晴走雨読

晴耕雨読ではないが、晴れたらランニング、雨が降れば読書、きままな毎日

『無理』 奥田 英朗 著

2010-03-13 20:02:26 | Weblog
 年度末で夜も営業が続く。明日、日曜日も営業。「晴走雨読」できない日々。明けない夜は無い。大変さの中の「幸せな時間」。



 『無理』(奥田英朗著 文芸春秋 2009年刊) 

 本書は、先月のNHK週刊ブックレビューで紹介され、絶賛されていました。

 合併でできた地方都市で暮らす5人、県から市役所に派遣されている福祉ケースワーカー、東京の大学に行きたい高校2年生の女生徒、詐欺まがいの商品を売る元暴走族のセールスマン、スーパーの保安員をしながら新興宗教にすがる中年女性、県議会をめざす市会議員。出口のないこの社会で、彼らに未来は開けるのか。

 グイグイとストーリーに引き込まれて読んでしまう小説です。奥田英朗作品は初めてですが、面白く楽しめます。細かい心理描写や細部にわたる書き込みがないので500ページを超える大作ですがテンポ良く読めます。

 小説を構成した過程が見えます。東北のある田舎町を舞台に、全く何の関係の無い5人の主人公がそれぞれの生活を営んでいる様子を描きます。途中、5人が少しずつ絡みだし、最後はひとつに繋がります。このストーリーを、逆から追って書くこともできたはずです。
ガラスの容器を床に落として割れてしまった場面を、スローモーションで反転させると、ひとつひとつの破片が、寄せ集まってひとつの形になるように。

 全編に何とも言えない閉塞感が貫かれています。ひとりひとりは、小さな希望を持ちながら生きていますが、現実は重く、叶えることができません、否、全く逆の方向に流れてしまいます。すなわち「無理」なのです。

 舞台が東北だからではありません。北国の冬空のように、どんよりとした雲が立ち込め、日も差さず薄ら寒いのです。時代の空気を良く描いています。私たちは、今どのような時代に生きているのだろうか、という問いに、この小説は「ああ、私たちは、今、こんな時代に生きているのだなあ」と答えてくれます。

 ただ、ラストの落しどころは、つまらないものになってしまいましたが・・・
 
コメント
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