真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 尻を撫でまはす」(1991『痴漢電車 通勤濡れ事師』の1996年旧作改題版/製作・獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:笠井雅裕/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:国分章弘/撮影助手:小山田勝治/照明助手:市川達也/スチール:佐藤初太郎/車輌:広瀬寛巳/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/出演:相原めぐみ・水鳥川彩・南野千夏・中村京子・杉下なおみ・中山久美子・小林節彦・田向宝史・川崎季如・岡田英一・田村日出海・高橋政則・国分章弘・山崎光典・榎本祥太・広瀬寛巳・和加山雄三・山本竜二・池島ゆたか・荒木太郎)。出演者中川崎季如から高橋政則までと、山崎光典から和加山雄三までは本篇クレジットのみ。寧ろ、特定出来るほど大きな役でないにも関らず、国分章弘が―川崎季如もさし措いて―何故ポスターに載るのか不思議。
 蝉の音鳴る境内、セーラー服のミヤコ(相原)が、「どうか一郎さんがエッチなことばかり考へませんやうに」とお参り。すると当の今村一郎(荒木)がおおいとミヤコの名を呼びポップに登場、ユニオンジャックのタンクトップに、鍔を畳んだ二つ折りを合はせた荒木太郎のファッションが眩しくてクラクラ来る。田舎を捨て上京を決意した一郎に、ミヤコも脊髄で折り返して追随。所謂ABCのCは一郎が一人前になつてからといふ条件つきでの、青姦開戦、相原めぐみの超絶オッパイが火を噴く。都心の幹線道路を横断する鉄橋のロングに、ファンファーレ的な劇伴が堂々と起動してタイトル・イン。サクッとサラリーマンになつた一郎が、ナツミ(水鳥川)に限りなく自動的な勢ひで電車痴漢。ナツミもベロチューで応じるお熱い様子に、小林節彦×山本竜二×田向宝史が憎々し気にガンを飛ばす。中途で降りた一郎を、岸本学か勉(山本)以下「痴漢卍党」が捕獲。三人がかりでボコッた上、シマ荒らしの痴漢が出来ぬやう、コバセツは一郎の右手をブロックで潰す。無闇にブルータルな界隈だといふのは兎も角、うつらうつら、もといつらつら進行する高速展開が実に心地よい。
 配役残り杉下なおみは、懲りずに一郎が電車痴漢を働く被弾要員。池島ゆたかはその現場を目撃し感心、一郎に接触を果たす、三年前に引退した痴漢一筋五十年のベテラン痴漢師・桃山才蔵。自身が七連覇も果たした、優勝すると縄張りフリーで痴漢の出来る、痴漢道チャンピオンシップに一郎の参加を促す切り口が、「お主、痴漢に人生を賭けてみる気はないかね?」、なんて鮮やかなんだ。中山久美子は、岸本がナツミと会敵する一方、コバセツと田向宝史に輪姦される被弾要員。とかくこの映画、信じられないくらゐ破天荒な濡れ場を、勿論他の、あるいは素面の乗客も乗る実車輌で大敢行してのける。南野千夏は痴漢卍党を従へる、ビザールな姐さん。四人が稽古する道場にナツミが現れ、弟子入りを直訴、認められる。中村京子は、心臓に爆弾を抱へる桃山を、看取る格好となる被弾要員。川崎季如(a.k.a.川崎浩幸/a.k.a.かわさきひろゆき)は、“新都庁完成記念杯”を冠して執り行はれる痴漢道チャンピオンシップの審判、虚仮威し具合も清々しい。国分章弘と本篇クレジットのみ隊は乗客要員といふよりも、主に選手権に参加するその他痴漢部か。凡そ三十年前ともなると当然に過ぎないがひろぽんが若く、今岡信治の髪も黒い。
 神野太の「女子大生 わいせつ集団」(1991/主演:野坂なつみ)に引き続き、チョロメで突破したエク動で笠井雅裕1991年第二作。当面、あるいは早くも。これでエク動の中に未見作はなくなつてしまつたが、何か入れて呉れたら何時でも釣られる用意はある。旦々舎なり新田栄なり、弾はなんぼでもあるぢやろ。監督デビュー後の笠井雅裕(a.k.a.カサイ雅弘)は足掛け五年でピンク十四本と薔薇族二本を残し、以降はAVを主戦場に、今なほ現役。その間『PG』―前身の『NEW ZOOM-UP』―誌主催のピンク大賞(昭和63~2018)に於いてはそれなり以上に常連でもあつたものの、当時何を以て笠井雅裕が然様に持て囃されてゐたのか、未だ半分も観るなり見られてゐない当サイトはてんで理解してゐない。
 昔気質の師を得た劣情もとい情熱と才能に溢れた若き主人公が、新興の邪道組織と対決する。オーソドックス極まりないフォーマットと、痴漢電車を何も考へず素直に直結。九月公開となると別にお盆映画といふ訳でもないのに、中村京子をもが四番手に控へるアメイジングに豪華な布陣を擁し、卍党の特訓風景は、概ねどストレートな乱交で消化。師の死といふイベントにも女の裸はガッチリ欠かさず、桃山の屍を乗り越えてなほ、最終決戦に挑まんとする一郎にミヤコがその身を遂に捧げる濡れ場は、中途で済ますのが激しく惜しいエモーションを撃ちかける。結構な人数が参加した選手権を、開始の合図で皆が―多分駅に―爆走するカットから、ザクッと岸本V.S.一郎の決勝戦に端折る大胆な繋ぎは御愛嬌。そこかしこどころか至るところ大雑把といふ面に於いては必要な手数は足らないにせよ、不用意な色気なり余計な意匠も特には見当たらない中、六十分にも幾分余した尺を、一息の勢ひで綺麗に駆け抜ける。何より、物語が痴漢電車でなくてはならない、この上ない必然性の強さが素晴らしい。消費され後には何も残さない、量産型娯楽映画の宿命に潔く殉じたといふ見方も成立しようかとはいへ、歴史の海に沈んだもしくは、より直截には塵の積もつた山に埋もれた、一度通れば忘れ難い痴漢電車の佳篇。七十二時間の視聴で四百円は決して安くはないが、かうして見られてよかつたのと、笠井雅裕を、少しだけ見直した。


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