真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「姉妹OL 抱きしめたい」(2001/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:田尻裕司/脚本:西田直子/企画:朝倉大介/撮影:飯岡聖英/撮影助手:板倉陽子・斎藤徳暁/助監督:大西裕・管公平/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/現像:東映化学/スチール:稲葉輝矢/協力:朝尾賀子・石川二郎・今岡信治・落合一衡・草野未有・小泉剛・斉藤一男・佐々木直也・茶園佑記・宮地香奈・シーズクリエイティブ/応援:伊藤一平・菅沼隆・永井卓爾・堀禎一/出演:野村貴浩・松原正隆・伊藤猛・佐藤幹雄・伊賀哲也・金井悦子・中川真緒・足立建夫・乱孝寿)。何か違和感を覚えたのが、個人は五十音順に並ぶ協力の、朝生でなく朝尾賀子は本篇クレジットまゝ。
 開口もとい開巻一番、金井悦子がいきなり、後背位で挿される。結果的にアバンを潔く一幕・アンド・アウェイで駆け抜ける、男優部絡み要員は佐藤幹雄。男が果てると、女は余韻も漂はせず即ベッドを離れる。チャットでなく、直電で二度目―以降―の逢瀬を望む男に対し、金井悦子は生返事。ハンドルが金魚の所以に関しては、飼つてるからと答へる。カット根も乾かぬうちに、大内葉子(金井)がフィーチャーフォンから佐藤幹雄の番号を消去した、往来のロングにタイトル・イン。件の金魚がフィジカルを飼育するのではなく、2001年水準にせよこれはなく映る、原初的なクオリティのCGが泳ぐのを眺めて葉子が自分の時間を愉しむ、今となつては謎めいた風俗に軽くわだかまる。
 葉子の実家である、深夜の大内家。砂嵐を吐くテレビの手前で、母・清子(乱)が飲んでゐる。翌朝、父親の健次(足立)が目覚めると、家内に清子の姿はなかつた。共働きの夫・達郎(野村)と暮らす、葉子の妹で玩具会社に勤務する香(中川)のアパートに、家を出て来た清子が現れる。健次からの電話に香が清子は来てゐないと嘘をつく一方、健次も健次で、忘れ物を取りに帰宅したところ家が無人と茶を濁す。職場の編集プロダクション「飯島出版」に健次からかゝつて来た、電話をにべもなく切つた葉子は、次なるハンドルにネオンテトラを見繕ふ。そんな最中、念願叶つての企画部異動を香が喜んだのも束の間、会社を辞め田舎で農業をやりたいだとか、達郎はありがちか漠然とした寝耳に水を差す。
 配役残り、この人意外と髪型が安定しない伊藤猛は、葉子の上司で元不倫相手のクガ。葉子をランチに誘ふ、女の同僚は手も足も出せず不明。未だスマホのない時代ゆゑ、にしても昼休みに職場のPCで2ショットチャットの「ラブネット.COM」を開く、葉子の大概無防備な行動もどうかとしか思へないが、それはさて措き松原正隆は葉子がネオンテトラでオフる、ケントこと藤川タケヒサ。一夜限りの関係を頑強に宗とする、葉子改め今度はエンゼルフィッシュと、藤川がたけしの名前で図つた再会。大勢の行き交ふランデブー地点、顔の横に差し出した「KENT」の箱で、名乗るメソッドが河島英五の次の次くらゐにダサくて七転八倒の悶絶必至。伊賀哲也は、入れた小銭を吸ひ込んだ、酒の自販機に殴る蹴るする図体のデカい輩。あと清子が蕎麦を食べてゐる店から、出て行く男が多分今岡信治。そんな風に、そこかしこ誰かしら見切れてゐるのかも知れない。軽く結論を先走ると、劇中葉子が使用するハンドルが、順に金魚とネオンテトラにエンゼルフィッシュ。ワンナイトラブに固執する意固地を拗らせてゐる風を、あへていふならば装ひながら。其処には何処かに、見つけて貰ひたい捜し出して欲しい屈折した惰弱さが、矢張り見え隠れしまいか。
 乱孝寿最後の濡れ場、といふ判り易く且つ歴史的なトピックの陰で、野村貴浩のピンク筆下しも兼ねてゐる田尻裕司2001年第二作で国映大戦第四十九戦。田尻裕司的には、通算第五作。
 老母の出奔を契機に、二組の夫婦と刹那的な男漁りに明け暮れる主人公の立ち位置とが揺らぐ、所謂よくある話。一見、自己中心的で冷淡な葉子の造形をこれ見よがしか悪し様に描くのは、一種のミスリーディング。家庭をまるで顧みない夫との関係に疲れ、酒に浸つた実相を家族の中で長女にのみ見せてゐた。即ち、詰まるところ葉子を壊した清子こそ、今でいふ毒親である真相が観客には提示されつつ、展開の中で決して満足に消化か昇華される訳でもない、土台根本的もしくは構造的なアキレス腱に加へ。逆の意味で見事なのが、揃ひも揃つて全員自堕落な主人公とその親族一同。ビリング順に、へべれけにモラトリアムな癖して、妻には何気に高圧的な妹婿。自宅の表でうづくまつてゐた女に、葉子が心配して声をかけてみると泥酔した実の母だつた。割と衝撃的な対面を果たしてなほ、日課のラブネット巡りは欠かさない。即ち、アルコール中毒の母親に劣るとも勝らず、出会ひ系依存症の姉。腐れ配偶者に毅然とした対応のとれない妹と、自らを省みる、術すら恐らく持たず、都合が悪くなると都合よく昏倒する父親。全うな人間が一人も見当たらない、実は壮絶なホームドラマがハッピーエンドに辿り着くだなどと、それは確かに至難の業。藤川に本名を渡す、踏ん切りをつけた葉子は、まだしも新しい一歩を明確に踏み出す。尤も両親に関しては恐らく治療を要する筈の、清子のアル中に関してはスカッと等閑視。健次も別に、甚だしく鈍い呑気ぶりから何も変つてはゐない。夢見た玩具作りと、山梨に移り住む夫。困難な二者択一を迫られた香が、車を出す男と踵を返す女の、ソリッドな別れで答へを出せたかに一旦思はせ、どうやら、最終的にはそれも怪しくなつて来る模様。香はケリをつけられず、達郎は元々身勝手なばかり。ヒロインが開ければ最低限の形にはならうかともいへ、熟年の大内夫妻ともども、互ひに幼い妹夫婦が何れも甚だ覚束ない。雨は降れど地は固まらず、まだまだ全然ぬかるんだまんま。端から目指してもゐなささうだが、斯様に無様なザマで、物語が心地よく着地する訳もなく。
 裸映画的には相方の固定される、二番手が逆の意味で綺麗に出し惜しまれるか持ち腐らされる反面、金井悦子は序盤中盤と十二分に脱ぎ倒し、絡み倒し、はするものの。挙句結局抜け損なふのも兎も角、ドラマの進行に尺を削がれる形で、終盤は寧ろ完全に沈黙。代つて乱孝寿最終戦で、締めを賄ふメモリアルな気概、と行きたい、あるいは行きかける行きかねない、ところではあつたのだけれど。それならば全体何処から拾つて来たのか、どうもカメラの前よりも主戦場は板の上ぽいスポット参戦の馬の骨でなく、そもそもガミさんなり久保チンを健次役に連れて来ない辺りに、量産型裸映画が塵芥を盛大に積もらせた大山と、誠実に向き合ふ意識も所詮窺へず。要は必ずしも乱孝寿でなくとも、脱いで呉れる同世代の女優部であれば別に誰でもよかつたにさうゐない。破格ならぬ、端額のギャラで。何よりガチのマジで怒髪冠を衝いたのが、伊賀哲也との―こゝは手放しで心温まる―ファンタジックな酒盛り経て、清子が往来に停められた、まづ他人のママチャリを戯れに漕ぎ遊んで、ゐると。ストッパーがかゝつてゐなかつたスタンドが外れるのみならず、施錠すらされてゐなかつたらしく、期せずしてチャリンコが走り始める件。日常的はおろか正しく飲んだ直後の飲酒運転で、清子が―満足に扱へもしない―盗んだチャリで繁華街を危なかしく右往左往するシークエンスが言語道断。偶さかな解放感ないし多幸感でも表したかつたのか、よもや表したつもりならば笑止千万、万死に値する。八ヶ月待たされて漸くベルトクロスが納車した、自転車乗りとして渾身の言葉を選ぶと、息するのやめれBBA。犯罪的なハイライトが映画を木端微塵に爆散する、国映大戦史上最悪の惨劇。といふか、正真正銘の犯罪でしかない。きちんと乗らないか乗れないならチャリンコ乗んな、歩けボケ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )