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Browning, R., "Eurydice to Orpheus"

ロバート・ブラウニング (1812-1889)
「エウリュディケがオルペウスに--レイトンの絵--」

それだけでいい、あなたの口、目、顔が見たい!
吸いこまれたい! 一目見てくれるだけでいい、
それがわたしをずっとつつみこんでくれる。わたしが
その光のなかから出ないように、外に広がる闇に出ないように。
しっかりわたしを抱きしめて、拘束して、
永遠のまなざしで! 過去の悲しみ、
そんなのみんな忘れる。これからあるかもしれない怖いこと、
それもみんな平気--過去も未来もどうでもいい。今、一目わたしを見て!

* * *
Robert Browning
“Eurydice to Orpheus: A Picture by Leighton”

But give them me, the mouth, the eyes, the brow!
Let them once more absorb me! One look now
Will lap me round forever, not to pass
Out of its light, though darkness lie beyond:
Hold me but safe again within the bond
Of one immortal look! All woe that was,
Forgotten, and all terror that may be,
Defied, --- no past is mine, no future: look at me!

* * *
ギリシャ神話中の有名なエピソードを、ブラウニングお得意の
独白スタイルで。エウリュディケの視点、彼女の言葉だけを
切りとっている。

タイトルにあるフレデリック・レイトンの絵は、このURLに。
http://www.rbkc.gov.uk/lordleightonsdrawings/
ldcollection/paintingrecord.asp?workid=1642

とりあえず、ここではモノクロ版を。

Ernest Rhys, Frederic Lord Leighton, 1900より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/30262

この絵のポイントはオルペウスの顔・・・・・・
ではなく、中央に描かれた彼の右腕と右手。

次のURLのデッサンでも強調的に。
http://www.rbkc.gov.uk/lordleightonsdrawings/
ldcollection/drawingrecord.asp?workid=1014

オルペウスの右腕の筋肉の張りは、力がかなり
入っているようすを示している。

それに対して、彼の手がおさえているエウリュディケの
肌は、ほとんど凹んでいない。

つまり、この絵は、エウリュディケを見ない、
というオルペウスの強い決意のようなものと、
彼女に対するやさしさ、いたわりのようなものを
同時に描こうとしている。

(彼女を見てしまったら、永遠に彼女を失うことになる
--Herrickの "Orpheus" を参照。)

成功しているかどうか、オルペウスのなんとも
いえない微妙な表情も、この葛藤をあらわそうと
している。

デッサンにはっきり見られるように、力の抜けた
状態で宙に浮いているオルペウスの左手も重要。

見えない左腕が腰までまわっている
(ほとんど抱きよせるかたちになっている)のは、
オルペウスがエウリュディケを愛おしく
思っていることを示す。

最終的に彼の左手が彼女を抱きよせていないことは、
そうしてはいけない、彼女を見てはいけない、という
彼の意識をあらわす。

* * *
リズムは弱強五歩格(歌ではなく、散文や会話に近いリズム)。
最後の行だけ弱強六歩格--"Defied"(二音節)+ 弱強五歩格。

* * *
英文テクストは、The Poetic and Dramatic Works of
Robert Browning
, vol. 4 (1890) より。
http://books.google.com/books/about/The_Poetic_and_
Dramatic_Works_of_Robert.html?id=9jAwAAAAYAAJ

* * *
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Herrick, "Orpheus"

ロバート・ヘリック (1591-1674)
「オルペウス」

詩人たちは語る--オルペウスは、エウリュディケを
連れ戻すために地獄に行った。
そして彼女をとり返すが、
短くも厳しい条件つきであった。
彼は、後ろを見てはいけなかった、黄泉の国の
暗がりのなか、彼女の手を引いていくあいだは。
しかし、ああ! 彼は、
あの恐ろしい薄闇を通っていたとき、
愛しげなまなざしでふり返ってしまった、
不安、やさしい気づかいから。
こうして後ろを向いたとき、そのまなざしが、
彼とエウリュディケを永遠に引き裂いた。

* * *

Robert Herrick
"Orpheus"

Orpheus he went, as poets tell,
To fetch Eurydice from hell;
And had her; but it was upon
This short but strict condition:
Backward he should not look while he
Led her through hell's obscurity:
But ah! it happened, as he made
His passage through that dreadful shade,
Revolve he did his loving eye,
For gentle fear or jealousy;
And looking back, that look did sever
Him and Eurydice for ever.

* * *

リズムは、ストレス・ミーター(四拍子)だが、
歌ではなく語り的な雰囲気を出すために、
ビート(拍子)と語のストレスが、頻繁に
ずらされている。

(あるいは、このような詩の場合、
とりあえず/なんとか四拍子で
物語をまとめただけ、という気が
しないでもない。)

(スキャンジョンはまた後日。)

* * *

ギリシャ神話中の有名なエピソード。
絵などの題材としても、頻繁にとりあげられる。

たとえば、コローの「オルペウスが冥界から
エウリュディケを連れ出す」。


Jean-Baptiste-Camille Corot,
Orpheus Leading Eurydice from the Underworld
Scan by Mark Harden
(Harden氏のサイトartchive.comの指示通り
HPに直接リンクを。)

(オリジナルはHoustonに。)
http://mfah.org/art/detail/corot-
orpheus-leading-eurydice-underworld/

この絵のポイントは、実に不機嫌なエウリュディケ。

顔が明らかに不機嫌。だらりと垂れた右腕もおかしい。
背中は猫背気味。踏み出した足から上半身までの
ラインを見ると、明らかに体重は後ろにかかっている。

何よりも、この手のつなぎ方はどうなのか。
エウリュディケの側からは手をつないでいない。
手首をつかまれて、「来いよ!」と無理やり
連れて行かれている・・・・・・。

それに対してオルペウスは、彼女を連れて帰る気満々。
「行くぞ!」と掲げた左腕、明らかな前傾姿勢、
エウリュディケの手首を握る右腕の力の入り具合・・・・・・
しかし、そもそもエウリュディケの手首を握る右腕に
力を入れなくてはならないとは、どういうことか。

この絵において、エウリュディケは、明らかに
帰りたがっていない。なぜか?

エウリュディケの視点から、もう一度二人の物語を
読んでみる。

---
1. 結婚直後に彼女は蛇に噛まれて死んだ。
(何よ、これ・・・・・・。ウソでしょ・・・・・・。)

2. 夫が自分を連れ戻しに、危険を冒して冥界まで来てくれた。
(やったー! 帰れる! わたし幸せかも!)

3. 帰りの道中、夫は自分を見ない。話しかけてもこない。
(え・・・・・・? これ、どういうこと?)

4. いろいろな疑念が頭をかけめぐる。
(この人、何を考えてるの? わたしに会いたいんじゃなかったの?
生きて帰れても、こんなのイヤ・・・・・・。)
---

このような、より現実に即したシナリオを、
コローは独自に想定してこの絵を描いた、と思われる。

こうして見ると、死別を悲しんでいるように見える
人々(描かれた川はステュクス、いわゆる三途の川)が
背景に描かれている意味が見えてくる。つまり、
これらの人々により、生きて帰れる幸せが理解できて
いないエウリュディケの不機嫌さが、より際立つ。

また、こうして見れば、この絵に描かれた場面に
すぐつづくシナリオも見えてくる。

(ステュクスが描かれているので、生の世界は
すぐそこ。そこでオルペウスは、ふりかえって
エウリュディケを見てしまう。)

---
エウリュディケ:
ねえ、どうしてわたしのほうを見ないの?
どうして一言もしゃべらないの?

オルペウス:
・・・・・・。(見ちゃいけない、話しちゃ
いけない、ここがガマンのしどころ・・・・・・。)

エ:
ねえ、どういうこと? わたしのこと好きだから
来てくれたんじゃないのじゃないの?

オ:
・・・・・・。(うわ、頼むよ、わかってくれよ・・・・・・。)

エ:
ねえねえ、一言もしゃべらないって変じゃない?
わたしのほうを見ないって おかしくない?
ねえ、どういうつもり? わたしを連れて帰って
何かいいことあるの? こんなのだったら、
わたし帰らないから。もう痛いから手を離して。
ひとりで行って。バイバイ。さよなら。
新しい彼女でも見つけたらいいんじゃない?
・・・・・・あ、もしかして、もう見つけた?
よかったじゃない、ここで別れましょ。さようなら。
あなたって、ホント最低。わたし、ヘビに噛まれて
よかったわ・・・・・・。

オ:
な、何いってんだ、バカヤロウ! オレはな・・・・・・・
(と、ふり返ってしまう・・・・・・。)
---

以上、一部いろいろ暴走しつつも、大筋は間違って
いないはず。オウィディウス『変身物語』(第10巻)に
ある、次のような結末とは、別のかたちで泣かせる。

(オルペウスがふり返ってエウリュディケを見る。)

エウリュディケ:
「さよな・・・・・・(冥界に迎えに来てくれるほど、
ダメだといわれているのにやっぱり後ろをふり返って
見てくれるほど、愛してくれてありがとう・・・・・・)」

* * *

英文テクストは、Robert Herrick, The Hesperides and
Noble Numbers
, ed. A. Pollard (London, 1898),
vol. 1 より。http://www.gutenberg.org/ebooks/22421

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