閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

干し柿の謎

2011-12-30 23:02:21 | 

「干し柿とくるみのプディング」を作りました。

このごろオーブン仕事はめったにしなくなったので、
(ほとんどレンジの「あたため」機能しか使っていない気が・・)
たまにやろうとすると、うろうろもたもたと手順が悪く、
ずいぶん余計な時間がかかってしまいます。

でも、年末にお正月用のケーキを焼くというのは、
なんとか絶滅を免れて残っている貴重な「マイ伝統行事」なので、
多少おっくうでも、そして、たとえ買ったほうが美味しかったとしても、
がんばって作ることに意義がある!
冬のいちばん寒いときに甘くて高カロリーのお菓子を食べるのは
たいそう理にかなったことでもあるし(言い訳・・笑)。

さて、この謎のお菓子については、
以前にも書いたことがあるのですが(→ここです
50年以上前のお菓子の本にのっていたレシピ。
これを紹介しているのはマーガレット・ガントレットさんという方で、
じつは、それも謎のひとつだったのです。

名前をみるとイギリスかアメリカの方かな、と思うのですが、
干し柿って、どう考えても日本(中国、韓国)のものですよね。
なぜわざわざ干し柿を?

・・と、半世紀にわたって(笑)不思議に思っていたところ、
しばらく前に、知人から中東のデーツ(ナツメヤシの実)をいただき、
食べ方をいろいろ調べているうちに、
「デーツとくるみのプディング」
というものに行き当たり、そこで、はたと気がついた。

もしかして、干し柿は、デーツの代用だったのではないかしら?
どちらも甘くて、レーズンのような酸味はなく、食感もかなり近い感じ。
うん、これは「デーツとくるみ」の日本版に違いない。

ナツメヤシはエジプトや中東など暑い国の植物ですが、
イギリスにはかなり昔から輸入されていたものらしく、
デーツを使ったポピュラーなお菓子がいくつもあるようです。
(伝統的なクリスマスプディングにもたいてい入っているとか)

明治以降、宣教師や語学教師、外交官や技術者として
多くの欧米人が来日し、その奥さんたちが教えて、
日本の家庭に西洋料理が急速に広まった・・と聞いたことがあります。
異文化コミュニケーションに欠かせないのが「一緒に食べる」こと。
それがお菓子つくりなら、いっそう場が和むこと間違いなし。
事務レベルならぬ奥さんレベルのお料理外交、ですね。

でも、オーブンの普及の遅かった日本で、
欧米のお菓子を再現するのはなかなか大変だったでしょう。
クリームやカテージチーズなど、今ではどこでも売っている材料も、
都市部ならともかく、ちょっと田舎に行けば手に入らなかったり・・
レーズンは普通にあったと思うけど、デーツは難しかったかも。
そこで、代用として、干し柿。
イタリアの日本人がバーミセリを「素麺のつもりで」食すように、
イギリス人は干し柿を「デーツのつもりで」味わったのでしょう。
「材料として」使うところが、やはり外国の人ならではの発想です。


このお菓子の本には、焼き菓子を「天火なしで」作る工夫も
あちこちにみられます。
厚手の鉄のすき焼き鍋で焼くケーキ。
フライパンやせんべい焼き器で焼くクッキー。
あるいは、ラム酒がないとき何を使えばいいか、とか、
焦げたスポンジケーキ、ふくらまないシュー皮の救済法とか。
そして、ウェディングケーキもあれば「ふかし芋」もあるという、
驚異的なというか、むちゃくちゃな幅の広さにも、
都市と地方の格差の大きかった時代が感じとれます。

本の冒頭の「ご指導いたゞいた方々」の中に、
マーガレットさんは「オーエン・ガントレット氏令嬢」、
今田美奈子さんは「今田潔氏令夫人」というふうに列記されており、
それが女性の「肩書」であった時代・・
そうか、1958年の日本って、まだそんなだったんだなあ。

(「家庭で作れるケーキ300種」主婦の友社 昭和33年初版)

<追記>

上記の記事を書いてだいぶたってから、教えて下さる方があり、
マーガレットさんのことがわかりました。
お祖父さんのエドワード・ガントレット氏はウェールズ出身で、
宣教師として来日したのち英語教師となり、日本に帰化しました。
お祖母さんは恒さんといって、作曲家山田耕筰の姉にあたる人。
お父さんのオーエン氏は、英語教師で、フルート奏者。
お母さんは日本人。
なので、マーガレットさんにとっては、干柿は慣れ親しんだ
生まれ故郷の味、だったのですね。

この本が出版された翌年、マーガレットさんは、
英国のカレッジ進学を目前にして、19歳の若さで亡くなりました。
お写真を見ましたが、はにかんだ笑顔の可愛らしいお嬢さんでした。

 

<干し柿とくるみのプディング>

一見フルーツケーキ、食べるとねっとりしたお菓子。
ホイップクリームをかけて、と書いてありますが、
うちではもう、このままで。
(愛想のない写真でスミマセン。どうも料理写真は苦手なのだ・・)


さて、続けてもうひとつケーキを焼いておこう。
こちらは呼夜のお持ち帰り用にバターたっぷりフルーツパウンド。
大晦日の夜、お店を閉めてから電車に乗ってきて、
2日の初売りに間に合うように戻るって・・
なんともせわしないことですが、まあ商売繁盛が何より。
ガンバレ店長。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする