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篠田英朗著「憲法学の病」

2019-08-04 09:43:32 | 歴史・社会
篠田英朗著「憲法学の病」新潮新書

憲法9条と憲法前文について論じた本です。「はじめに」で
「憲法をガラパゴス的なものであるかのように感じさせているのは、憲法それ自体ではない。憲法を起草した者でもない。憲法制定時に中心にいた者でもない。
 憲法成立後に、憲法解釈を独占しようとした者である。
 つまり、憲法が“ガラパゴス”なのではなく、憲法学における通説が“ガラパゴス”なのである。
日本国憲法は、長年にわたって、日本国内の一部の社会的勢力の権威主義によって毒されてきた。」
とし、その根拠について説明している書籍です。

私も、憲法前文については何度もこのブログにアップしてきました。例えば、
憲法前文GHQ草案
第1段落 → 「日本国憲法前文(2)
第2段落 → 「日本国憲法前文(3)」(この部分は2012年12月に当時の自民党安倍総裁に意見を提出しました(日本国憲法前文・三たび))
第3段落 → 「日本国憲法前文(1)
青木高夫著「日本国憲法はどう生まれたか」

今回読んだ書籍も、とても示唆に富む内容です。ひょっとして、私が以前から抱いていた疑問に答えてくれているのではないか、とその点も期待したのですが、残念ながら直接の答えは記載されていませんでした。

書籍の裏表紙に、「本書へのご意見、ご感想をホームページにてお待ちしております。」として、新潮社愛読者ページが案内されていました。

そこでとりあえず、7月15日に、下記の2つの投書を当該ページにアップしてみました。

《投書1》
『憲法前文と9条について、本書によりはじめて、立法趣旨と条文文言解釈を基礎としての解説に接することができました。ありがとうございます。
憲法前文について、疑問に思ってきたことがあります。
憲法前文の英文(GHQ草案および日本語の英訳)を見ると、出現する動詞の時制は、ほとんどが現在形、過去形が2カ所あり、現在完了が1カ所のみです。そして、
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」の部分が"we have determined"であって現在完了形です。
この部分のみがなぜ、現在完了形になっているのでしょうか。
私は、既に過去に起きた事象、例えばポツダム宣言の受諾、を指しているのではないか、と想像しています。「平和を愛する諸国」が、大西洋憲章や国連憲章にいう"United Nations"を意味するのだとしたら、なおさらです。
そうだとしたら、この文章は単に過去の事実を述べているだけであり、憲法によって新たに規定された内容ではない可能性が高くなります。
この点について、本書に答えが書かれているのでは、と期待したのですが、ありませんでした。
この点がぜひ知りたいので、よろしくお願いいたします。』

《投書2》
『本書の124ページにおいて、
『「諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすること」という文章は、憲法制定の目的を記した部分だ。』
と解説されています。
憲法前文の英文(GHQ草案および日本語の英訳)を見ると、上記部分の動詞の時制は、過去形であることがわかります。そこでこの英文の情報を加味して上記文章をより正確に記述すると、
「諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢(と)を確保(すべきことを決定)し(た。)政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し(た。)」となります。
過去形ということは、この憲法制定前の過去の事象を説明しているだけ、と考えるのが自然であり、憲法制定の目的を記したとは読み取れません。
この点についてどのように考えるか、ぜひ教えてください。』

8月4日現在、私のメールアドレスには、上記投書に対するコメントは何らいただいておりません。とりあえず、私の投書内容について、このブログにアップしておきます。
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5 コメント

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東京外国語大学教授 (篠田英朗)
2019-08-09 08:46:45
偶然こちらのコメントを見ました。熱心にお読みいただき、ありがとうございます。著書でふれておくべき興味深い点であったかもしれません。前文は全て単純現在形が使われていますが、we have determined to preserve our security and existence, trusting in the justice and faith of the peace-loving peoples of the world. のところだけは現在完了形ですね。これはポツダム宣言受諾を受けて、憲法が制定されている時間の流れを意識したことと思われます。なお第一文のdeterminedとresolvedは、過去分詞で、Weにかかっているので、現在形です。メインの動詞はdo proclaimの長い一文の中の就職句を構成している過去分詞で、we, (being) determined and resolved, do proclaim....という文章です。
憲法前文の現在完了部分 (snaito)
2019-08-10 12:06:12
篠田先生、直接コメントいただき、ありがとうございます。

憲法前文の中の現在完了形の部分は、やはりポツダム宣言受諾を受けて、憲法が制定されている時間の流れを意識したものだったのですか。

しかし、そのような解釈について、私は今まで見たことがありません。そしてその結果、この部分は、憲法に関する最大の誤解の元となっています。

こちら
https://blog.goo.ne.jp/bongore789/e/9d21b6abfdeefc04fcf0518023190fbe
でも書いたように、2012年12月、当時の自民党安倍総裁の発言
『日本国憲法の前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書いてある。つまり、自分たちの安全を世界に任せますよと言っている。・・・
・・・いじましいんですね。みっともない憲法ですよ、はっきり言って。』
につながっています。

日本国の現総理がこのような誤解発言をしないためには、やはり学界から、この部分の解釈を憲法制定時のいきさつに基づいて発信していく必要があると思います。ぜひ篠田先生にお願いいたします。

先生からはさらに何点かのご指摘をいただいております。当方、お盆休みで孫一家が来訪していることから、ご指摘部分の勉強についてしばらくお時間を頂戴したく、お願いいたします。
前文第1文の過去形(過去分詞) (snaito)
2019-08-10 13:10:48
篠田先生

憲法前文のうち、第一文のdeterminedとresolvedは過去形ではなく、過去分詞なのですか。そして、we, (being) determined and resolved, do proclaim....という文章であると。

そうすると、第1文
"We, the Japanese people, acting through our duly elected representatives in the National Diet, determined that we shall secure for ourselves and our posterity the fruits of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land, and resolved that never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government, do proclaim that sovereign power resides with the people and do firmly establish this Constitution."
については、
We, the Japanese people,
acting  (修飾節)
(being) determined  (修飾節)
(being) resolved  (修飾節)
do proclaim  (述語)
do firmly establish   (述語)
という構文であると解釈するのですね。

"(being) determined"について、受動態かな?と最初は思いました。そうすると、"We are determined" 「決心させられた」になってしまいます。
そこでネットで"determine" について調べたところ、《★また過去分詞で形容詞的に用いる; ⇒determined》とあり、"determined" には「I'm determined to go. どうしても行く決心である 」が載っていました。これでしょうか。
そうすると、"We are resolved" も「〈…しようと〉決心して,断固として 〈to do〉」との解釈になるのですね。
目からうろこでした。

以上の準備の元、前文第1文を書き直すと、
「日本国民は、(主語)
正当に選挙された国会における代表者を通じて行動して、(修飾節)
われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする、との断固とした決心のもと、(修飾節)
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。(述語)」

これで、憲法前文第1文についての謎が解けたように思います。
篠田先生、ありがとうございました。

東京外国語大学教授 (篠田英朗)
2019-08-12 05:38:19
ポツダム宣言と憲法とのつながりについて、こちらをどうぞ。https://www.fsight.jp/articles/-/45646?fbclid=IwAR1Kco8IWB7qJovForF3VsjCFz59-jcnDCXKonASTJkj5BF5jJ2rs94cuYA
ポツダム・プロセスと憲法9条 (snaito)
2019-08-12 16:12:27
篠田先生
フォーサイトでの篠田先生のご発言『ホルムズ海峡から考える「ポツダム・プロセス」と「憲法9条」』をご紹介いただき、ありがとうございました。
フォーサイトの購読手続きを行った上で、拝読しました。
『平和構築の世界では、和平プロセスの仕組みは、紛争終結時に締結される和平合意に書き込んでおくのが最も標準的な考え方である。』
との基本スタンスの上で、
『「ポツダム・プロセス」履行措置としての憲法9条』
とする考えはとても勉強になりました。

さらには、「ポツダム・プロセスと憲法前文」という切り口での論述を、ぜひともお願いいたします。

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