真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「年上のOL 悩ましい舌使ひ」(2005/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:吉行由実・本田唯一/原題:『センチメンタル・メロンソーダ』/撮影監督:清水正二/編集:鵜飼邦彦/音楽:加藤キーチ/助監督:小川隆史/監督助手:三浦麻貴/撮影助手:葛西幸祐・花村也寸志/照明助手:広瀬寛巳/協力:岩村翔子・有限会社アップリンク/出演:谷川彩・関本真矢・華沢レモン・鏡野有栖・平川文人・吉行由実・野村貴浩)。ブタさんがトコトコ歩いて来るオフィス吉行のカンパニー・ロゴが、2004年の薔薇族映画「せつないかもしれない」(脚本:吉行由実・本田唯一/主演:千葉尚之/当然未見)がさうでなければ、本作に於いて初めて使用される。
 アップリンク・ギャラリーに勤める姫宮ナリコ(谷川)は、大量の資料をペラペラの紙袋に詰め込み8時26分の通勤電車に急いでゐたところ、案の定負けた袋が裂けてしまひ往生する。自転車通学の途中その様子を見てゐた近所の名門校・落合高校生徒の天上タカシ(関本)が、散らばつた荷物を拾ふのを手伝ふのに加へ、学校指定の鞄も貸し助けて呉れる。タカシがかつてからナリコを注視してゐたらしいことはその場の勢ひでさて措き、二人は親しくなる。妻も居るといふのに、画廊のオーナー・鳳リュウジ(野村)がナリコを狙つてゐると思しき件につき同僚の篠原サキ(吉行)からは釘も刺されつつ、ナリコには既に男女の仲にある彼氏・桐生(平川)が居た。尤も、二人の交際に関して万事にルーズな桐生と、ナリコは微妙な状態にあつた。遡つてみるならば、平川文人は薫桜子に遡り、谷川彩も役柄上満足させられなかつたことになる、不遇な役者さんだ。桐生とのことに頭の痛いナリコは若く快活なタカシと過ごす時間に居心地の良さを覚え、二人してズル休みし遊びに行つてみたりと、あくまで何となくではあつても次第に関係を深めて行く。約束の海外旅行をキャンセルした、穴埋めの中華料理にも更に大遅刻する桐生と、ナリコは終に別れる。鳳に連れて行かれた一週間の京都出張から帰京後、ナリコはお化け屋敷をやると誘はれてゐた文化祭を訪れてみるが、そこにタカシは現れなかつた。以来、タカシはナリコの前から姿を消す。
 時は流れ、ナリコの彼氏居ない暦と、この一年のサキの体重増加とを互ひに揶揄し合ふ中、ナリコはギャラリーに荷物を配達しに来た運送会社のアルバイトといふ形で、タカシと再会する。当時タカシはナリコが東京を離れてゐる間に、父親の急な転勤で転校したとのこと。そして元の家の近くの大学に進学したタカシは、東京に戻つて来てゐたのだ。二人は以前の如き、仲のいい姉弟のやうな関係を再開させる。一方、タカシには同級生の彼女・高槻リカ(華沢)も出来る。ある夜ゲームをしながらグダグダとタカシの部屋に結局一泊してしまつたナリコは、翌朝訪ねて来たリカと鉢合はせる。論を俟たず緊迫した空気の中、ナリコはリカに一応詫びるとタカシの部屋を後にし、以後距離を取る。見知らぬ年上の女に剥き出しの敵意を行儀悪く暴発させる荒れ芸は、華沢レモンの綺麗な持ちキャラといへよう。
 仕事は兎も角男には悩む働く女が、イケメンの弟のやうな若い男との出会ひにそれとなくといふかそれはそれとしてといふか、兎に角胸をときめかせる。昼寝中のワーキング・ウーマンとやらの寝言をそのままプロットに採用したかのやうな、量産される四コママンガの如き一作である。逆方向から攻めると、ムチムチの絶品ボディを誇りおまけにフットワーク抜群のカワイコちやんが、周囲のダメ男達皆を幸せにして下さる。女の都合のいい願望を形にするのも、男の怠惰な欲望であつても本質的に大差ないではないか。と、いつてしまへば確かにさうなのかも知れないが、ここは残念ながらピンク映画といふフィールドである、といふ限りなく実質的な形式的前提を勿論のこと等閑視しないならば、そもそも巨大な疑問は矢張り解消されない。加へて“女帝”浜野佐知のやうに、例へば頑丈な桃色方面の威力で男客をも捻じ伏せるといつた、力技による回避にも決して成功を果たしてゐるとはいへまい。よしんばピンクに名を借りた女性映画で御座いと堂々と開き直つてみせるにしても、なほのこと今作は三つの穴を抱へてしまつてゐる。順番を前後して二つ目の穴は、一旦は離れてしまふも思はぬ局面でナリコがタカシと再会するギミックを、しかもそのタカシは彼女つきといふ要件まで含めて二度繰り返してみせる芸の欠如。サキの引越しを手伝はされてゐたナリコは、遅れてやつて来るといふ男手がタカシであつたことに驚く。コッテリした人妻といふには如何せん苦しいが、ホンワカした―多分―女子大生役にはジャスト・フィットする鏡野有栖は、その際タカシが連れて来る新しい彼女・高槻若葉。タカシは実はサキの従兄弟であつたといふことだが、それもそれで劇中世間の狭さ以前に、些か不自然ではないか。ナリコとサキとは職場で親しく、となると必ずしも狭義の彼氏ではなくとも若いハンサムとの自慢話の一つや二つナリコも当然しさうなもので、さすればその彼氏未満のディテールから、サキは従兄弟との類似も通り越した近似を想起して不思議はない筈だ。タカシの隣の若葉の存在にしても、三人目の裸を見せる女優の要―俺としては、吉行由実御当人で全然構はないのだが―ならばいふまでもなく酌めるが、それにしても別に桐生なり、鳳に任せるといふ選択肢もあつたのではなからうか。三番目が、あるいは吉行由実といふ人を考へる上で重要なのかも知れない、最大の展開上の無理。ナリコはリカに対して身を引きタカシのことを忘れようとした上で、鳳と不倫関係を持つ。ものの不倫は所詮不倫、後に袋小路に陥つた鳳との関係も清算すると、サキの部屋に雪崩れ込み、酔ひ潰れる。その時点でナリコと従兄弟とのことも、そして従兄弟には現在若葉といふ彼女が居ることも知るサキが、処置に困つたナリコの回収に、選りにも選つてタカシを呼んでしまふのは猛烈に如何なものか。あれやこれやの力も借りればかなりの高確率で、二人が焼けぼつくひに火を点けてしまひかねないことは容易に予想される。たとへそのベッド・シーンが映画のハイライトであつたとしてもここでサキの採つた選択に、自身の非常識な悪意が透けて見えもするやうな気がしてしまふのは、純然たる小生の下衆の勘繰りであらうか。それにしても幾ら何でも、面白がるにせよ相手は他人ではなく親戚だぞ、といふ話である。
 序盤から全篇を貫くといふ意味では、顕在的にも致命的といへる第一の大穴は、締めのナリコとタカシとの濡れ場に際しては“好きだから、といふ一言をいふのが怖かつた”等々といふ次第で、一々のナリコとタカシ二人の他愛のない心情や時には状況描写を、のうのうと他愛もない言葉のままに谷川彩と関本真矢とに語らせてしまふモノローグ。吉行由実の、本来は地味に堅実な腕に拠れば特にそのやうな不格好な手数は必要ないのではないかといふことに重ね、始末に終へぬ水準で谷川彩も関本真矢も独白がたどたどしくて清々しく頂けない。女学生の書いた惰弱な詩のやうな代物をしかも甚だ直截にいへば下手糞に振り回されては、映画が完全に壊れてしまふ。次作にして盟友・林由美香の遺作「ミスピーチ 巨乳は桃の甘み」にあつては、性込みの女映画は女映画ながらに王道の娯楽映画をモノにしてみせた吉行由実も、今回は派手に仕出かしてしまつたと首を横に振らざるを得ない。原題は最高なのだが、感傷的であることは兎も角大体メロンソーダが小道具として登場する訳では別にない、チリドッグも。

 ところでウィキペディアのさとう樹菜子の項には、何故か出演作として今作の名前も並ぶものの、自信を持つて断言するが出て来はしない。


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