真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻痴情 しとやかな性交」(2009/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:小山田勝治/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:大江泰介/照明助手:関将史/編集助手:鷹野朋子/現場応援:田中康文/出演:大貫希・日高ゆりあ・望月梨央・野村貴浩・なかみつせいじ・甲斐太郎・池島ゆたか・丹原新浩)。ポスターのみ、出演者に更に中川大資。
 心に疑ひがあると、ただの闇もそこに鬼が居るかのやうに見えて来る云々と、四文字熟語「疑心暗鬼」の意味を辞書的に解説する開巻。
 吉岡尚也(野村)は四年前に結婚した妻・マリエ(大貫)と、死別した両親の遺した実家に暮らす。一流企業に勤務し仕事も好調、全てが順風に推移してゐるかに思へた尚也の人生は、ある夜一変する。夫婦生活の最中に昏倒した尚也は心臓に重大な障害を負ひ、休職し自宅療養生活に入ることとなつてしまつたのである。そんな折、マリエの妹・はるか(日高)が住んでゐたアパートを取り壊しで追ひ出されたと吉岡家に転がり込み、挙句に、何処で拾つて来たのか下手な親子並に歳の離れた中年男・高橋和彦(なかみつ)を、居候の分際で同棲相手として連れて来る。万事に辛抱を強ひられる中、仕事を始めるでもなく昼間から人の家で酒を飲み情事に戯れるはるかと高橋に、尚也は苛立ちを隠せない。加へて薮蛇な矛先はマリエにも向けられ、自分が体を壊したといふのに以前よりも陽気になつたのではないか、あるいは周囲の男達と関係を持つてゐるのではあるまいかと、尚也は妻にも猜疑を抱く。挙句にはるかは昔から社交的なマリエに、高校時代には当時付き合つてゐた男を寝取られたことすらあるだなどと、余計な過去を吹き込み尚也の焦燥に火に油を注ぐ。
 大きく開いた胸元から覗く、見せつけるやうな―実際見せつけてゐるのだらうが―悩ましい谷間が超絶に堪らない望月梨央は、評判のパン屋「ラッキーベーカリー」の店主・サツキ。よしんば脱がなくとも、黙つて立つてゐるだけで既に何とも扇情的といふのは、得難い戦力だ。甲斐太郎は、サツキとのW不倫の事実をマリエに握られてしまふ、不動産屋・久保田。口止めがてら吉岡家庭の敷地に、好条件でのアパート建設を持ちかけ、当然思ひ出を残す尚也を更に複雑な心境にさせる。中川大資と丹原新浩は、それぞれ別個に吉岡家を訪れる明和生命のセールスマン・村上、兼東西新聞の拡張員と、営業がてら様子を見に訪ねてみた尚也の後輩・五十嵐。自身も脱いでの濡れ場参戦は、実は結構久方ぶりにもならう池島ゆたかは、こちらも珍しくノー・ガードで実名登場する千葉市立海浜病院の、尚也主治医・大槻。高橋まで含めて当然全員が、尚也の疑念の対象となる。
 とりあへずといふべきか、それとも兎にも角にもといふべきか。主演女優の大貫希、まあ首から上も下も古めかしい古めかしい。良くも悪くもといふか個人的には後者の方向で、昭和のスメルを濃厚に漂はせる。迎へ撃つ野村貴浩も野村貴浩で、ガチャガチャと見苦しく消耗するばかり。そもそも、馬鹿正直に冒頭にテーマを明かしてしまつた親切設計が、完全に徒となる。病に倒れた男が全方位的に邪推を振り回し、自縛あるいは自爆する。その様子を通して、「嗚呼、この映画は疑心暗鬼がテーマなんだな」と思ひ至つたならばそれはそれだけでも一つの体験たり得ようが、初めに「この映画は疑心暗鬼がテーマです」と御丁寧にも宣言されてしまつては、貧弱なキャストに力を有し損なふ始終は、「ああさうなんですか」と、全く単にそれだけの話でしかなからう。リストラされた途端に、ローンを払ひ終へたばかりのマイ・ホームも妻子に奪はれ、正しく全てを失ひつつ奇跡的にはるかに拾はれた、高橋の立場にそれまで蔑視してゐた尚也が理解を示しかけた件には、順当な人情映画としての持ち直しも偶さか予感させたものだが、どうやらそれも早とちりに過ぎなかつたやうだ。尚也の辿る境遇としても、映画総体の在り様としても二重に実も蓋も挙句に救ひもない一作に、順番上最後の絡みに登場する池島ゆたかが、晩年のマーロン・ブランドばりの有難くない巨躯のインパクトで止めを刺す。


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