they thirsted scoop the brimming stream;
Nor gentle purpose, nor endearing smiles
Wanted, nor youthful dalliance as beseems
Fair couple, linkt in happie nuptial League,
Alone as they. . . .

* * *
堕落前のアダムとイヴ。

17世紀の(やや特異な)男性が描く、
理想的な男性と女性のありかた、
理想的な男女関係・夫婦関係。

* * *
311行目の訳は2行に。

* * *
英語テクストは次のページより。
https://www.dartmouth.edu/~milton/reading_room/
pl/book_4/text.shtml

* * *
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