真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「夜の研修生 彼女の秘めごと」(2021/制作:鯨屋商店/提供:オーピー映画/監督:小関裕次郎/脚本:深澤浩子・小関裕次郎/撮影監督:創優和/録音:山口勉/助監督:江尻大/音楽:與語一平/編集:鷹野朋子/整音:大塚学/監督助手:高木翔/撮影助手:岡村浩代・赤羽一真/録音助手:西田壮汰/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:望月元気・小園俊彦/出演:美谷朱里・竹内有紀・並木塔子・市川洋・安藤ヒロキオ・竹本泰志・なかみつせいじ・ほたる・折笠慎也・里見瑤子・鎌田一利・郡司博史・和田光沙・須藤未悠・森羅万象)。出演者中、鎌田一利から須藤未悠までは本篇クレジットのみ。
 波止場に何となく佇む主演女優が、三本柱のクレジット起動に続いてママチャリを漕ぎ始める。画面左奥に走り行く、空いた空間にタイトル・イン。上の句に於ける、“夜の研修生”といふのがヒロインを指す訳ではないどころか、女ですらない案外豪快な公開題。
 駒井未帆(美谷)が向かつた先は、幼馴染の両親が営むラーメン屋。大将である鈴木三郎(なかみつ)と―少なくとも娘が禁じてゐる―酒を飲む、父の吉次(森羅)に美帆は角を生やす。こゝでほたる(ex.葉月螢)が、三郎の妻・エツ。この人の新作参加が思ひのほか久し振り、実際の時間経過より随分昔にも何となく思へる、涼川絢音の引退作「再会の浜辺 後悔と寝た女」(2018/脚本・監督:山内大輔)以来。往来から美帆がチャリンコの呼鈴で呼び出す、当の幼馴染・櫂人(市川)が出向いた先が予想外の駒井家戸建。携帯で呼べばよくね?だなどと、潤ひを欠いたツッコミを懐くのは吝かの方向で、つか実家かよ。三人の親達―未帆の母は幼少時に死去―が公認する事実上の婚前交渉的な、濡れ場初戦。モッチモチに悩ましい美谷朱里のオッパイを決して蔑ろにしはしない、小関裕次郎の生え抜きらしい堅実が頼もしい。濡れ場は、頼もしいんだけど。鯖缶工場での働きが認められ社員起用、東京本社での研修が決まつた櫂人を、駅やバス停でなければ、海空問はず港でもなく。美帆が何故か、海辺から送り出す何気に奇異なシークエンス。何てのかな、もう少しナチュラルな映画は撮れないのか。この辺り、小関裕次郎がデビュー三年目にして早くも、それらしきロケーションを用立てる手間暇を端折つて済ます、大師匠筋と看做した場合の語弊の有無は兎も角、今上御大の天衣無縫な無頓着・イズイズムを継承して、しまつてゐる感の漂はなくもない。
 配役残り、一同一絡げに投入される、ビリング順に並木塔子と竹本泰志に折笠慎也、あと鎌田一利から須藤未悠までの本クレのみ隊は、櫂人が一年間厄介になる―予定であつた―本社営業部の野島礼香と営業部長である池井戸雅也に遠藤、とその他頭数。休みの取れた美帆が上京して櫂人の下に遊びに行く、ウッキウキの予定を立てた途端、放埓な不摂生の祟つた吉次が深刻に昏倒。馬鹿デカいウェリントンとナード造形が気持ち井尻鯛みたいな安藤ヒロキオは、駒井家に通ふ往診医の原田良雄。礼香と池井戸の社内不倫を、櫂人が目撃。する件もする件で、一緒に外回りに出る筈の遠藤に、別件の電話が入る。なので一人で先に出る形になつた櫂人が、会議室のドアを開ける意味が判らないのだが、ロッカーでも兼ねてゐるのか。プリミティブなツッコミ処はさて措き、後日据膳に箸をつけず―池井戸との関係を―終らせても忘れさせても呉れなかつた、櫂人に礼香が拗らせる悪意を火種に、池井戸の姦計で櫂人は横領の濡れ衣を着せられ解雇。自由気儘な会社だなといふ顛末のぞんざいさもさて措き、竹内有紀は失意の櫂人に対する文字通り拾ふ神、離婚したての木下笑子。慰謝料代りの、持ち家に櫂人を転がり込ませる。
 OP PICTURES+フェス2022に於いて第六作がフェス先行で上映されてゐるのが、フェス先ならぬフェス限になるまいか軽く心配な、小関裕次郎通算第四作。何せ今や月に封切られるのが一本きりゆゑ、R15+で下手にまとめて先走られると渋滞を強ひられるピンクが追ひ駆けるのにも苦労する、映画の中身とはまた次元の異なつた、現象論レベルでの本末転倒。どうも昨今、我ながら憎まれ口しか叩いてゐない風にも思へるのは気の所為かな。
 都会と海町に離ればなれNo No Baby、遠距離恋愛を描いた一篇。に、してはだな。吉次が担ぎ込まれた病院から、憔悴しきつてとりあへず帰宅した美帆を、東京にゐる筈の櫂人が待つてゐたりしてのあり得ない甘い一夜。を、美帆の―この時点で櫂人は吉次のプチ危篤を知らない―淫夢なのか有難く膨らませたイマジンなのか、満足にも何も、一切回収しない大概な荒業にはグルッと一周して畏れ入つた。尺の大半を無挙動回想が何時の間にか占めてゐたりする、関根和美に劣るとも勝らない驚天動地、凄まじい映画撮りやがる。特に面白くも楽しくもないものの、絡み込みで丁寧な作りではあつたのが、箆棒な初手で足ごと吹き飛ぶ勢ひで躓き始めるや逆向きに猛加速、逆噴射ともいふ。背景に東京タワーを背負つた、櫂人が礼香に所謂“女に恥”をかゝせる一幕。最初は雪でも降つてゐるのかと目を疑つた、余光の浮き倒す節穴にも明らかな低画質も果たして激しく如何なものか。恐らく、他のパートとは異なる―簡易な―機材で撮つてゐたのではなからうか。そし、て。限りなく三番手にしか映らない、二番手の第一声。流れ的には当然社宅も追ひ出され、仕事どころか住む家すら失ひ、橋の上にて見るから危なかしい佇まひで黄昏る、櫂人にかけた言葉が「こゝぢや死ねないよ」。幾らある程度より踏み込んだ判り易さが、プログラム・ピクチャーにとつて一つの肝にせよ。深澤浩子と小関裕次郎、何れの仕業か知らないが令和の世に、斯くも使ひ古された台詞書いてみせて恥づかしくはないのか。等々、云々かんぬん。これだけ言ひ募つて、まだ止(とど)めに触れてゐないのが今作の恐ろしさ、とうに致命傷は負つてゐるといふのに。亡骸の四肢をバラバラに損壊する驚愕の超展開が、選りにも選つて一時間も跨いだ土壇場通り越して瀬戸際でオッ始まつた、締めの濡れ場。を介錯するのが市川洋ではなく、よもやまさかのEJDライクな安藤ヒロキオ。さうなると確かにその時々は藪蛇としか思へなかつた、闇雲な原田フィーチャが力づくで回収されてはゐるともいへ、「櫂人ぢやないんだ!?」と突発的に発生したスクランブルなスリリングに、もしやKSUは2021年当時フィルモグラフィの、半数でパイロットをブッ放すつもりかと本気で狼狽した。十年くらゐ前、実は既に貰つてゐた指輪を櫂人に返した美帆が、勝手に吹つ切れて新たな人生を歩き始めるラストは木に首途を接いだ印象を否めず、ついでで美帆が小学四年の時に亡くなつた、亡母・トキコの遺影役とされる里見瑤子がピンクには影も形も出て来ない。大分長いタス版が如何なる帰結を辿つてゐるのか、知らない以前に興味もないが、七十分を費やしてなほ話を満足に形成さしめ損なふやうな心許ない体たらくでは、小関裕次郎の量産型裸映画作家としての資質も、俄かか本格的に疑はざるを得ない消極的な問題作。竹洞哲也に似たコケ方を小関裕次郎がしてゐるやうだと、とんと名前さへ見聞きしない小山悟が発見されるか森山茂雄―が真の切札、最強の―が蘇りでもしない限り、本隊を守る今世紀デビューのサラブレッドが、加藤義一唯一人となつてしまふ流石に怪しいか厳しい雲行き。と、いふか。えゝと、お・・・・小川隆史とか、な・・・・中川大資(;´Д`)


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