弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

審決取消訴訟の上告審での決定

2009-06-21 10:41:22 | 知的財産権
無効審判において、私が被請求人(特許権者)の代理人を務める案件がありました。審決は請求棄却でした。
審判請求人から審決取消訴訟が提起され、私が被告(特許権者)訴訟代理人を務め、判決は請求棄却でした(裁判所HP)。
この判決に対して、原告(審判請求人)から上告状と上告受理申立書が出されていました。先般、最高裁判所から「調書(決定)」が送られてきました。
「調書(決定)
裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定。
第1 主文
 1 本件上告を棄却する。
 2 本件を上告審として受理しない。
 3 上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。
第2 理由
 1 上告について
   民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の理由に限られるところ、本件上告理由は、理由の食い違いをいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する自由に該当しない。
 2 上告受理申立てについて
   本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。
   日付  裁判所書記官名」

折角の機会ですので、民訴法と対比しながら見ていきます。

《民訴法》
(上告の理由)
第312条1項 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2項 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。
 1号~6号の限定列挙(主に裁判の形式違反)
(上告裁判所による上告の却下等)
第317条2項  上告裁判所である最高裁判所は、上告の理由が明らかに第312条第1項及び第2項に規定する事由に該当しない場合には、決定で、上告を棄却することができる。
(上告受理の申立て)
第318条1項 最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(・・・)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。
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上告状、上告受理申立書において、上告人兼申立人の主張は、一口でいうと「進歩性の判断が誤っている」というものです。
まず、民訴法312条1項2項の「上告の理由」には該当し得ません。
問題は318条1項の「上告受理申立て理由」に該当するか否かです。条文を素直に解釈する限り、ちょっとやそっとの理由では受理されそうにありません。「法令の解釈に関する重要な事項を含む」には、広い意味で「特許法29条2項(進歩性)の解釈の誤り」も含みそうですが、その前に書かれた「判例違反その他の」がハードルを思いっきり高くしている印象があります。
今回、最高裁は「上告受理申立て理由なし」と判断しました。

そして、上告については、317条2項を適用して決定で上告を棄却、上告受理申立てについては318条1項の「決定で受理することができる」に対応して「決定で“受理しない”」としました。

317条2項の決定、318条1項の決定は、裁判所書記官による「調書」の形を取るのですね。

今回の最高裁の決定については、当方の主張を認めていただいた決定ですから、ありがたく承りました。

一方、審決取消訴訟に関する一般論でいうと、「どうも最高裁は門戸が狭すぎるのではないか」と危惧します。
特許庁での審判を経た後、裁判所での判断は知財高裁での裁判が第一審です。そしてその次の最後が最高裁となります。
前回、特許無効審判の今後でも述べたように、審決取消訴訟における知財高裁の第一審において技術の見誤りによる誤判断はある確率で発生すると私は見ています。このような状況下で最高裁の門戸が狭かったら、特許権者の運命は第一審の判断次第ということになります。私は「審決取消訴訟は三審制ではなく一審制である」との印象を持っているのです。
コメント (3)
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