晴走雨読

晴耕雨読ではないが、晴れたらランニング、雨が降れば読書、きままな毎日

『トラストDE』

2010-01-02 17:45:33 | Weblog
 『トラストDE ヨーロッパ滅亡史』(イリヤ・エレンブルグ著 河出書房新社 1970年刊)

 2010年最初の書評『トラストDE』とは、我ながらアナーキーなスタートだと思う。トラストDEすなわちヨーロッパ撲滅トラスト、エンス・ボートという主人公が徹底的にヨーロッパを破壊し尽くすというストーリー。そこには、今で言う細菌兵器や毒ガス、覚せい剤などに通じるようなSF的な破壊手段が登場する。数年間で、ヨーロッパは人っ子一人いない荒野と化す。

 作者のエレンブルグは、ソ連の作家でこの作品は第一次世界大戦直後の1923年に発表されている。なぜにヨーロッパが撲滅されなければならないのか、それは特に書かれていない。それを考えるためには、1920年代という時代の気分を考えて見なければいけないのではないか。

 第一次大戦後は、パックスブリタニカからパックスアメリカーナへの転機、産業革命後のヨーロッパ中心主義、西欧合理主義に影が見え始めた時期だった。それをいち早く感じた著者が、ヨーロッパ的な都会文明、ブルジョア文化に対し想像力の攻撃を仕掛けたのが本書なのであろう。

 私にとって、もうひとつのなぜがある。私は、1975,6年頃、この『トラストDE』の芝居に少し関わったのであるが、調べて見ると、演劇センター68/69で1969年から1970年にかけて『トラストDE』が上演されたという記録がある。おそらく、黒色テントの芝居に影響され、誰かが持ち帰り、それをこの地で真似たのであろう。

 この、1970年前後もまた高度経済成長の矛盾が公害という形で噴出するなど、西欧合理主義に基づく科学技術に対する問い直しがあった時期である。大学が問われ、学問が問われ、技術、思想・・あらゆるものの権威が懐疑に晒された時期であった。

 パックスアメリカーナの限界が見えた今、新たな『トラストDA』(アメリカ撲滅トラスト)が創造される時が来ている。

 
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