弁理士の日々

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浜田宏一「アメリカは日本経済の復活を知っている」

2013-01-27 15:32:48 | 歴史・社会
浜田宏一氏は時の人となっています。
最近では、浜田氏の一言で、ドル円がピンと動いて円安を実現するほど、マーケットに影響力を及ぼしています。
それもこれも、安倍新政権が金融政策をアベノミクスの肝にすえ、浜田氏をアベノミクス推進のために内閣官房参与に招聘したからに他なりません。
その浜田氏の著作が1月8日に刊行になりました。
アメリカは日本経済の復活を知っている
浜田宏一
講談社
私は年末の段階からアマゾンに予約していたのですが、受け取ったのは1月12日になってからでした。

アベノミクスが推進する金融緩和がこれだけ為替相場と株式市況に大きな影響を与えることが明らかになった後の書籍発行ですから、てっきり、浜田氏が安倍政権と関係を持つようになった後の企画図書かと思っていました。
ところが、本のまえがきには以下のように記載されていました。
『奇しくも本書の最終校正中に、日頃から私の意見を理解してくださる自由民主党総裁・安倍晋三氏から国際電話がかかってきた。2012年12月16日の衆議院議員選挙で論点になる日銀の政策に関する質問であった。私は恐縮しながらも、「安倍先生の政見は、まったくもって正しいのです。自信を持って進んでください」とお答えしたが、その理由については本書で詳しく説明している。』
即ち、この本の執筆は、今回の政権交代とは関係なく企画され執筆されてきたのであり、たまたま本の発行日が極めてタイムリーになっただけのことであるようです。

さらに、本のあとがきによると、講談社の編集者である間淵隆氏と出合ったことから、この本の企画が始まったようです。浜田さんがそのときに考えていた書物の内容を話したところ、間淵氏から「それは、デフレ、円高の経済学で、専門家だけが読むものです。より広い読者のためには、その社会学を書いてください」と言われました。その結果できあがったのがこの本だとのことです。

私は昨年11月23日に「自民党安倍総裁の金融政策」として記事を書きました。そのなかで、1年前の「白川相場」について書いています。
『ところで、同じような状況はほんの半年前(平成12年3月)にもありました。日銀の白川総裁が「インフレのゴールを1%とする」と発言し、10兆円の追加緩和を発表しただけで、ドル円は83円まで円安となり、日経平均は1万円を超えました。私はこの現象を「白川相場」と呼ぶことにします。(日銀の10兆円金融緩和で為替レートは?民間事故調報告書・日銀と円安の進行
ただし白川相場は長続きせず、1ヶ月後にはしぼんでしまいました。
マスコミやエコノミストは、現在の安倍相場を批判するのであれば、半年前の白川相場が実は何だったのか、そしてその後も継続して追加緩和を行っているのに、なぜ市場は反応しなくなったのか、ということをきちっと検証してほしいです。
私が今の時点で疑っているのは、日銀は10兆円、さらに10兆円と追加緩和を重ねてきたことになっていますが、実態としてのマネーサプライは増えていないのではないか、ということです。一時的に増えても、短期国債しか購入していないからすぐに減ってしまうとか・・・。』

上記私の着目点と同じことを、浜田氏も着目していました。昨年3月の「白川相場」に着目して検証しているのです。
まず「まえがき」では
『「金融政策だけではデフレも円高も阻めない」--これが、経済学200年の歴史に背を向ける「日銀流理論」だ。
だが、2012年2月14日、日銀が1パーセントのインフレ「ゴール」を設定すると、たちまち株価は1000円高、円は4円安となった。はっきりと効果が認められたのだ。』と記しています。
ところが実際は、株高と円安は1ヶ月しか続かず、あっという間にもとの株安と円高に戻ってしまいました。なぜ白川相場はあっという間にしぼんでしまったのか。その点を浜田氏は著書の中で繰り返し語っています。2月14日の日銀政策変更が有効だったのは、それがうまく期待に働きかけたからだが、期待効果が有効に働くのは、期待がもっともらしい、信頼できるものでなければなりません。その後の総裁談話や講演の内容は、「金融緩和はデフレ脱却には効かないのです」というものでした。そしてその政策変更以降、日銀政策審議委員会は、買い入れ資産の5兆円増額を除いては、なんら金融緩和の具体的あるいは数量的な後押しをしなかった、といいます(同書33ページ)。

今回のアベノミクスの目的は、「デフレを脱却し、その後に経済成長を取り戻すこと」です。金融緩和によっでインフレ期待をかもしだし、まずは為替の円安と株高という結果を引き出すことはその入口に過ぎません。これから先、1年前の白川相場と同じように途中で尻すぼみに陥るのか、それとも力強くデフレを脱却して経済成長をとりもどすことができるのか、まだはっきりしません。少なくとも、金融緩和の本気度が試されるのは、次の日銀総裁が決まってからになるかのようです。
コメント
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