真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ブラとパンティ 変態がいつぱい」(2021/制作:YELLOW COUPLE PICTURES/提供:オーピー映画/『愛は無限大』 監督・脚本・編集:鳴瀬聖人/撮影:中條航/照明:山田拓実/録音:古茂田耕吉/美術:畠智哉/ヘアメイク:ビューティ☆佐口/助監督:横山ひろと/音楽:ありしまこれすけ/整音:中村未来/撮影助手:松園健・佐々木皓大/美術助手:濱崎菜衣/ヘアメイク助手:鈴木愛/協力:浅木大・松田慎介/美術協力:レオーネ/ロケ協力:Pickles Studio・RENTAL STUDIO CLUB HOUSE・カプリ徳丸・Dining & Bar KITSUNE/出演:川北メイサ・天音ゆい・長野こうへい・亀岡孝洋・松本卓也・ケイチャン・春園幸宏・三木一輝・はぎのー・前橋佑樹・小林敏和・唐澤一路・高宮隼人・前澤裕子・佐野加奈・ぶんた⦅柴犬⦆・アベラヒデノブ⦅声の出演⦆/『春つぽい感じで』 監督・脚本・編集:近藤啓介/撮影:荻原脩/照明:堅木直之/録音:中村未来/ヘアメイク:ビューティ☆佐口/助監督:石田義弘/音楽:ICHIRO MIKI/効果:服部俊/撮影助手:松浦凌太郎/照明助手:新甫悠祐/ロケコーディネート:Kazuki/協力:篠塚寿代・向井達也/ロケ協力:恵比蔵・She Knows...・HOTEL SK PLAZA/出演:新村あかり・二葉エマ・函波窓・増田朋弥・伊藤ももこ・小山悠・青矢修・下條麻奈・橘さり・水原睦実・高松未夢・豊岡んみ・郷田彩香・Kazuki・ひと:みちゃん・小村昌士/プロデューサー:名取佳輝/スチール:橋本沙也加/制作協力:YAMATON PRODUCTION/主題歌:『あだると』作詞:はなぢまみれ 作曲:初恋)。出演者中、春園幸宏から柴犬までと、青矢修からひと:みちゃんまでは本篇クレジットのみ。といふか、箍のトッ外れた情報量を、瞬間的な一枚絵で放り込むぞんざい極まりないクレジットに関しては、潔く外王で円盤を借りて来て翻刻した。それでも、エンド・ロール分の尺を十分に費やしてゐる費やせてゐるのもあり、ピンク版とは塩梅が根本的に異なるのだが、希望的観測で情報自体に差分はなからう、多分。
 スーパーマンのテーマは、何時パブリックドメインになつたんだ?観てゐて無駄に冷や冷やさせられる、キナ臭い劇伴鳴らして全体題タイトル開巻。何が映つてゐるのか暫し判然としない、陥没乳首の極接写にビリング頭から亀岡孝洋までと、鳴瀬聖人のクレジットを先行させた上で、ブラジャーを着けたお胸に「愛は無限大」を改めて副題・イン。あれか、坂本龍一がデ・パルマに乞はれて渋々書いた、ボレリッシュみたいなものか。
 店長(亀岡)からの電話で起こされた、遅刻癖のある下着店店員のマコ(川北)は慌ててブラウスの前も留めないまゝ出勤。先輩で片想ひするコウタ(長野)以下、一同の度肝を抜く。ピンク的には横山(翔一)組からの初外征となる長野こうへいが、鳴瀬聖人とは三度目の顔合はせ。マコが思ひきり御膳を据ゑて下さつてゐるにも関らず、幼少期も幼少期の乳児―は人形で誤魔化す―時。授乳中の母親(川北メイサの二役)が寝落ちたため乳房で窒息しかけたとかいふ、方便臭いトラウマを拗らせるコウタは激しく二の足を踏む。一方、傍で見てゐてバッレバレの店長と、コウタに模された要はダッチハズバンドの過程で自我に目覚めたマネキン(の声がアベラヒデノブ)が、マコに対する岡惚れで共闘。店長がDIYで独自に開発した、人間の意識を有機無機すら問はず任意の物体に移す、へべれけなトンデモ装置でコウタをエブエブを先取りしたセンスの、後付けの目玉で喜怒哀楽を表す黄色いブラジャーに変へてしまふ。第一話配役残り、ケイチャンは店長宅に忍び込む、伝統的な造形のコソ泥。タモリならぬブラコウタを往来に放つ狂言回し、“ブラ”の意味が違ふ。天音ゆいは、Cカップを貧乳扱ひするキャスティングには些かならず抵抗も禁じ得ない、マコの妹・ユリ。真中卓也、もとい松本卓也は、一欠片たりとていゝところの見当たらない、ユリのクソ彼氏・モトキ。「最強殺し屋伝説国岡」シリーズ(監督:阪元裕吾)に於ける、国岡の盟友・真中がピンクに飛び込んで来て呉れるのは大いに嬉しい反面、どうもこの人役に恵まれない。本クレのみ隊は、主に店員の数が多すぎる気がする店内要員。犬が何処に出て来たのかは忘れた、ブラコウタのプチ冒険の過程かいな。
 窓際の灰皿に、「春つぽい感じで」副題・イン。“カリスマ”“カリスマ”敬称抜きで皆から呼ばれる、冗談みたいな美容師の神野(函波)は落とした煙草を拾はうとして、元同居人が残して行つたパンティを見つける。掻い摘むほどの物語もないゆゑ、サクサク第二話配役残り。小山悠は、店のイントロ的にカットされがてら神野と会話を交す客・島本。以降吉行由実作に継戦する二葉エマは、神野が任される店の新人美容師・ヒトミ。ピンク映画前作にして初陣、後藤大輔の「牝と淫獣 お尻でクラクラ」(2019/原作・音楽・アニメーション:大場一魅/主演:和田光沙)なんて正直全然覚えてゐない新村あかりが、神野と一緒に暮らすミツコ。伊藤ももこは髪質云々の客・金崎で、「淫美談 アノコノシタタリ」(2019/脚本・監督:角田恭弥/主演:なつめ愛莉)男主役の増田朋弥が、リモコンバイブでヒトミから責められる神野に、前髪をザックリ行かれる三井、眼鏡の有無で大分印象が変る。小村昌士は、ナンパしてホテルに連れ込んだミツコに、第三関節から指を食ひ千切られる男・小村、ヒムセルフでもないのに。本クレのみ隊は矢張り主に店内要員、ひと:みちゃんは侍らしいけれど、ピンクには出て来ない。
 すつかり名前を聞かないが、新作が一応動いてはゐるらしき鳴瀬聖人と、テレビないし配信畑で順調に仕事をしてゐる模様の近藤啓介による、要は今や懐かしの、オムニバス形式で新人が合同デビューを果たす令和の「いんらんな女神たち」。何のものの弾みで、外様同士にこの形で初土俵を踏ませたのかは知らないが、一応組み合はせ的には、二十一世紀の若者にしては旧態依然としたミソジニーが渡辺護と大差なく、かといつて技術的には渡辺護よりも確実にクッソど下手糞な堂ノ本敬太同様、大阪芸術大学出身といふのがこの二人―に限らずスタッフ・キャスト共々わんさか―の共通項。大学なんて所詮入学年次次第ではあれ、年齢的には近藤啓介と鳴瀬聖人、一番若い堂ノ本敬太(1997年生)の順で二つづつ離れてゐる。「いんらんな女神たち」を振り返るにEJDと、永井卓爾は事実上工藤雅典の専属で未だか相変らず助監督の座に留まつてゐる以外、結局、少なくともあるいは狭義のピンク映画監督としては、墓標が六つ並んだばかりではあつた。
 牽強付会気味の繰言はさて措き、呆れ果てついでに一言で片づけると、ブラジャーの意匠と無限大“∞”とを重ね合はせる。その瞬間、確かに弾けはした映画的なカタルシスを除けば1mmも面白くはないものの、娯楽活劇の体を最低限成してゐなくもなかつた鳴瀬聖人より、近藤啓介の方が箸にも棒にもかゝらずまるで詰まらなかつたのは、その後の活躍も見据ゑるとある意味予想外。活動ならばまだしも、鳴瀬聖人が別に活躍はしてゐない。単なる雇はれ店長に過ぎないやうな気も否み難い、カリスマ美容師(笑)が一つ屋根の下で五年寝食をともにした同棲相手がゐるにも関らず、新人美容師との甘美かつ苛烈なSMプレイに溺れる、藪から棒に。観客の股間含め、幾らでも膨らませられさうなお話の割に、端的に脆弱な俳優部と、今一今二今三・・・今五くらゐ攻め込めない演出部。比較的健闘する撮影部が、下手に映画の色で撮つてゐるのが却つて癪に障る、木に竹を接いだ中途半端な狂気は生煮えるか堂々巡るのが関の山。振り返ると案外生真面目にブラジャーで一本お話を構築してみせた鳴瀬聖人に対し、頂戴した筈の、パンティといふ御題をほぼほぼ等閑視してのける、藤啓介の豪快か大概さには畏れ入つた、大蔵こゝは流石に怒つていゝぞ。「春つぽい感じで」で唯一琴線に触れたのが、放逐したミツコが部屋に遺して行つた、いはば忘れ形見のパンティを、神野が売つ払つた父親のガチ形見の腕時計と同じ直し場所に仕舞ふ。そこだけ抽出するならば、スマートに設計されたラスト。さうはいへ本丸が伽藍堂である以上、所詮は花咲くどころか芽吹きもしない枝葉ではある。裸映画的には西村善廣に見えて仕方ない、亀岡孝洋の不用意なといふか、全く以て不要な自己主張が姦しすぎて川北メイサの、折角のオッパイは完全に持ち腐れ。薔薇族でもあるまいし、濡れ場はひとまづ女優部のものと俳優部のみならず、演出部も弁へて欲しい。一方近藤啓介は近藤啓介で、煩瑣なカット割りが甚だ鼻持ちならぬ。裸と映画を秤にかけて、映画を取る手合いは国映勢でとうに見飽きた。上手に撮れるのを、第一義的に観に来てゐる訳では必ずしもないのね。これで、さうなると公開題から弄る必要が生じるのかも知れないが、順番を前後して“パンティとブラ”であつたなら。案外、スカッと小屋を後に出来たのかも、なんて、思ひかけてはみたけれど。近藤啓介が荒廃させた焼野原に、鳴瀬聖人のレス・ザン・中身が火に油を注ぐ、一層埒が明かない惨状のビジョンが見えもしたのは気の所為か。


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