閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

風町再訪

2008-04-18 14:55:44 | 日々

いまの家に引っ越してくる前に住んでいた町を、
Mと22年ぶりにたずねてみました。

まずびっくり。電車の路線そのものが変わっていた。
乗換え駅で階段を「上る」はずが「下る」になっていた。
そして途中がほとんど地下鉄になっていた。

駅の改札を出ると、えっ? 本屋さんがある!
当時からすでに古い店で、おばちゃんがふたりでやっていて、
新刊が黄ばんでしまうまで棚に置いてあるような店だった。
それが全部そのまま。棚も雰囲気もそのまま。
さすがにレジのおばちゃんは違う人だったけれど、
あとはなんにも変わってない。

パン屋さん。果物屋さん。不動産屋さん。
見覚えのあるものと見知らぬものが混在する道をたどっていく。
猫をいっぱい飼っていた怪しいおじさんの屋敷はもうない。
それはもう絶対になくなっていると思っていた。
かわりに南欧風のデザインの小ぎれいな住宅が何軒も並ぶ。

こんなに細かったっけ?と言いながら路地を抜けると、
かつて住んでいたアパートが忽然とあらわれた。
外壁の色こそ変わったものの、そのままの形で。
「うわあ…まだあるんだ」「あったねえ…」
しばし口を開けて見上げる。

そのアパートの3階にMが住んでいて、
わたしはてっぺんの4階の部屋を借りて、
ライフの原稿用紙にミルキーウェイの万年筆で、
レース編みでもするようにちまちまとお話を書いていたのです。

いつも夕方に散歩がてら買い物に行った道を
思い出しながらひとつ先の駅まで
歩く。
「ここ、ざくろの木があった」とM。
そうそう、春には紫もくれんが咲いて。
夏には西洋あさがおのからむ垣根があって。
猫を拾ったのはこのへんだっけ?

途中でふと右を見る。
小さい踏切があって緑色の電車が通過する気がする。
その線路はすでに地下にもぐってしまい、
盛り上がった道に踏切の面影だけがうっすらとある。

駅前の商店街。
店は半分くらい入れ替わったようだけれど、
ごちゃごちゃとした道幅と賑わいは当時のまま。
角の八百屋さん。肉屋さん。路地の奥の魚屋さん。
ここは猫用のまぐろミンチを買いに来た店。
いまは魚はパックされてスーパー形式の店に変わっている。
「裏口にいつも野良猫がいたよねえ」
裏から出てみると、いたいた、ダンボールの上に1匹。
何代目の子孫だろう。よく太って人なつこい顔をしている。

見覚えのあるコーヒー店でひと休みしたあと、
すっかりきれいになった駅から電車に乗る。
電車はなめらかに走り出し、町はそのまま後に残る。
バイバイ。きっともう来ることはないでしょう。
ひとときのタイムマシンツアーでした。

コメント
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