弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

憲法前文第1段落第1文の解釈

2019-08-22 18:04:11 | 歴史・社会
日本国憲法前文の第1段落は4つの文からなります。ここではその中の第1文を取り上げます。
「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」
この文章には、述語とおぼしき語が5つ並んでいます。「行動し」「確保し」「決意し」「宣言し」「確定する」です。この5つが並列の述語なのか、それぞれが異なった位置づけにあるのか否か、その点が不明です。

日本国憲法には英語文があり、それも2種類あります。第1は占領軍が日本政府に提示したGHQ草案であり、この草案をもとに日本国憲法が作成されました。第2は、作成された日本語憲法の英語版です。
前文第1文のGHQ草案の英文は以下の通りです。
"We, the Japanese people, acting through our duly elected representatives in the National Diet, determined that we shall secure for ourselves and our posterity the fruits of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land, and resolved that never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government, do proclaim that sovereign power resides with the people and do firmly establish this Constitution."

英文との対比からわかることは、
「行動し」acting
「確保し」(確保することを決定)determined that we shall secure
「決意し」resolved
「宣言し」do proclaim
「確定する」do firmly establish
と、時制が異なることです。

私はずっと、"determined"と"resolved"は過去形だと思っていました。その点について『篠田英朗著「憲法学の病」』で疑問点をアップしたところ、著書の著者である篠田先生から直接コメントをいただくことができました。先生のご教示によると、憲法前文のうち、第一文のdeterminedとresolvedは過去形ではなく、過去分詞だということです。そして、we, (being) determined and resolved, do proclaim....という文章であると。

そうすると、第1文については、
We, the Japanese people,
acting  (修飾節)
(being) determined  (修飾節)
(being) resolved  (修飾節)
do proclaim  (述語)
do firmly establish   (述語)
という構文であると解釈することになります。

"(being) determined"について、受動態かな?と最初は思いました。そうすると、"We are determined" 「決心させられた」になってしまいます。
そこでネットで"determine" について調べたところ、《★また過去分詞で形容詞的に用いる; ⇒determined》とあり、"determined" には「I'm determined to go. どうしても行く決心である 」が載っていました。
そうすると、"We are resolved" も「〈…しようと〉決心して,断固として 〈to do〉」との解釈になるのですね。
目からうろこでした。

以上の準備の元、前文第1文を書き直すと、
「日本国民は、(主語)
正当に選挙された国会における代表者を通じて行動して、(修飾節)
われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする、との断固とした決心のもと、(修飾節)
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。(述語)」

これで、憲法前文第1文についての謎が解けたように思います。
篠田先生、ありがとうございました。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする