真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美人妻 薄毛の柔肌」(1993『快感ONANIE 新妻篇』の1999年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:佐藤寿保/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:北本剛/撮影助手:飯岡聖英・柳田裕男・寺田緑郎/照明助手:一色嘉伸/スチール:西本敦夫/録音:中村半次郎/効果:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:浅井理恵・芹沢里緒・浅野桃里・今泉浩一・杉本まこと・川崎浩幸・紀野真人)。出演者中今泉浩一がポスターでは何故か今泉浩一郎なのと、川崎浩幸も川崎季如。いい機会なので整理するとex.川崎季如が川崎浩幸で、ex.川崎浩幸がかな化したかわさきひろゆき。
 照明が見るから煽情的に赤い、オナニーのイメージ風濡れ場で豪快に開巻。「ねえ貴方どうして、どうしてこんなことさせるの」、「どうして抱いて下さらないの」と血を吐くやうな独白に続き、突つ込まれたバイブで果てた浅井理恵が「何時か王子様が」とか言ひ出すに及んで吉行由実かよ!と度肝を抜かれかけたが、「なんて思つてゐた訳ではなかつた」と即座に軟着陸。「でも男を知らないまゝ処女を喪失するなんて誰が想像しただらうか」、と基本設定を手短に開陳してタイトル・イン。住宅地遠影にクレジット起動、倉田か蔵田高弘(紀野)が、帰りの予定を尋ねる妻・玲子(浅井)の問ひかけにも答へず陰鬱に出勤する。
 見合結婚半年、ジョイトイで弄られるばかりの夫婦生活と、心通はない夫婦関係に心を痛める玲子は、結婚を祝した寄せ書きを破り捨て改めて自発的オナニーをオッ始める。配役残り杉本まことは、その最中倉田家のチャイムを鳴らす訪問アンケート収集員。用紙だけ渡して立ち去るでなく、玄関口で夫婦に関する質問を聞き取る光景には、かつては果たしてこのやうな質問調査が行はれてゐたのかと巨大な疑問符しか浮かばないが、兎も角対照的な青の照明で判り易く突入する、玲子のイマジンを介錯する。高弘が浅野桃里と今泉浩一のアダルトビデオでも見てゐるのかと思ひきや、まさかのライブ映像で、しかも直ぐに直で見られる隣室であつた。芹沢里緒が独身時代から高弘が通ふ、客の望む快感を誂へる旨を謳ふコーディネイトサロン「パピヨン」の女主人・繭月真由美、浅野桃里と今泉浩一がスタッフ。今泉浩一はケンジ、浅野桃里の固有名詞は呼称されない。川崎浩幸は、教育ママには真由美が扮する園児プレイに戯れる男、下の名前だけなら学か勉辺り。一見無駄な枝葉を繁らせるにも思はせて、一応真由美が述懐する男も女も色々に貢献する。最後に、玲子がノーパンで出撃する新宿散歩。玲子と歩道橋で擦れ違ふ男の後姿が、どうにも今岡信治に見える。
 国映大戦番外篇、国映作ではないものの佐藤寿保がex.DMMの中に唯一未見で残つてゐた、1993年第三作。いや、矢張り獅子プロの買取系ロマポがもう一本あつた。
 佐藤寿保とはいへ脚本が五代響子(現:暁子)なだけに、無論勿論論を俟たず、サイバー乃至スラッシュな方向に物語が振れてみせることなどなく。逆に下手に仕出かさない分、脇の締まつたソリッドな裸映画として綺麗に纏まつてゐる。生殺しを拗らせ徐々に暴走、更に加速して行く玲子と、巧妙にして大胆な姦計を巡らせる真由美。一人オッパイ部がゐればといふ細(さゝ)やかな不満も残さぬではないにせよ、ふんだん且つ濃密な女の裸を一欠片たりとて疎かにはしない上で、玲子を支配したつもりの高弘が、次第に二人の女に絡め取られて行く展開は綺麗に出来上がる。巴戦と隣室に於いて吹かれる尺八の並走を経て、大完遂を果たしてなほ飽き足らず独走する玲子が、遂に配偶者の倒錯した性的嗜好に辿り着き、そしてそれを受け容れるカットは、裸映画と素面の劇映画、双方のクライマックスたるに十二分な強度を漲らせる。元版新版共々ポスター図案にも採用される、結構高層階にも見えるがそれにしてもな浅井理恵の白昼ベランダ全裸オナニーは、通報されはしまいかと別の意味でもハラハラさせられるほどのド迫力。尤も元版ポスターに関しては些か画が寄り過ぎで、折角の決死が些か判り辛くはある。

 ところで、あるいは例によつて。“新妻篇”とされてゐるがそれでは他に“快感ONANIE”があるのかといふと、珍しくあるにはあるが何れも新東宝の、鈴木敬晴通算六と三分の一作「悶絶!快感ONANIE」(1991/主演:南野千夏)と、激越に観るなり見たい恐らく唯一の監督作「離婚妻快感ONANIE」(1992/監督・脚本・多分主演:下元史朗/撮影:下元哲)であつたりする。


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