整形外科的緊急時の肢の応急固定。堅いな~。しかし、これに関して思い出話を書いておこう。
獣医師の数が多い診療所では他の獣医師の話からも学ぶことができる。
もちろん文献や成書から学ぶのとは、客観性や正確度が違うが、同じ環境での症例についての話は非常に参考になる。
ANECDOTE ;逸話、逸事、秘史、秘話、things unpublished (記載されていない事象)、も臨床家にとって貴重なものだ。
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仔馬の橈骨骨折の症例が運ばれてきた時は、仔馬は立てないように押さえつけられて来た。
橈骨近位の骨折だったので、これは正解だったかもしれない。
もし、正しく応急処置しようとすればフルリムキャストを巻いて、肢が外へ開いてしまわないように肩まで添え木を伸ばす必要がある。
そんなものを用意しているよりは、押さえつけて手術できる所へ運んだのが助かった要因の一つだろう。
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種雄馬の第一指骨骨折は、蹄尖まで覆う正しいハーフリムキャストをして、発症翌日来院した。
気性の激しい種雄馬で、正しくキャストを巻くのは簡単ではなかったはずだ。
骨折は第一指骨のほぼ全長にわたっていた。
完全に割れてしまっていたら・・・・・予後不良だったかもしれない。
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仔馬の第一指骨の近位成長板損傷の離開はキャストをして来院したが、発症から数日経っていた。
オーナーが手術するかどうかの決断に数日かかった。
結局、馬の症状を見ていて手術するしかないと決断したようだった。
プレートで固定する手術をしたが、結局、感染して駄目になった。
手術したときにはキャスト擦れで皮膚が破れて化膿していた。それは手術後の感染の元になっただろう。
発症して、すぐに手術していたらと残念だった。
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脛骨近位の成長板離開の連絡を、休日に出かけた先でもらった。
翌日に手術することにして、その日帰ってきてからT字プレートや器具を用意した。
成長板離開は over ride (騎乗;骨折部が筋肉の収縮で縮んで短くなってしまうこと)しないで済むことが多いが、脛骨近位の成長板離開でも周囲の損傷がひどくなる前に早く手術することが望ましいと成書にも記載されている。
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今まで、何頭も上腕骨骨折や大腿骨骨折を診てきた。
予後不良と判断して安楽死しても、できるだけ解剖場で骨折部位を確認して、治療するとしたらどのような内固定ができたか確かめるようにしている。
しかし、発症から時間が経っている例では、骨折した肢で馬をぶら下げても騎乗を整復できないことがある。
上腕骨や大腿骨を取り巻く筋肉の収縮はそれほど強い。
そして、上腕骨や大腿骨の骨折を有効に固定できる応急処置はない。
発症からできるだけ早く、騎乗変位しないうちに、X線検査と手術ができる施設へ運ぶしかない。
ひどく変位していなければ、治療できる可能性があるかもしれない。
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たいていのひどい骨折は、牧場も診た獣医師もあきらめてしまう。
そして、応急処置もされずに運ばれてくることが多い。
「駄目だと思うんだけど、一応持っていかせるから・・・・」
馬が骨折したようだと連絡を受けたら、x線撮影と必要な応急処置をできる用意をして駆けつけるようにすれば、助けられる馬も増えるだろうと思う。
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