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Keats, ("In drear-nighted December")

ジョン・キーツ (1795-1821)
(「わびしく、夜のように暗い十二月」)

I.
わびしく、夜のように暗い十二月の
幸せな木、幸せすぎる木よ。
おまえの枝はけっして覚えていない、
緑色だったころの幸せを。
それらは枯れて落ちない、
みぞれまじりの北風が音を立てて通りすぎても。
雪どけ水はまた凍り、おまえの枝も固まって、
春に芽を出すことなど思い出さない。

II.
わびしく、夜のように暗い十二月の
幸せな川、幸せすぎる川よ。
おまえに浮かぶ泡はけっして覚えていない。
夏のアポローンのまなざしを。
心地よい忘却のなか、それらは水晶のように凍り、
過去についてなどくよくよしない。
けっして、絶対に、文句をいわない、
凍える季節に対して。

III.
ああ、そうだったらいいのに、
心やさしい女の子や男の子、みんなにとって。
だが、そんな人はいただろうか?
過ぎ去った幸せに、身をよじるほどの痛みを感じない人は?
その痛みを感じないという感じ、
それをいやすものはなく、
鉄のように感覚を麻痺させることもできない、
そんな痛みを感じないという感覚を、歌った人はいない。

* * *
John Keats
("In drear-nighted December")

I.
In drear-nighted December,
Too happy, happy tree,
Thy branches ne'er remember
Their green felicity:
The north cannot undo them,
With a sleety whistle through them;
Nor frozen thawings glue them
From budding at the prime.

II.
In drear-nighted December,
Too happy, happy brook,
Thy bubblings ne'er remember
Apollo's summer look;
But with a sweet forgetting,
They stay their crystal fretting,
Never, never petting
About the frozen time.

III.
Ah! would 'twere so with many
A gentle girl and boy!
But were there ever any
Writh'd not of passed joy?
The feel of not to feel it,
When there is none to heal it,
Nor numbed sense to steel it,
Was never said in rhyme.

* * *
以下、訳注と解釈例。

5 undo
多義的な表現。(下のgentleも参照)。
服を脱がす(OED 3b)、元に戻す(OED 7a, 7b)、
破壊する(OED 8)。

7 Nor
= Or (OED 4)。

8 From
なんらかの状態、状況、行為が奪われること、そこから
切り離されること、解放されることをあらわす(OED 6b)。
"Prevent (人/もの) from -ing" といういい方などのfrom.

8 budding
芽を出すこと。過去のものか、これからのものか、あいまい。

8 prime
春(OED 7)。

12 Apollo's summer look
Apolloはギリシャ神話の太陽神アポローン。太陽のこと。
そのsummer lookとは、夏の太陽の光。

14 stay
止める(OED III)。

15 crystal
川の水が水晶のように透きとおり、また水晶のように
凍っているようすをあらわす。

18 gentle
やわらかい、しなやかな(木の枝; OED 5)--第1スタンザにつながる。
静かに流れる(川; OED 6b)--第2スタンザにつながる。
もともと「高貴な生まれの」という意味の言葉だが、ここでは
この意味は無関係。

24
つまり、そのようなもの(過ぎ去った幸せを思い出して
苦しまない、ということ)はありえない、ということ。

* * *
全体の要約:

I.
枯れてしまった冬の木は、夏、緑色に生い茂っていたときのことを
覚えていない。

II.
凍った冬の川は、夏、太陽に照らされて流れていたときのことを
覚えていない。

III.
しかし、幸せを失った人は、幸せだったときのことを忘れられない。

* * *

By Stanley Howe
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Frozen_river_bank_-_geograph.org.uk_-_1640260.jpg

* * *
この詩のポイントは、第1-2スタンザで、過去の幸せを覚えていない
木や川を「幸せすぎる!」といっているが、本当にそれは幸せか?
という疑問が残ること。

満たされていない状態にあって、満たされていた過去を
思い出すことはつらいことかもしれないが、満たされていない状態のなか、
凍った木の枝や川のように心を凍らせてしまうというのは、どうなのか?

鉄のように心を麻痺させて生きるということは可能か?
可能であったとしても、それは幸せなことか?

("[D]rear-nighted December" というフレーズから、
答えはノーであることが明らか。)

このような、ものごとを両面からみるような思考のスタイルが、
「ギリシャ壺」や「ナイチンゲール」に引きつがれることになる。

「ギリシャ壺」
古代の壺に描かれた永遠と、いずれ老いて滅びる人間の世界、
どっちが幸せ?

「ナイチンゲール」
酒、アヘン、芸術などによる陶酔とシラフの状態、
どっちが幸せ?

* * *
リズムと形式について。



リズムはストレス・ミーター(四拍子)。各行とも、ビート三つに
言葉がのっている。脚韻パターンはababcccdで、aとcのところは
女性韻、またdのところは三スタンザ共通(prime/time/rhyme)。

---
ふつうの脚韻(男性韻):
行末の母音(+子音)が同じ音。この母音にはストレスあり。

女性韻:
行末の母音(+子音)+母音(+子音)が同じ音。
最初の母音にはストレスあり、あとのものにはストレスなし。
Dec-ember/rem-emberとか、und-o them/thr-ough themとか。
---

この詩形/リズムは、Drydenの劇 The Spanish Fryar
挿入された歌("Farewell ungratefull Traytor")から借りたもの。
(このドライデンの詩は、20111210の記事に。)

* * *
英文テクストは、Project Gutenberg Consortia Centerのもの。
http://ebooks.gutenberg.us/Alex_Collection/
keats-stanzas-503.htm

* * *
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浜松市楽器博物館

浜松市楽器博物館(静岡)
Hamamatsu Museum of Musical Instruments
http://www.gakkihaku.jp/
20111109

ラナート(タイ)


エチオピアの楽器


弦楽器


管楽器


チェンバロ


ダルシマー


* * *

ダルシマーを弾く少女の
幻を見たことがある。
あれはアビシニアの子。
ダルシマーを弾き、
アボラの山を歌いつつ・・・・・・。

A damsel with a dulcimer
In a vision once I saw:
It was an Abyssinian maid,
And on her dulcimer she played,
Singing of Mount Abora.
(Samuel Taylor Coleridge, "Kubla Khan," ll. 37-41)



(Bのところで軽く拍子を。ストレス・ミーターですが、
バラッド的で素朴な雰囲気ではなく、内容ともあいまって
異国的で神秘的な香りがただようリズムになっています。)

* * *

英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Samuel Taylor Coleridge
、vol. 1, 1912より。
http://www.gutenberg.org/files/29090/
29090-h/29090-h.htm

* * *

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(この記事の画像は、みな私が撮影したものです。)


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