真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「本番・衝撃の果て」(1990/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/演出:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/照明:高橋甚六/スチール撮影:最上義昌/助監督:高橋純/録音:銀座サウンド/編集:酒井正次/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/現像:東映化工/出演:川奈忍・香園寺忍・森みなみ・本郷猛・黒田武士・松本喜・岡本輝夫・鈴木富左夫・山本純)。
 タイトル開巻、俳優部限定のクレジットが続く。不甲斐なさを理由に、チンピラの光二(本郷)が女にヤサを追ひ出される。公園での光二の回想を通して、機嫌がよかつた頃の小夜子(香園寺)の濡れ場を暫し見せ、ビリングには違(たが)ひ香園寺忍の出番は最初で最後。といつて、後述する森みなみも二回戦までこなすといふだけで、何れも純然たる濡れ場要員であるのに変りはない。未練がましくマンションの部屋の前まで一旦戻り、結局当てもなく踵を返した光二は、凄まじく遠い画で隣のビルの屋上に、これ見よがしに―といつて殆ど見えないのだけれど―佇む女を発見。そのまゝ下りて来た階段を駆け上がつた光二が、どうやつてだから隣のビルの屋上に入つたのかは兎も角。スーサイドを止めようとした光二を痴漢扱ひし騒ぎ出した下田か霜田か志茂田陽子(川奈)は、光二がヤクザ者であるのを看て取ると報酬は一千万、期間は三ヶ月以内、手段は安楽死での殺人を出し抜けに依頼する。光二は兄貴分を介し、話を鬼頭興業の親分(黒田)に通す。金を受け取つた親分は光二に、実際に仕事をする気は一切ないことと、殺す相手といふのがほかならぬ陽子自身であることを告げる。居た堪れなくなり親分が出した百万も受け取らず陽子を追つた光二は、摩天楼に誘はれた後、陽子宅にて据膳を頂戴。事後、陽子は健康診断で発覚した、余命幾許もない旨を告白する。
 配役残り、三番手にしては十二分以上に美人な森みなみは、親分の情婦。問題が、松本喜以降の男優部に全く手も足も出ない。劇中登場するなり見切れるのは、旧居の玄関口で愚痴を垂れる光二に、文句をいふ隣家のパジャマ氏。そこそこいい男の光二の兄貴分と、将棋の相手。摩天楼のバーテンに光二をシメる四人組と、陽子を捜してゐた医師、と看護婦。そもそも頭数が合はないが、もしかするとパジャマ氏と医師は二役かも知れない。
 淡々と市村譲1990年第一作、心優しきアウトサイダーと、残り時間の限られた女が出会ふ。束の間白夜の如き蜜月を生きた二人は、瞬間的にせよ未来に向かつて動き出す。医師がお定まりの蓋を開けて以降も綺麗にテンプレ通り、よくある話が更によくある展開を辿る輝かしいまでに類型的な、ある意味実に量産型娯楽映画らしい一作ではある。尤も、本郷猛が何をいつてゐるのか方々で聞き取れない口跡はへべれけながら、ルックスがストレートな男前であるゆゑ川奈忍とのツー・ショットが綺麗に形になるキャスティングの勝利と、正直スッカスカの物語には六十分でも長過ぎる尺を、何れも余計な意匠を持ち込まず正攻法かつ丁寧に撮り上げた濡れ場で繋ぐ戦法は、ピンク映画のお家芸。一欠片の新味もないにせよ、何となくそれなりに見させる。冷静に検討してみると最初の光二・ミーツ・陽子の件の途轍もない遠さが僅かに、市村譲らしい紙一重を超えて前衛性の領域にすら突入しかねないバイオレントな無頓着。単に壊れてゐないに過ぎぬのではないかといふ疑問は強ひてさて措き、案外普通の映画であつたので当てが外れるといふのも、我ながら屈折するにもほどがある話ではある。

 もう一点、一昨日な見所がエンド・クレジット。効果までは別におかしくも何ともないものの、以降がサン企画・夢野春雄・Gプロ・市村譲と来て最後に東映化工、なかなか見たことのない斬新な順番である。忘れてた、本郷猛が折角披露する階段落ちが、半分開いた、といふかこの場合正確には半分しか開いてゐないドアに遮られ殆ど見えないのは、俳優部の見せ場を見事に殺すあんまりなチャーミング。


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